石川県、石川県警察、KDDI、ローソンの4者は12月23日、行方不明者の捜索や事故発生時の初動対応などにAIドローンを活用する、警察活動の高度化に向けた「地域防災コンビニ」の実証を公開した。実証ではローソン七尾小島店の屋根に設置したSkydio X10が遠隔操作により現場まで移動し、警察の指示のもとで対応にあたった。本稿では、現地における実証の模様をお届けする。
実証の背景 - フェーズフリーなドローン活用の有効性
KDDIと石川県は10月、県内の地域活性化と令和6年能登半島地震からの創造的復興の推進を目的に連携協定を締結。この協定においては、平時と有事を区別せず、日常で使っている機体や機材を災害時にも利用する「フェーズフリー」でのデジタル技術活用が進められる。今回の実証はまさに、このフェーズフリーの理念に基づいて実施された。
KDDI 取締役執行役員常務 CDOの松田浩路氏は「災害発生時だけを想定して予算を組むのは難しい。自然災害など有事の際だけにドローンを使うのではなく、インフラ点検や地域の見守り、防犯など日常生活で利用するシステムを非常時に活用できることに意義がある」と説明した。
KDDIは1月に発生した能登半島地震および9月下旬の奥能登豪雨において、橋梁点検や道路啓開活動をドローンで支援してきた。珠洲市では寸断された道路を超えてドローンでりんご出荷の支援をした例もあるという。非常時のドローン活用は少しずつ有用性が示されてきた。
一方でアメリカなどでは、日常的なドローン活用も実現されているそうだ。ニューヨーク市警察は遠隔でドローンを活用したパトロールを実施しているほか、オレンジ郡保安局は高層ホテル室内の犯人の様子を窓からリアルタイム撮影するなど、ドローンが現場に急行し警察の安全な業務遂行をサポートしている。
そこで、KDDIはローソンを「地域防災コンビニ」として稼働し、コンビニを起点とした社会課題解決を石川県をロールモデルとして全国に展開する方針。同社は事業継続性の確認や法規制などのために明確な時期は不明としながらも、なるべく早い段階で全国1000カ所のドローンポート実装を目指すとしている。ドローンが緊急時に10分以内に到着できる範囲を全国に拡大すると、およそ1000カ所のポートが必要になる試算だという。
今回の実証に際し、石川県警察本部 警察本部長の大嶌正洋氏は「先般発生した能登半島地震や奥能登豪雨でもドローンによる現場確認が実施された。行方不明者の捜索と交通事故の対応は警察が日常的に対応している業務であり、今回の実証結果は将来のドローン活用とユースケースの拡大につながるはず。ひいては警察の高度かつ効率的な運用も期待できる」とメッセージを送った。
また、石川県庁デジタル推進監の成瀬英之氏は「災害発生時のドローンの有効性は知られ始めたが、その一方で災害時にドローンを使うためには日常業務の中でも使うフェーズフリーの取り組みが重要であると実感している。石川県警の協力の下、フェーズフリーのドローン活用の実証が能登の地で開催されることは大変意義深いこと。この結果が能登の復旧と復興に結び付けば」とコメントした。
実証1:行方不明者の捜索
今回の実証で使用したドローンは、NVIDIAのAIチップを搭載し、障害物の自動回避や暗所での自律飛行が可能なSkydio X10。4G LTEおよび5Gのモバイル通信と接続可能なため遠隔操作に対応する。
最初のデモは、小丸山城址公園付近で行方不明者が発生したと通報が入った場面を想定して実施された。通報を受けた警察官は、行方不明者の服装や身長などの情報をドローンパイロットに伝達。ローソン七尾小島店の屋根に設置したドローンが、高度約50メートル、時速約50キロメートルで現場へと向かった。ドローンの操作は七尾警察署内で実施し、レベル3.5相当で飛行。
実証当日は冬の北陸地方らしいどんよりとした雨模様で、気温は約5度。少し風もある中、ドローンは直線距離でおよそ1キロ離れた小丸山城址公園へ到着すると、可視カメラ、望遠カメラ、サーマルカメラなどを用いて行方不明者を捜索。無事に対象者を発見すると、緯度経度情報や周囲の状況、付近の目印などを警察官へ共有した。さらに、現場に警察官が到着するまで継続して監視した。
実証2:事故発生時の初動対応
次に、ローソン七尾小島店から直線距離で約5.1キロメートル離れた能登島大橋の駐車場で車同士の交通事故が発生した場面を想定したデモが公開された。橋など交通手段が制限される場合、事故発生時には渋滞が起きるためパトカーが通れず、警察官の現場到着に時間を要するという。こうした場面でドローンの活用は有効と考えられる。
事故発生の通報を受けた後、ドローンは現場に向かいローソン七尾小島店の屋根から離陸。途中、能登島大橋の付近に到達すると、望遠カメラで橋の上の渋滞の状況を確認した。なお、Skydio X10は250メートル離れた車のナンバープレートを識別できるほどの望遠カメラを搭載する。
現場に到達したドローンは車に乗っている人の様子や車両の破損箇所を確認し、ドローンパイロットは状況を警察官に共有した。同時に、ドローンが撮影した映像をもとに3Dモデルを作成。これにより、事故現場を立体的に把握できるようになり、遠隔地からでも現場の状況を確認できることが示された。
米Skydioは2025年中に、Skydio X10向けのドローンポート「Dock for X10」を発売開始予定。ドローンの充電や離発着が可能なだけでなく、ヒーターを備えるため七尾市のような降雪地域でも活用が期待できるという。こうしたドローンポートなどを使いながら、KDDIはドローンを社会インフラとして整備する構想を示している。
また、実証に参加したローソン石川支店の支店長である坊野正英氏は「私たちは2024年元日の地震発生時、応援部隊が安全に通れる道路を昼夜を問わずに人力で確認するという大変な経験をした。今回の実証を見て、ドローンを用いた災害発生時の現状把握などに可能性を感じている。ローソンは微力ながら地域の皆様の安心安全に貢献していきたい」と語った。
金沢市をはじめ北陸には古くから「弁当忘れても傘忘れるな」という言葉が伝えられるほど、天気が変わりやすく雨が多い。実証当日も雨が降る中でのドローン飛行であり、決して良いコンディションとは言い難かった。しかし当然ながら、雨天時でも警察業務を止めることはできない。
そうした天候で実証に成功したことは、ドローンの日常的な活用を見据えると、非常に意義深い結果だったと思う。今後のフェーズフリーなテクノロジー活用の拡大に期待したい。


















