山形大学は10月1日、InGaN系半導体による青色LED上にメタクリレート系ポリマーバインダーに分散したペロブスカイトナノ結晶膜を形成した波長変換(色変換)型LEDを作製することで、赤色ナノ結晶LEDにおいて高い発光効率(外部量子効率)とデバイス寿命を維持しつつ、高輝度化にも成功したことを発表した。
同成果は、山形大大学院 理工学研究科の横田大輔大学院生、同・齋藤心護大学院生、同・大音隆男准教授、同・大学院 有機材料システム研究科の阿部遥大学院生、同・柳橋健人大学院生、同・千葉貴之准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学協会が刊行する応用物理学全般を扱う学術誌「Applied Physics Letters」に掲載された。
液晶・有機ELに続く次世代ディスプレイとして、微小な光の三原色(RGB)のマイクロLEDを二次元的に集積するマイクロLEDディスプレイが注目されているが、青ならびに緑色LEDに用いられるInGaN系半導体に対し、赤色LEDに用いられるInGaP系半導体はデバイスサイズの縮小に伴う効率低下や温度特性が課題となっている。また、マイクロLEDディスプレイとして製造する場合、材料系が異なるためそれぞれのLEDを個別に製造し、それをロボットなどを用いて精密に並べていく必要があるため、製造コストが高いという課題もあり、RGBの一体集積化による低コスト化が求められているが、InGaN系LEDは赤色の高効率化で材料的な壁に直面しており、有効な解決法を見出せていなかったという。
そうした中、近年、可視光LEDの材料として「金属ハライドペロブスカイト(CsPbX3、XにはCl、Br、Iが入る)ナノ結晶」が注目されるようになっているという。同結晶はホットインジェクション法などの簡便な手法で作製でき、ハロゲン原子Xの組成比によって可視光全域で発光可能で、単色性と発光量子収率が高い材料として知られるほか、塗布印刷法による膜形成も比較的容易とされる。ただし、電流注入による素子劣化が生じるため、素子寿命は長くても数百時間程度であり、駆動電流密度も低いという応用上の課題を抱えていたことから、研究チームは今回、InGaNを用いた青色LEDとペロブスカイトナノ結晶の塗布プロセスを組み合わせることで、RGBで発光する素子を同一基板上に一体集積化できる波長変換型構造に着目することにしたという。
手法としては、ホットインジェクション法で合成された赤色発光ペロブスカイト「CsPbI3」ナノ結晶(平均サイズ:11nm)がメタクリレート系ポリマーバインダーに分散・封止され、光学特性評価として、同結晶に青色光を照射し続けて発光強度の時間発展が測定された。その結果、ポリマーバインダーに分散することによって、数百mW/cm2まで励起強度を上げても同結晶の発光強度の劣化を抑制できることが示されたという。これは、ポリマーと配位子が強固に結合することで、配位子離脱による表面欠陥の生成が抑制されたことに起因することが考えられると研究チームでは説明しているほか、時間分解分光と発光量子収率の測定結果から、ポリマーバインダーの分散によって、表面欠陥に起因する非発光再結合が抑制がなされ、発光量子収率が向上することも確かめられたとしている。
また、青色InGaN系LED上にポリマーバインダー分散型CsPbI3ナノ結晶膜をUV硬化樹脂で固定する形で波長変換型赤色LEDを作製。青色LEDのみに1mA(265mA/cm2)の電流を流し、同結晶膜導入の有無による光学特性の変化を評価したところ、青色光は同結晶でほぼ吸収されており、明瞭な赤色発光が観測されたという。点灯直後の発光強度・輝度はそれぞれ3.5mW/cm2、1.9×103cd/m2と従来の同結晶LEDよりも1桁程度高く、103時間と長いデバイス半減寿命が得られたという。加えて、積分球で測定された外部量子効率は最大値26.2%で、最新のCsPbI3ナノ結晶LEDと同程度であり、InGaN系赤色LED(10.5%)よりも高い値が達成されたともしている。
なお、研究チームでは今後、CsPbI3ナノ結晶の劣化特性を詳細に評価することで、そのメカニズムを解明し、産業応用に求められる長寿命化につなげていきたいとしているほか、同結晶はサイズを小さくすることで20倍以上の高輝度化も可能で、次世代のディスプレイ規格「Rec.2020」も達成できるとの見方を示している。また、今回の研究手法を用いると、同様にCsPbBr3ナノ結晶により緑色変換LEDも作製できるともしており、青色LED基板上に緑・赤色ペロブスカイトナノ結晶をインクジェットで塗り分けることで、低コストのマイクロLEDディスプレイへの応用につながることが期待されるとしている。