「CES 2024」でのディスプレーにおけるキーワードの1つが「透明」であった。
これまでディスプレーは、いかに大きな画面をいかに綺麗に見せるかという方向で進化してきた。言うなれば、ディスプレーの存在感をいかに強調するかという視点でのハードウエアの競い合いが毎年のCESでも繰り広げられてきた。この方向が変化しつつある。ディスプレーというハードの存在感を消して、表示される情報を引き立てるというアプリケーションを重視する方向に移りつつある。透明ディスプレーの活用である(図1)。
Samsungは、今回初めて透明マイクロLEDを披露した。後方にタイル配置したLCD-TVの手前に透明マイクロLEDを置いて、後方のTVに合わせた情報を前面に映すという使い方である。これにより立体感も得られる。マイクロLEDは、タイリング技術で継ぎ目を目立たなく見せることが可能である。
AUOは、車の車窓用として透明マイクロLEDを開発している。マイクロLEDは輝度が高く、明るい屋外でも必要な情報を外の景色に重ね合わせて表示することが可能になる。
JDIは、遠隔触診のモニターとして活用することを提案した。遠隔での診察時に、部屋の風景が見えている中で医師の顔が空中に浮かび上がることで、対面での診察を受けている様なリアル感を演出できるという使い方である。
LGとSkyworthは、透明OLED-TVを展示した。透明OLED-TVは数年前から出ているが、今回のLGの展示は家具風のデザインにし、映像を映さないときは部屋の中に溶け込ませるという使い方である。これまでのTVでは、消灯時には黒い画面が鎮座しているだけの殺風景な状態であったが、ディスプレーを透明化することで、部屋のデザイン性が向上することになる。
この透明ディスプレーを実現する技術は、LCD、OLED、マイクロLEDのどの技術でも可能である。映像をオフにした際の透過率は、今回のCES展示では各社とも明記はしていないが、これまでの発表されてきたデータでは、JDIの透明LCDは84%と高い透過率を出している。透明OLEDは約45%、透明マイクロLEDは現在各社が開発中であるが60%以上の値が報告されている。一方、輝度はマイクロLEDが非常に明るい映像を出すことができる。それぞれの特徴を活かしたアプリケーションの提案がこれから増えてくるであろう。
通常のTVは、使わない時は「黒いただの箱」と揶揄されることもある様に、部屋のデザイン性から見れば邪魔なものという位置づけになってしまう。これを解消するために、TVを見ない時は絵画などのアート作品を表示しておくという提案も出始めている(図2)。
ディスプレーは、これまでのTV映像などの情報表示用として開発されてきた。その為、情報をいかに的確に伝えるかという視点でのハードウェアの開発に重点が置かれ、その性能を競う展示が行われてきた。今後は、アプリケーションサイドに力を入れた提案が増えてくるだろう。その場合、ディスプレーそのものの存在感を強調するのではなく、アプリケーション環境の中にいかに溶け込ませるかという点が重要になってくる。