物質・材料研究機構(NIMS)、住友金属鉱山、エヌ・イー ケムキャット、NIMS発ベンチャーのプリウェイズの4者は1月15日、フィルムなどの基材の上に印刷技術で電子回路やセンサを形成するプリンテッドエレクトロニクス向けに、銅ベースの厚膜導電性インクを共同開発したことを発表した。

  • (a)厚膜導電性インク。(b)厚膜導電性インクが印刷されたフィルム状基材。(c)厚膜導電性インクのもととなる金属錯体インク。(d)微粒銅紛

    (a)厚膜導電性インク。(b)厚膜導電性インクが印刷されたフィルム状基材。(c)厚膜導電性インクのもととなる金属錯体インク。(d)微粒銅紛(出所:NIMSプレスリリースPDF)

同成果は、NIMS 高分子・バイオ材料研究センターの三成剛生グループリーダー、同・李万里ポスドク研究員(現・江南大学准教授)、NIMS 若手国際研究センターの李玲穎ICYS研究員、荒井俊人独立研究者、NIMS 高分子・バイオ材料研究センターの新倉ちさと主任研究員、住友金属鉱山、エヌ・イー ケムキャット、プリウェイズの共同研究チームによるもの。詳細は、表面や界面、ナノ構造とその応用に関する全般を扱う学術誌「Applied Surface Science」に掲載された。

また今回開発された製品は、1月24~26日に東京ビッグサイトで開催されるアジア最大級のエレクトロニクス開発・実装に関する展示会「第38回 ネプコンジャパン」に、住友金属鉱山とプリウェイズが出展する予定だ。

金属や半導体のインクを用いて印刷プロセスによって電子回路を形成するプリンテッドエレクトロニクスは、既存の半導体製造技術と比較して簡便であり、フレキシブル基板と親和性が高いことから、ウェアラブルデバイスやセンサとしての応用に向けて広く研究開発が行われている。

電子基板製造においてプリンテッドエレクトロニクスでは、金属膜から不要な部分を除去して電子回路を形成する従来の技術である「サブトラクティブ法」とは異なり、必要な部分にのみ電子回路を印刷して形成できる「アディティブ法」であるため、金属材料の使用量、環境負荷、製造コストなどの低減が期待されている。また、固い基板(リジッド基板)のみならず、柔らかいフィルム(フレキシブル基板)にも自由に電子回路を形成することが可能であることも、従来にない利点となっている。

一方で、現在のプリンテッドエレクトロニクスの主流である銀ナノ粒子インクは、高コストであること、はんだ耐性が低いこと、マイグレーション(金属配線を回路の中で用いた際に、電界などの原因によって金属が移動して断線などが生じること)を起こしやすいといった問題があり、安価な銅をベースとした金属インクの開発が望まれていた。しかし、銅にも酸化に弱いという問題があるため、大規模な実用化の妨げとなっていた。

そうした中でNIMSなどの研究チームは、大気下における安定性や長期保存性の観点から金属錯体インクに着目し、銅錯体をベースとして、ニッケル錯体を添加することで耐酸化性を向上させた銅・ニッケル錯体インクの開発を行ってきた。なお金属錯体とは、金属イオンに分子が結合して安定化したものである。

今回の研究では、NIMSとプリウェイズによって開発された金属錯体インクをもとに、住友金属鉱山によって開発された微粒銅粉やペースト技術を加えることで、大気安定性が高く、印刷時のインクの膜厚を従来の3倍以上とすることが可能な、厚膜導電性インクを開発したという。

  • (a)厚膜導電性インクで配線を形成する模式図。(b)プラスチックフィルムに印刷したところ。(c)印刷した配線の光学顕微鏡写真

    (a)厚膜導電性インクで配線を形成する模式図。(b)プラスチックフィルムに印刷したところ。(c)印刷した配線の光学顕微鏡写真(出所:NIMSプレスリリースPDF)

耐酸化性を高めた錯体インクが、微粒銅紛間の界面を接続し表面を覆うため、低抵抗で大気安定性の高い配線を形成することが可能だとする。現在はスクリーン印刷向けに開発が進められているが、今後はグラビア印刷といったほかの印刷プロセスにも適合させていくとのこと。そして、金属錯体の開発・製造に強みを持つエヌ・イー ケムキャットの技術を活用し、工程の最適化や量産化技術の確立に向けた開発を進めているという。

またNIMS、住友金属鉱山、エヌ・イー ケムキャット、プリウェイズの4者は今後、今回開発されたインクのサンプル提供と販売を共同で行っていくといい、それに加え、ユーザーからのフィードバックを活かした、インクの性能向上と用途の拡大を進めていくとしている。