JSRは6月26日、同日付で開催した取締役会において、産業革新投資機構(JIC)の完全子会社「JICキャピタル(JICC)」が6月15日に設立した「JICC-02」によるJSRの普通株式、新株予約権、米国預託証券に対する公開買い付けに対して賛同する意向を表明した。
JICC-02では、今回の公開買付けに応じた応募株券等の総数が買付予定数の下限(1億3853万1400株、所有割合:66.67%)に満たない場合は、応募株券等の全部の買付け等を行わないとしているほか、公開買付けが成立したものの、対象者株式、新株予約権および米国預託証券のすべてを取得できなかった場合には、この公開買付け成立後、公開買付者が対象者を完全子会社とするための手続きを実施する予定だとしている。
JSRが事業拡大を目指す市場の1つである半導体材料分野は、2023年は一時的な稼働調整が発生しているものの、デジタル化の進展を踏まえ、2030年に向けて年率10%ほどで成長が予測されるなど、安定した成長が見込まれている。そうした中で、3nmプロセス以降のEUVフォトレジストをはじめとする材料分野での市場シェア拡大を目指しており、近年もEUVリソグラフィ用メタル系フォトレジストを手掛けるInpriaを買収したほか、主力の四日市工場でのEUVレジストを含む最先端リソグラフィ材料の生産能力向上に向けた新棟の増設などを進めている一方で、競合の海外勢は大型の合併・買収による資金面・人材面・技術面での競争力強化を図っており、国内勢の脅威になってきているという。
また、JSRでも一部、プロセス材料や5G技術に対応する実装材料などにおいて低いシェアにとどまっている材料もあるなどの課題があり、そうした中で、現在の競争優位性を維持・拡大するための研究開発・設備投資に留まらず、国内に有望なメーカーが多数存在する半導体材料業界において、より大胆に業界再編を志向することで、幅広い半導体材料のラインナップでの高い市場シェアの獲得や他社との技術的融合、新たな人材・技術の獲得が可能となるリソース面の充実により、国際競争力を高めていく必要があるとの考えを示しており、JICCではそうした国内半導体材料業界の構造的課題を解決し、JSRの中長期的な企業価値向上を実現するためには、JSRの株式を非公開化し、短期的な業績への影響にとらわれず、中長期的な視点に立った経営判断を柔軟かつ迅速に行う体制へと変革し、構造改革や業界再編を推進することが望ましいと判断。今回の公開買い付けを実施することを決定したとする。
公開買い付け価格はJSR普通株式1株あたり4350円、新株予約権価格を43万4900円、米国預託証券が表章する米国預託株式1株あたり4350円としている。なお、JICC-02では、各種の手続などに関する海外当局との協議も踏まえ、2023年12月下旬をめどに公開買付けを開始することを目指す(公開買い付け期間は20営業日を予定)としているが、国内外の競争当局および投資規制法令などを所管する当局における手続などに要する期間を正確に予想することは困難であるため、具体的なスケジュールについては、決定次第改めて公表する予定だとしている。
JSRの代表取締役CEO 兼 社長であるエリック・ジョンソン氏は、今回の公開買い付けについて、JICCとの戦略的パートナーシップと表現。以下の5点の意義・目的を掲げている。
- 半導体材料領域における業界再編へのコミットメント
- ライフサイエンス事業の方向性合致
- 政府系ファンドとの戦略的パートナーシップ
- 事業再編および成長戦略のノウハウ
- JICCが持つネットワークの活用によるさらなる組織力強化
なお、JSRでは、非上場化の後にJICCの支援を受けつつ、強固な事業基盤を構築し、企業価値を向上させた後には再上場を目指す方針だと説明しており、しっかりと自社が提示している事業戦略を実施していくことで、より良い価値の創出を目指すとしている。