キヤノンは5月29日、次世代量子ドットディスプレイに適用可能な材料として、ペロブスカイト構造を持つ量子ドットインク(ペロブスカイト量子ドットインク)を開発し、実際の使用環境相当である1000nit(明るさの度合いを示す単位)の青色光照射条件下において、輝度が初期の90%になるまでの時間として、1万時間という実用可能な耐久性を実証したことを発表した。

  • ペロブスカイト量子ドットインクが発光している様子。

    ペロブスカイト量子ドットインクが発光している様子。(出所:キヤノンWebサイト)

なお、今回の技術開発の成果および高品質なペロブスカイト量子ドットの量産可能技術については、5月21日から26日まで米国・ロサンゼルスで開催された「SID Display Week 2023」において、5月26日に口頭発表された。

量子ドットは、高輝度で高い色純度の光を発光することのできる、直径数nmの半導体微粒子だ。量子ドットを用いたディスプレイは色域が広くて表現力が高いことから、ディスプレイの高画質化のニーズに応えられる粒子として期待されている。量子ドットに求められているのは高い色純度と光の利用効率で、それに加えて、環境配慮の観点から、これまでの量子ドットの代表的な材料だったカドミウム(Cd)を使用しないものへの関心が高まっている。

キヤノンはこうした背景の下、ペロブスカイト量子ドットインクに注目し、開発を進めてきた。Cdフリー材料として、リン化インジウム(InP)量子ドットと並び注目されているペロブスカイト量子ドットは、色純度と光の利用効率がともに高く、高輝度・広色域・高解像度を兼ね備えたディスプレイを実現できることが期待されている。

ただしその実用化に向けては、耐久性が低いという課題を抱えていた。そこで同社は今回、プリンタのインクやトナーの開発を通して培ってきた技術を応用し、独自の手法でペロブスカイト量子ドットに保護層を形成する技術を開発したという。その結果、色純度と光利用効率を保持したまま、実用可能な耐久性を実証したペロブスカイト量子ドットインクの開発に成功したとする。

  • ペロブスカイト量子ドットインクの高解像度印刷サンプル。

    ペロブスカイト量子ドットインクの高解像度印刷サンプル。(出所:キヤノンWebサイト)

今回開発されたペロブスカイト量子ドットインクは、「ITU-RBT.2020」というITU(国際電気通信連合)策定のUHDTV放送方式の映像信号を規定する勧告における色域の94%をカバーすることが可能だとしている。なおこの値は、赤色・緑色のインク硬化膜と適切な青色光源とを組み合わせてディスプレイを構成した場合の試算だという(白い光源を用いるよりも、青色の光源を量子ドットによって赤色と緑色に変換した方が、色純度の高い赤色と緑色の光を得ることができ、より広い色域のディスプレイを実現できるとされる)。ちなみにInP量子ドットインクがカバーする色域は88%とされており、ペロブスカイト量子ドットインクはそれを上回る数字だ。

  • ペロブスカイト量子ドットインクの色域。

    ペロブスカイト量子ドットインクの色域。(出所:キヤノンWebサイト)

またペロブスカイト量子ドットインクは、光の利用効率が高いため、現行の量子ドットを用いた有機ELテレビに適用した場合の試算として、消費電力を約2割削減できると見込まれるとする。将来的には同インクを用いることで、量子ドットを用いた8Kなどの超高精細有機ELディスプレイが実現できる可能性があるともしている。

  • 量子ドットを用いた有機ELディスプレイの仕組み。

    量子ドットを用いた有機ELディスプレイの仕組み。(出所:キヤノンWebサイト)

  • さまざまな色を表現可能なペロブスカイト量子ドット。

    さまざまな色を表現可能なペロブスカイト量子ドット。(出所:キヤノンWebサイト)