先日、米ラスベガスで開催された年次カンファレンス「Google Cloud Next 26」ではAIを「使う」段階から、AIエージェントが自律的に業務を担う「Agentic Enterprise」へ移行していくことが明言された。大きな発表が相次いだカンファレンスではあるが、今後の日本法人におけるビジネスについては、どのように考えているのだろうか。
Google Cloud Next 26の会場において、グーグル・クラウド・ジャパン 日本代表の三上智子氏、同社執行役員 カスタマーエンジニアリング 統括技術本部長の渕野大輔氏、同社上級執行役員 パートナー事業兼法人営業統括の上野由美氏が日本のメディアに説明した。
Google Cloudの成長を支えるAI需要と日本市場の手応え
まず、三上氏は自身初のNextへの参加だったことに触れつつ「熱気が圧倒的に違うと感じましたし、いよいよエージェント時代に突入していくと感じています。フルスタックかつオープンである良さをユニークな形で伝えられていると考えています」と振り返る。
グローバルにおけるGoogle Cloudの2025年第4四半期売上高は、前年同期比48%増の176億6000万ドルと好調に推移。三上氏は「明確にAIがけん引しています。日本でも同様で、これまで深い付き合いのなかったエンタープライズ企業からも『試してみたい』『使ってみたい』という声が増えています」と語る。
サーバ需要やメモリ不足、半導体コストの上昇などAIインフラを巡って、渕野氏は「世界的な需要増加でキャパシティの確保が難しいのは、どこのベンダーも苦戦しています」としつつ、Google Cloudでは自社製のAIチップ「TPU」の存在を差別化要素に挙げている。同氏は「TPU自体も世界的に需要が高く、リージョンに配備しても需要が即座に埋まる状況なため、日本側で必要なキャパシティを確保するには努力が必要です」とも述べている。
また、三上氏は日本のAI関連のデータセンター投資について「需要が増えればキャパシティの増強が必要になるため、増強を進めています。また、ソブリンへのニーズもあり、KDDIとの取り組みのようにパートナーシップも含めて拡大していきたい」と意気込みを示している。
7.5億ドル投資で加速するパートナー主導のエージェント展開戦略
今回のカンファレンスではGoogle Cloudのパートナーエコシステム拡張・強化のために、総額7億5000万ドルのファンドが発表された。具体的にはエージェント構築・展開のための資金・クレジット、FDE(Forward Deployed Engineers=顧客先に入り込み支援するエンジニア)の本格投入、パートナーにおけるGemini Enterprise専門組織の立ち上げなどの支援を行う方針としている。
ツールのみならず、カルチャーの変革も含めて、どのようにAIエージェントを日本企業に導入・浸透させていくかは、課題であると同時に容易ではない。その点について、三上氏は「エージェントを活用し、どの領域で業務変革を狙うのか、つまり価値向上やコスト削減などビジネスインパクトをどこで出すのかを決めることが重要です」と前置きをする。
さらに、同氏は「現在、お客さまと“ノーススター(最重要)なユースケースは何か”を議論し、業務領域を定めたうえでエージェントを共同で構築していくアプローチに取り組んでいます。総額7億5000万ドルの資金をもとにパートナーに投資し、FDEの支援をスケールします。そこで獲得したユースケースを企業でサービス化できるようにすることで、他のお客さまにも使いやすい形に展開していければと考えています」と強調した。
とはいえ、自社だけでの導入には限界があるのも事実であり、特に日本ではSIerをはじめとしたパートナーの存在が鍵を握る。
上野氏は「パートナーの方々が各産業における知見を有しているため、エコシステムに注力しています。テクノロジープロバイダーも直接支援しますが、スケールが難しいです。パートナーの知見や業界の課題を理解しつつ、チェンジマネジメントとAIエージェントの組み込みを同時で進めている状況です。トラディショナルなSIerさんも現在は、当社と協業したいと感じてもらえています。自らもトランスフォーメーションに取り組みながら、お客さまに価値を届けたいと考えているのです。そのためトップダウンで進めていく必要があります」と説明した。
マルチモデル時代の競争軸と「Agentic Enterprise」への転換点
一方、OpenAIやAnthropicをはじめとしたAIモデルを提供する企業について問われた三上氏は「Anthropicは重要なパートナーであり、TPUを利用しています。お客さまでもマルチモデル/クラウドが当たり前の時代のため外部モデルも戦略的パートナーとして捉えています。Geminiが得意な領域もあればClaudeが得意な領域もあり、使い分けることができます」とコメント。
加えて、AWS(Amazon Web Services)やMicrosoftとの競争環境について、同氏は以下のように話している。
「市場の定義やAI、さらにエージェント的なエンタープライズに移ってきており、必ずしも従来の枠組みだけで捉えていません。個別案件では競合もありますが、市場の核がAI中心に大きくなっている。競争相手も、AnthropicやOpenAIなどモデルを作るプレイヤーを含めた新しいランドスケープになっています。私たちのチャレンジは、大規模エンタープライズ領域でも、スタートアップのようなスピードで走り続けられるかという点です」(三上氏)
Next 26でGoogle Cloudが前面に押し出したのは、AI導入の主戦場が「作る」から「運用する」へ移った現実だ。エージェントの構築・展開だけでなく、ガバナンス、可観測性、セキュリティを含めて“本番運用”を成立させる設計思想が、製品群と投資の両面で語られた。日本ではスピードの出し方が課題になるが、パートナーとLOBに踏み込み、トップダウンも織り交ぜながら、価値創出までの距離を縮める構えが見える。

