東京工業大学(東工大)は2月24日、「量子もつれ」を用いて量子状態を送受信することで盗聴を不可能にする「量子ネットワーク」への応用が期待されている、ダイヤモンド中の「スズ-空孔(SnV)中心」において、複数のSnV中心から発光波長と発光線幅がほぼ同一のフォトンを生成することに成功したことを発表した。

  • 同一なフォトンを生成するダイヤモンド結晶内のSnV中心のイメージ

    同一なフォトンを生成するダイヤモンド結晶内のSnV中心のイメージ(出所:東工大プレスリリースPDF)

同成果は、東工大 工学院電気電子系の岩﨑孝之准教授、物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の谷口尚拠点長、産業技術総合研究所 機能材料コンピュテーショナルデザイン研究センターの宮本良之上級主任研究員、量子科学技術研究開発機構 高崎量子応用研究所の小野田忍上席研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する応用物理学全般を扱う学術誌「Physical Review Applied」に掲載された。

量子ネットワークにおいて、送受信および中継点の各点をなす固体量子光源として、ダイヤモンド構造に異種元素を導入した材料の研究が進む。研究チームはこれまで、異種元素に重いIV族元素のSnを用いたSnV中心に関する研究で成果を挙げてきた。Snは、シリコン(Si)などを用いた量子光源よりも高い温度で量子状態を保存するためのスピン特性に優れているとする。スピン特性は、量子ネットワークにおける情報伝達においてその情報の保持を担うものであり、希釈冷凍機を必要としない温度での量子情報保持は実用上重要だ。

ただしこれまでの研究では、量子もつれ生成のための光学特性として、同一の発光波長および発光線幅を有する複数の量子光源の形成が求められる点において、課題があったという。具体的には、母体材料であるダイヤモンドの格子による歪みによって、容易に各量子光源の発光波長がずれてしまい、同一の発光波長および発光線幅を有するSnV中心を複数形成させることが実現できていなかったのである。

そこで研究チームは今回、ダイヤモンド基板への18MeVという高エネルギーでのSnイオン注入後に、高圧下において加熱処理を行うことで高品質SnV中心を形成することにしたという。その結果、SnV中心はダイヤモンド表面から3μm程度の深さで形成され、基板表面の格子歪みの影響を抑制。さらに、2100℃での加熱処理により、イオン注入時に発生した格子欠陥や歪みを効率的に回復させることにも成功したとする。