宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2月1日、H3ロケット初号機に搭載される地球観測衛星「だいち3号」(ALOS-3)に関する記者説明会を開催した。2006年に打ち上げた初代「だいち」(ALOS)の後継機で、観測能力を大幅に強化。防災・災害対策などへの活用が期待されている。2月13日に、種子島宇宙センターから打ち上げられる予定だ。

  • 地球観測衛星「だいち3号」(ALOS-3)のイメージCG

    地球観測衛星「だいち3号」(ALOS-3)のイメージCG (C)JAXA

地上分解能は初代から3倍に強化

衛星による地球観測の手法としては、主に光学と電波(レーダー)の2種類が存在する。光学観測は地上分解能に優れるが、夜間や悪天候時では撮影できないという弱点がある。一方レーダー衛星はその逆のため、組み合わせて利用することでお互いを補完できる。ALOSシリーズは、初代が光学/レーダー、2号機がレーダーという構成だった。

  • ALOSシリーズは、これまで2機が打ち上げ済み。4号機も開発中だ

    ALOSシリーズは、これまで2機が打ち上げ済み。4号機も開発中だ (C)JAXA

初代は東日本大震災でも活用された後、2011年に運用が終了。それ以来、ALOSシリーズによる光学観測は長らく空白期間があったものの、このだいち3号は、それを12年ぶりに引き継ぐ衛星となる。

参考:初代だいちは東日本大震災の発生翌日、現地の緊急観測を行った

だいち3号は、防災・災害対策、地理空間情報の整備・更新などを目的としている。初代からは、様々な点が強化されているが、最大の特徴は、地上分解能が2.5m→0.8m(直下)と、3倍以上に向上したことだ。この性能向上により、たとえば自動車だと1台1台まで識別できるようになると期待される。

  • 地上分解能が0.8mになると、自動車まで見分けられるようになる

    地上分解能が0.8mになると、自動車まで見分けられるようになる (C)JAXA

地上分解能と同時に、観測性能の重要な指標となるのが観測幅である。だいち3号の光学センサーの特徴は、高い地上分解能と広い観測幅を両立していることだ。地上分解能だけを見れば、すでに商業観測衛星では0.3m程度も実現しているが、デジカメのズームをイメージすると分かるように、観測幅はその分、狭くなることが多い。

マーケティング用途などであれば地上分解能は高いほど良いのだが、だいち3号のように防災・災害対策などを考えるのであれば、広い観測幅も非常に重要。特に日本では、南海トラフでの巨大地震が警戒されているところだ。そのため、だいち3号では、地上分解能を向上させつつ、観測幅は初代と同じ70kmを維持した。

地上分解能を高くし、観測幅も広くできれば理想的であるが、光学機器の技術的に難しく、またデータ量も膨大になってしまい、地上に降ろすのが大変だという問題もある。JAXAの匂坂雅一プロジェクトマネージャは、だいち3号の地上分解能と観測幅について、「バランスを取った結果」だと説明する。

  • JAXAの匂坂雅一プロジェクトマネージャ

    JAXAの匂坂雅一プロジェクトマネージャ

ユーザーとなる内閣府や消防庁等に検討してもらったところ、「建物の倒壊状況や道路の通行状況を見るためには、1m以下の地上分解能が必要との要望があった」という。一方、観測幅については「水害だと30~50km、地震だと40~70kmが必要」とのことで、こうしたニーズに基づき、衛星を設計したそうだ。

  • だいち3号の実機。センサー開口部には黒いカバーが張られている

    だいち3号の実機。センサー開口部には黒いカバーが張られている (C)JAXA