南海トラフ地震を想定した新機能

だいち3号の重量は約3トン。太陽電池パドル展開時には、5.0m×16.5m×3.6mという大きさになる。この上半分に光学センサーを搭載しており、4枚鏡の光学系によって、長焦点距離を実現しつつ、コンパクト化も達成した(初代は3枚鏡だった)。なお衛星の開発では、三菱電機がプライムメーカーとして、設計と製造を担当している。

  • だいち3号の光学系は反射式。ミラーは肉抜きにより80%軽くしている

    だいち3号の光学系は反射式。ミラーは肉抜きにより80%軽くしている (C)JAXA

地表の撮影方法であるが、だいち3号には5つの観測モードが用意されている。平時での基本的な撮影方法となるのが「ストリップマップ」観測モード。だいち3号の光学センサーは、デジカメのように「面」で撮影するのではなく、「線」で観測する。衛星は南北に飛行しているので、直下に向けていれば、長いエリアを撮影できるというわけだ。

  • ストリップマップモードでは、FAXのように地上をスキャンする

    ストリップマップモードでは、FAXのように地上をスキャンする (C)JAXA

注目したいのは、新たに搭載された「方向変更」観測モードである。日本の国土は、東側は南北に長いため、ストリップマップでの観測に適しているのだが、西側は東西に向いており、そのままでは何周も観測する必要がある。南海トラフの地震で心配されているのは、まさにこの西側のエリアだ。

このモードは、衛星の姿勢を連続的に制御することで、西日本の沿岸域であっても、一気に1,000kmほど撮影することが可能になっている。端の方は斜めからの撮影になるため、地上分解能は2~3m程度まで劣化するものの、災害の発生直後に全体の状況を把握できるというのは、非常に大きなメリットだと言えるだろう。

  • 方向変更観測モードでは、衛星の姿勢をダイナミックに制御する

    方向変更観測モードでは、衛星の姿勢をダイナミックに制御する (C)JAXA

このモードでは、短時間で衛星の姿勢を大きく変化させるため、姿勢制御系には大きなトルクが求められる。3軸姿勢制御に使われるリアクションホイールは、冗長も含めて一般的には4台搭載されることが多いのだが、大型のリアクションホイールでもトルクが足りなかったそうで、だいち3号には合計7台も搭載されている。

  • だいち3号の観測モード。立体視観測、地点観測、広域観測などもある

    だいち3号の観測モード。立体視観測、地点観測、広域観測などもある (C)JAXA

そのほか、観測波長帯も拡大。初代は青、緑、赤、近赤外の4バンドだったが、だいち3号では新たに、コースタルとレッドエッジの2バンドが追加された。コースタルは青より少し波長が短い光で、水中で減衰しにくく、沿岸域の観測に適している。レッドエッジは赤と近赤外の中間にあり、植物の健康状態の把握などに活用できる。

  • 観測データは、林業や水産など、様々な分野での活用が期待できる

    観測データは、林業や水産など、様々な分野での活用が期待できる (C)JAXA

だいち3号は観測幅を維持したまま、地上分解能を高めたため、データ量が大幅に増加している。これに対応するため、光衛星間通信を活用。地上局との直接伝送だと、通信時間は1パスあたり10分程度に限られるが、静止軌道上にある「光データ中継衛星」を使えば、通信時間をもっと長くすることができる。

初代もデータ中継技術衛星「こだま」を利用していたが、光データ中継衛星はレーザー光による高速通信が可能になり、通信速度は1.8Gbpsと、初代での約6.5倍まで向上した。また、新たにKaバンドのアンテナも用意。これにより、直接伝送でも同じ1.8Gbpsという高速通信を実現している。

  • 光衛星間通信システムも活用し、大量のデータを地表に送信する

    光衛星間通信システムも活用し、大量のデータを地表に送信する (C)JAXA

だいち3号は打ち上げ後、約3カ月の初期機能確認、さらに約3カ月の初期校正検証を経て、定常観測運用を開始する計画。匂坂プロマネは、「データをちゃんと提供できることがなにより大事。なるべく早く衛星を打ち上げてもらって、画像を出せるように、全身全霊で頑張って行きたい」と意気込みを述べた。

  • だいち3号の運用計画。打ち上げの半年後からデータの配布を開始する

    だいち3号の運用計画。打ち上げの半年後からデータの配布を開始する (C)JAXA

防衛省による相乗りミッションも

なお、だいち3号には、相乗りミッションとして、防衛省の衛星搭載型2波長赤外線センサーも搭載される。このセンサーは実験的に搭載するもので、だいち3号の光学センサーの隣に設置。赤外線によって、地表を静止画と動画で撮影することが可能だ。防衛省として、宇宙空間での実証研究はこれが初めてだという。

  • 衛星搭載型2波長赤外線センサーによる観測のイメージ

    衛星搭載型2波長赤外線センサーによる観測のイメージ (C)防衛装備庁

赤外線は、弾道ミサイルの発射探知などに利用できる。ただ、防衛装備庁 技術戦略部 技術戦略課長の藤井圭介氏は、「今回のセンサーはあくまで研究用。地上で実証していたものが宇宙でもちゃんと使えるのか調べることが目的」だと強調。「自衛隊の運用に直接寄与するわけではない」と説明した。

  • 防衛装備庁 技術戦略部 技術戦略課長の藤井圭介氏

    防衛装備庁 技術戦略部 技術戦略課長の藤井圭介氏

防衛省が開発したQDIP(量子ドット型赤外線検知素子)光学センサーは、遠赤外と中赤外という2つの波長を検出。この特性の違いにより、高い識別能力を実現しているという。今回、宇宙空間で実証するため、これを衛星搭載用に改修。比較用として、宇宙で実績のあるMCT(水銀カドミウムテルル合金)光学センサーも搭載した。

  • センサーの概要と外観。内部に2つのセンサーを搭載する

    センサーの概要と外観。内部に2つのセンサーを搭載する (C)防衛装備庁

近年、北朝鮮による弾道ミサイルの発射が相次いでいる。今回の実証は、将来の早期警戒衛星の保有を視野に入れたものと見られるが、「どういうデータが取れるのかまだ分からない。成果をしっかり見極め、技術的に評価した上で考えることになる」とし、今後の具体的な見通しについては言及を避けた。