宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2022年12月20日、新型基幹ロケット「H3」の開発状況について記者説明会を開催し、同11月に実施した「1段実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)」について、「目標を達成した」と発表した。

これによりH3は、試験機1号機に向けた最終関門を通過。さらなる改善を経て、2023年2月12日の打ち上げに向けた準備作業へ移る。苦難の日々を乗り越え、ついに星々の世界へ飛び立つときがやってきた。

  • 2022年11月6~8日に行われた「1段実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)」における第1段メイン・エンジン「LE-9」の燃焼(7日)の様子

    2022年11月6~8日に行われた「1段実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)」における第1段メイン・エンジン「LE-9」の燃焼(7日)の様子 (C) 渡部韻

H3ロケットの開発

H3ロケットは、三菱重工業とJAXAが共同で開発している次世代の大型ロケットである。

現在運用中のH-IIAの後継機として、日本の大型基幹ロケット――安全保障を中心とする政府のミッションを達成するため、国内に保持し輸送システムの自律性を確保するうえで不可欠な輸送システム――としての活躍のほか、国際的な衛星の商業打ち上げ市場への本格的な参入も期待されている。

H3が目指すのは、「柔軟性・高信頼性・低価格」の3つの要素を兼ね備えた“使いやすいロケット”。その実現のため、日本がこれまでつちかってきた技術、日本が得意とする技術、そして3Dプリンターなどの新しい技術を結集、融合する。

開発は2014年4月から始まり、当初は2020年度の試験機1号機の打ち上げを目指していた。しかし、2020年5月、第1段メイン・エンジン「LE-9」に技術的課題が見つかったことから、同9月に計画を見直し、2021年度の打ち上げを目指すとされた。だが、2022年1月にはLE-9に新たな問題が発生し、さらに打ち上げを延期。現在は2022年度中の打ち上げを目指している。

現在開発の焦点となっているのは、LE-9の中でも「タイプ1」と呼ばれるエンジンである。LE-9は2段階に分けて開発されており、第1段階ではタイプ1を、第2段階では「タイプ2」を開発する。

タイプ1は試験機1号機用と位置づけられており、機械加工噴射器など実績のある技術、部品を使用。性能などは当初の目標とほぼ同じではあるものの、手堅い造りのエンジンになっている。一方タイプ2は、3Dプリンターで製作した部品を使った、より先進的な、そして本来目指していたLE-9の姿となる。

LE-9開発は困難の連続で、H3の完成が遅れる可能性があった。そこで2019年にLE-9の開発を2段階に分けることにし、まず手堅いタイプ1を開発し、早期に試験機1号機の打ち上げを目指すこととなったのである。

しかし、このタイプ1の開発にも多くの困難が立ち塞がり、前述のように2020年と201年に相次いで打ち上げ延期を強いられた。

  • H3ロケットの想像図

    H3ロケットの想像図 (C) JAXA

QT、AT、そしてCFT

それでも関係者は粘り強く開発を続け、問題の解決にめどが立った。そして今年7月から11月にかけ、「認定燃焼試験(QT)」と呼ばれるLE-9の燃焼試験を実施した。QTとは、実際の打ち上げに用いるエンジンと同等設計、プロセスで製造した試験用エンジンによる、機能、性能の確認、および寿命実証を目的とした燃焼試験のことである。

このQTは複数回行われ、また前半5回の試験で所期の結果が得られたことから、並行して実際に試験機1号機の打ち上げで使うエンジン2基の「領収燃焼試験(AT)」を実施。所定の燃焼特性を取得し、飛行への適用が可能であることが確認された。こうして、タイプ1エンジンの開発は暗く長いトンネルを抜けたのである。

なお、その後もQTが行われているが、これはエンジンの寿命の実証のほか、スロットリング(推力可変)機能の検証も目的だった。スロットリングは試験機1号機の飛行では使わず、試験機2号機で初めて使用するため、現時点で必要な機能ではない。ただ、H3の開発計画では、万が一試験機1号機に使うエンジンに問題が起きた場合のバックアップとして、試験機2号機用のエンジンの用意も行っており、試験機1号機が問題なく飛べば、このエンジンはそのまま試験機2号機で使う予定であることから、このタイミングでスロットリング機能の検証が行われたのである。

こうした燃焼試験を繰り返した結果、累積での燃焼時間は1万秒を超えるまでに至り、とくに後半、つまり2022年4月ごろからの試験ではエンジンの仕上がりが急激に高まっていったという。

  • 2022年10月3日に行われたLE-9の領収燃焼試験後の、LE-9と試験設備

    2022年10月3日に行われたLE-9の領収燃焼試験後の、LE-9と試験設備 (C) 渡部韻

そして、LE-9の一連の燃焼試験に続いて行われたのが「1段実機型タンクステージ燃焼試験」、英語で「CFT(Captive Firing Test)」と呼ばれる試験である。なお、厳密には2段目のCFTもあり、過去に三菱重工田代試験場で行われているが、本稿では特記なき限り、CFTは1段実機型タンクステージ燃焼試験を指すこととする。

今回のCFTでは、ロケットを整備組立棟から射点に移動させ、電気ケーブルや液体推進剤を充填するための配管を接続。そしてロケットに推進剤を充填し、極低温状態で機体の機能が健全に動作することを確認。さらに、機体と地上追尾局のアンテナとの電波リンクにより、機体の状態をモニターするなどし、発射台から飛び立たないこと以外は本番と同じ作業、手順を実際に行って試験する。

つまりCFTはいわば打ち上げのリハーサルで、ロケットも実際の打ち上げに使うのと同じ機体を使い、LE-9をはじめ、第2段や衛星フェアリングもフライト品を装備している。LE-9も前述したATで試験したもので、CFTのあとには実際の打ち上げでも使う。ただし、CFTでの検証項目ではないSRB-3は装着せず、また衛星「だいち3号」も搭載しておらず、火工品も未結線の状態にある。

ロケットは「System of Systems」と称される。すなわち、ロケットの機体そのものもタンクやエンジン、電子機器などが集まったシステムではあるが、ロケットとはその機体だけでなく、地上施設設備と安全監理の3つのシステムが集まった総合システムであり、ロケットの開発とはそうした総合システムの開発を指す。

そして、その総合システムとしてのロケットの試験であり、まさに打ち上げ前最後の関門となったのがCFTなのである。

  • CFTの概要

    CFTの概要 (C) JAXA