東京大学(東大)は7月13日、東大 木曽観測所の口径105cmシュミット望遠鏡に搭載された広視野動画観測システム「トモエゴゼン」を用いて、直径100m以下の微小小惑星60天体に対する毎秒2フレームの動画観測を実施し、そのうち32天体の自転周期の推定に成功したことを発表した。

同成果は、東大大学院 理学系研究科 天文学専攻の紅山仁大学院生、同・附属天文学教育研究センターの酒向重行准教授、同・大澤亮特任助教らの研究チームによるもの。詳細は、日本天文学会が刊行する欧文学術誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」に掲載された。

質量が小さい微小小惑星は、惑星や衛星のように自重(重力)で球形を維持できず、非対称の形状をしていることが多いため、太陽輻射に起因する「ヨープ効果」によって、自転を加速または減速させるトルクが発生し、自転周期が変化してしまうという特性がある。特に、直径の小さな天体ほど、ヨープ効果がより強く作用するという。

ヨープ効果により自転が加速された小惑星は、その物質強度が許容する臨界自転周期に達すると、遠心力による破壊が起こる可能性がある。

もし、明確な臨界自転周期を確かめることができれば、微小天体の自転周期分布からその物質強度を導き出すことができるというが、微小小惑星の自転周期を測定することは困難であるため、強度で決まる臨界自転周期が存在するのか、そもそも微小小惑星の自転周期分布がヨープ効果の予測に従うのかなど、解明されていない点も多いという。

地球近傍を通過する微小小惑星の自転周期を確かめるには、地球に近づくタイミングで複数回観測し、明るさの時間変化を計測することで推定することが可能であり、世界には、大型望遠鏡を用いて微小小惑星の自転周期を観測している研究チームが複数存在していることが知られている。しかし、いずれも長時間露光の観測のため、小惑星の明るさが平坦化されてしまい、高速自転による光度変動を見逃している可能性があるという。

  • 高速自転する小惑星が地球近傍を通過する際のイメージ

    高速自転する小惑星が地球近傍を通過する際のイメージ (C)東京大学木曽観測所 (出所:東大Webサイト)

また地球接近軌道を持つ小惑星は、地球接近時に見かけ上明るくなるので観測しやすくなるが、その観測時間は必ずしも余裕があるわけではない。特に、地球-月間の距離の3倍(およそ120万km)以内という至近距離を通過するような微小小惑星は、最接近時の数時間から数日間という短期間しか観測できないという制約もあり、これまでの追跡観測によって自転周期が求められた微小小惑星は多くはなかったという。

微小小惑星の自転周期を推定するためには、その発見直後に即時に高い時間分解能で追跡観測することが必要であるとされていることから研究チームは今回、毎秒2フレームで20平方度の視野の動画を取得できる東大 木曽観測所のトモエゴゼンを用いて、研究チーム自らが発見した23天体を含む合計60天体の微小小惑星の動画観測を実施。その結果、発見直後の微小小惑星の観測可能時間の困難性を克服することに成功。そして観測された微小小惑星の多くは、地球-月間距離の3倍以内を通過する天体であることが確認されたとする。