東京医科歯科大学は7月8日、難治性潰瘍を伴う潰瘍性大腸炎の患者に対し、「自家腸上皮オルガノイド」(=ミニ臓器)の移植を行う再生医療の1例目を実施したことを発表した。

同成果は、東京医科歯科大大学院 医歯学総合研究科 消化器病態学分野の岡本隆一教授、同・大学 高等研究院の渡辺守学術顧問/副学長/特別栄誉教授、同・大学大学院 医歯学総合研究科 消化器病態学分野の水谷知裕講師(培養チーム・リーダー)、同・大学 再生医療研究センターの清水寛路助教(臨床チーム・リーダー)、同・大学 光学医療診療部の大塚和朗部長/特別診療教授(内視鏡チーム・リーダー)、同・福田将義助教(内視鏡処置担当)らの研究チームによるもの。

潰瘍性大腸炎は消化管に慢性の炎症を起こす指定難病で、日本国内には22万人以上の患者がいるものと推計されている。近年では炎症を制御し症状を抑えるためのさまざまな治療を選択することが可能になるなど、同疾患に対する医療技術が進展してきているが、病状を長く良い状態(寛解)に保つためには症状や炎症だけでなく、炎症によって傷んだ腸の粘膜上皮を修復再生すること(粘膜治癒)を達成することが重要だとされている。ただし、さまざまな治療を行っても腸の修復再生が滞る難治性潰瘍のため、粘膜治癒を達成できない潰瘍性大腸炎の患者に対しては、組織再生を促す治療の選択肢はまったく存在していないという。

そこで研究チームは今回、粘膜上皮再生の起点となる腸上皮幹細胞を含むオルガノイドを潰瘍性大腸炎の患者自身から採取した少量の組織から樹立し、大量のオルガノイドに増やした上で内視鏡を使って移植する技術を開発することを目的とした臨床研究を実施したとする。

実際に臨床研究計画に沿って、難治性潰瘍を伴う潰瘍性大腸炎の患者より内視鏡を用いて少量の粘膜組織を採取し、患者自身の腸上皮幹細胞を含む自家腸上皮オルガノイドの樹立に成功。これを定められた手順に従って一定期間をかけて計画通り培養することで、必要な規格を備え、かつ移植に必要な量まで自家腸上皮オルガノイドを増やすことに成功したという。

  • 腸上皮オルガノイドの特性

    腸上皮オルガノイドの特性と、今回のオルガノイド移植を行う再生医療の特徴 (東京医科歯科大Webサイト)

この自家腸上皮オルガノイドを潰瘍性大腸炎患者に移植するFirst-in-Human臨床研究として、あらかじめ定められた方法で、内視鏡を用いて患者の標的病変へ送達し、局所に留めるための一連の処置を完了させたとするほか、今後も継続して、移植後の経過観察が行われる予定だという。

なお、今回の研究により実施された自家腸上皮オルガノイドの潰瘍性大腸炎患者への移植は、オルガノイドを移植治療に用いた世界初の実施例であり、さまざまな臓器におけるオルガノイド医療の実用化に道を拓く、第一歩となる成果を達成したと研究チームでは説明している。

すでに同技術を用いた2例目以降の移植も計画されており、こうした取り組みにより潰瘍性大腸炎に対する自家腸上皮オルガノイド移植の安全性(主要)および効果が明らかになることが期待されるとするほか、同技術を応用・展開することにより、クローン病などのほかの消化管難病に対するオルガノイド医療の開発が進むことも期待できるとしている。