富士通は神奈川県横浜市の新横浜プリンスホテルで第126回定時株主総会を開催した。同社 代表取締役社長 CEOの時田隆仁氏がAIを全事業の中核に据える方針を示したほか、ソブリンAI、Rapidusとの連携、データセンター戦略などについても見解を語った。会場には252人が参加し、所要時間は114分となり、すべての議案が可決された。

富士通、2035年ビジョン達成へAIを中核に据えた成長戦略を推進

まず、時田氏は2025年度までの中期経営計画について「2030年およびそれ以降に向けて、持続的な成長と収益力向上のモデルを構築する期間として、事業モデルと事業ポートフォリオの変革、お客さまのモダナイゼーションの確実なサポート、サービスビジネスへのシフトをはじめとする海外事業の収益性向上に取り組んできた。変革の中心となるUvanceでは、Verticalが前年比69%増と大きく伸長するなど、売上収益7000億円という目標を達成し、モダナイゼーションは当初目標を上回る成長になった」と総括した。

  • 5月末に開催した「中長期経営ビジョン2035」の説明会における、富士通 代表取締役社長 CEOの時田隆仁氏

    5月末に開催した「中長期経営ビジョン2035」の説明会における、富士通 代表取締役社長 CEOの時田隆仁氏

また、同誌氏は「2026年度は引き続き、サービスソリューションを収益の柱として拡大しながら、目標達成に向けて取り組む」とし、成長戦略の継続に強い意思を示した。

2026年5月に発表した「中長期経営ビジョン2035」に関して同氏は「これまでは3年単位で経営計画を定め、目標達成に取り組んできたが、今年度からは10年間の経営ビジョンを定め、これに沿って戦略を立案し、実行していくことにした。AIが社会や生活のあらゆるところに広がり、ルールや価値観が変わっていくなか、テクノロジーがいま以上に重要な役割を果たすと考えている。そのため、2035年度までの10年間を、テクノロジードリブンで価値を創造していく期間とした」と話す。

新しい経営ビジョンでは信頼できるテクノロジーの提供と、AIドリブンの実践に重点的に取り組む。テクノロジーを中核に、次の成長を駆動する新たな事業機会を創出し、サービスソリューションビジネスをさらに進化させ、持続的な成長を実現するという。

  • 「中長期経営ビジョン2035」の位置付け

    「中長期経営ビジョン2035」の位置付け

サービスソリューションビジネスでは引き続き、Uvanceを中心に取り組む。労働集約的なシステムインテグレーションのビジネスモデルから、価値・成果ベースの事業モデルへの転換を加速させる考えだ。

時田氏は「顧客基盤、業種ドメイン知見、テクノロジー基盤の3つが富士通の強みになる。そして、富士通が提供しているすべてのビジネスにAIを組み込んで強化し、事業を拡大する」と述べた。

さらに、同氏は「富士通は、ソフトウェアやサービスに特化している企業ではなく、FUJITSU-MONAKAをはじめとするスーパーコンピュータ向けCPUや量子コンピュータ、光伝送通信ネットワークの技術を有する世界でもユニークなテクノロジー企業である。これらを富士通の最大の強みとして、成長、進化を遂げ、持続的な社会の成長に貢献したい」と意気込みを語った。

株主からAI戦略に質問集中、時田氏がマルチAI戦略を説明

株主総会では、AIに関する質問が相次いだ。AIがIT企業の企業価値を引き下げる要因になっていることについて時田氏は「富士通は中長期経営ビジョン2035のなかにも、AIによる経営の加速や、すべてのソリューションサービスへのAI適用を盛り込んでおり、以前よりも多くの研究開発投資をAIに注いでいる。自社のAIだけでなく、他社の優れたAIも富士通のソリューションサービスに組み込むマルチAI戦略を推進し、この戦略はこれからも変わらない。富士通は、AnthropicやOpenAIとも戦略的な提携を結び、自社にこだわらずに、優れた技術をお客さまや社会の発展のために提供する」との基本姿勢を示した。

加えて、同氏は「富士通自身もプログラミングにAIを使っている。ヘルスケア事業では自社のAIであるTakaneを用いて、保守メンテナンス、プログラミングを行い、生産性を100倍に高めた実績もある。AIを確実に進化させつつ、自らの開発プロセスや経営プロセスに積極的に組み込み、その経験をもとに顧客・業務ごとに最適なAIを選択できるようにしていく。AI市場での勝者はまだ決まっていない状況にあるが、富士通は同業他社とも連携し、最適なソリューションサービス、プロダクトを提供する。AIなくして企業の成長は難しい。富士通が率先してAI活用を実践し、メリットを示すとともに不安要素を払拭する。それが富士通に課せられた使命であり、責任である」と位置づけた。

  • Takaneを用いて、保守メンテナンス、プログラミングを行い、生産性を100倍に高めた

    Takaneを用いて、保守メンテナンス、プログラミングを行い、生産性を100倍に高めた

さらに、企業間競争は、AIを使う側と使わない側、さらにAIに使われる側とで大きく差が開く。個人についても同様で、AIを活用できる人とそうでない人との間で大きな差が生まれる。

そのうえで、富士通はAIを使う側であり、AIを生み出す側の企業として、積極的にAIを活用し、AIを進化させるという。大規模投資を行う企業に対しても、AIそのものの技術力はそこまで差があるものではなく、いつかは同じものが作れるとの見立てだ。

時田氏は「圧倒的な差は、AIに学習させる機会と量の差である。安全性を重視すると、AIは学習する機会を失うことになり、AIの進化は望めない。わずかな期間に日本語の対応が良くなったと感じる人も多いだろう。AIとはそういうものだ。富士通は汎用的なAIではなく、お客さまの業務プロセスに適切に作用する業務業種領域のAIに絞り込んでいる。Takaneは、業種特化型の国産AIモデルとして仕上げたものである。既存の業務プロセスから脱却し、新たな業務プロセスにイノベーションを起こすAI開発に取り組んでいく」との方針を示した。

「AIはハサミをカッターに替える程度ではない」 - 時田氏が語るAI活用の本質

AIの活用については、時田氏はユニークな比喩をした。「紙を切るのに、ハサミをカッターに代えるようなレベルで、AIというテクノロジーを見ていてはいけない」--。その理由を次のように語る。

「既存の業務をAIに置き換えて、コストを削減するという発想では、AIの能力を100%使うことにはならない。AIの能力を最大限に引き出す使い方がある。それによって業務革新や業務イノベーションが起こる。富士通のAI活用をそこまで引き上げたい。新たな業務プロセスに挑戦した会社が今後成長し、既存の事業者をディスラプト(破壊)すると考えている」(時田氏)

また、AIが駆動する社会が広がるなかで、同社は日本のテクノロジー企業として、日本の顧客を守らなくてはならないという。

同氏は「富士通は、お客様がデータの価値に気がつけるようなソリューションを提供していく必要がある。富士通はテクノロジー企業であり、新たなテクノロジーを生み出すことはできるが、そのテクノロジーを使ってもらえるお客さまがいなければ、富士通の成長や発展はない。技術は『使ってもらってなんぼ』である。選ぶのはお客さまであり、フィードバックを得て、開発者は新たなものに挑戦し、富士通の技術がさらに進化することになる。お客さまとのエコシステムが、富士通の成長には何よりも重要」と述べている。

AIの到達点に対する見方について、時田氏はAIは夢を語ることはなく、過去のデータの蓄積や人からのフィードバックによって行動するテクノロジーとの認識を示している。

これは人が夢のようなことを語れば、それを模してAIは返答する一方で、人の役割がAIにリプレースされてしまうという議論が絶えないが、AIが人間を超えるという話とは異なるという。同社では「信頼と創造」をもとに研究開発に取り組んでいるほか、ヒューマンセントリックを掲げて、人を中心において、あらゆるテクノロジーの研究に取り組んでいる。

同氏は「AIの進化は人間の能力を拡張させるもの。AIを使いこなす人間が進化しなくてはならない。当社は人間中心でAIを考え、AIが人間とどのように共生するのかを常に考えている。AIが持つべき社会性や倫理の問題についても取り組んできた。ハルシネーションを技術的に解決する仕組みをサービスプラットフォームに実装しているのはその一例。AIの最終到達点を考えると、AIが将来的に人間の能力を上回る可能性はあるが、その時点では人類もまた進化しているだろう。それを信じて、富士通は技術を進化、成長する側に回っている。技術が人間の生活や安心・安全を実現する一方で、人間の尊厳を損なうようなことがあってはならない。その信念で研究開発を行っている」と語った。

だが、時田氏はAnthropicのMythosが登場した際、大きな脅威を感じたとのことだ。同氏によると、人間からのフィードバックでAIは進化し、行動するものという考え方から一歩前に出た技術であり、自分で考えて、自律して次に進むという判断ができる可能性の扉を開いたという。

同氏は「同じようなAIは次々と生まれてくるだろう。米国以外の国でも同様のAIがすでに生まれているかもしれない。その点では日本や世界の安全保障上、憂うべく技術が生まれたともいえる。富士通は、そうしたことも考えて経営をしなくてはならない企業であると、CEOとして感じている。これが、Mythosが登場したときの偽らざる感想である」とした。

ソブリニティ(主権性)についても言及した。時田氏は「機密性の高いデータを保持している富士通のお客さまは多い。防衛や官公庁、医療システムを構築、運用しており、そのなかには、個人や国が守らなくてはならないデータが含まれている。出自がわからないプロダクトや、他国の法律でデータ開示が求められるようなプロダクトを提供していいのかと考えている。富士通はプロセッサから、ソリューションサービス、ネットワーク、AIの技術まで自社で保有しているテクノロジー企業である。そのため国の情報と、そこに暮らす人々のデータの尊厳を守り、主権を守るためにもソブリンという概念を持ってプロダクトを提供している」と述べた。

さらに同氏は「フィジカルAIは製造業だけの技術でない。人が生活する空間で、ロボットが動作する状況だけでなく、病院、駅、空港などの公共の場でも存在する。企業の製造力や生産性にだけ着目するのではなく、そこから生まれるデータの重要性にも配慮すべき領域である」と述べた。

RapidusやMONAKAにも言及、データセンター戦略と経済安全保障への貢献

一方、データセンター事業について時田氏は「データセンターは、AIの急速な普及で需要の大きな拡大が見込まれているが、富士通はデータセンター事業者として、この数年でデータセンターの整理を進めてきた。データセンターへの負担などを考えると、収益性の確保が難しい事業だと考えている」との見立てだ。

そうしたことから、同氏は「重要な領域ではデータセンターを確保し続け、電力需要の問題についてもテクノロジー企業としても取り組みを進めていく。データセンター内の自動化や効率化、AIの適用を進め、電力エネルギーの課題については、自社CPUであるFUJITSU-MONAKAにより、計算能力向上と省エネルギー化を同時に追い求めることで対応する」と述べている。

また、半導体製造のRapidus(ラピダス)との関係については「富士通が支援できることに大変うれしく思っている。ラピダスを支える社員のなかには、富士通で半導体事業に関わっていた人が働いている。経済環境や国際状況が変わるなかで、日本に半導体の生産拠点ができ、そこに仲間や先輩が戻り、活躍することをうれしく思う。高市政権の戦略17分野には、AI・半導体、量子、防衛といったように、富士通が関わる分野が複数含まれており、大きな責任を感じている。ラピダスは高市政権での経済政策のなかでの重要な取り組みの1つであり、大きな期待を寄せている」と力を込める。

FUJITSU-MONAKAのファーストバージョンの正式ローンチは2027年、それに次ぐFUJITSU-MONAKA-Xは2030年にローンチを予定している。これは、富岳の次世代機である「富岳NEXT」に搭載するCPUであり、ラピダスの半導体を使いたいと考え、技術的協議を含めて連携を深めているという。

  • 富士通におけるFUJITSU-MONAKAと量子コンピュータのロードマップ

    富士通におけるFUJITSU-MONAKAと量子コンピュータのロードマップ

時田氏は「ラピダスの最大顧客の1つとして、富士通が名前を連ねることは日本の経済安全保障上でも、非常に意義があることだ。いまはTSMCへの依存度が高いが、国内で生産できることは富士通自身のサプライチェーンの適正化を図るうえでも重要なことである。国策を体現する事業者として、大きな責任を果たすべきだと考えている。日本の国力が上がり、世界の秩序につながる貢献に富士通は一役買いたい」と語った。

黒字でありながらも、数回にわたる人員削減を実施していることについては、「事業ポートフォリオの変革と、それに伴う人材ポートフォリオの変革を同時に進めてきた結果。経営環境や外部環境の変化、テクノロジーの進化、地政学リスクなど、さまざまな変化のなかで経営をしている。事業ポートフォリオの変革は引き続き行っていくことになり、それに人材ポートフォリオの変革が伴うことは経営として重要である。収益性の向上を図りつつ、事業と人材のポートフォリオを同時に変えることが求められている」と説明した。

なお、第1号議案では、取締役の選任において、会長を務めていた古田英範氏を、取締役として重任する予定であったが、株主総会の招集通知公表後に本人の申し出により、取締役候補者とすることを撤回した。

時田氏は「6月16日に本人から辞退の申し入れ、辞任の申し入れを受け、即座に受け入れた。公表した通り、取締役として不適切な行動があったという確認をした。取締役会長の職に関連する社外のすべての要職は、同時に辞任することで各所に連絡をした。迷惑をかけたが、これらの後任については各所とコミュニケーションし、話を進めている」と述べた。

また、新たな社外取締役として、ソニー出身でインテル日本法人で社長を務めた鈴木国正氏が選任された。すでに、富士通では日本マイクロソフトで社長を務めた平野拓也氏が社外取締役に就いており、図らずもインテル日本法人の社長経験者が名前を連ねることになった。