具体的には、イタリア カッラーラ産の良質な大理石(方解石の塊)を用いた衝撃実験を実施し、その回収試料を偏光顕微鏡、X線マイクロCT、微小部X線回折法を用いて詳細に観察する一方、大理石が経験した衝撃圧力に対して、衝突実験と同条件で数値衝突計算を実施し、推定が行われた。その結果、3万気圧を超える衝撃圧力が加わった場合、方解石粒子の大部分が「波状消光」と呼ばれる不均質な光学的特徴を示すことが示されたという。

また、典型的な隕石母天体の衝突破壊を想定した数値衝突計算結果の解析も実施。直径100kmの母天体に直径20kmの天体が秒速5kmで衝突した場合の、3万気圧を超える衝撃圧力が加わる領域の広さが調べられたところ、波状消光を示すような粒子が発生する領域は、衝突点から30km程度の領域に限られることが判明したという。

  • 薄片に加工された衝撃後の大理石の薄片写真

    (a)薄片に加工された衝撃後の大理石の薄片写真(偏光顕微鏡で撮影。透過光、直光ニコル)。オレンジ色の円は飛翔体で爆心点に描かれている。爆心点近傍では方解石粒子が激しく損傷し、光を通しにくくなっている。一方、白い点線より下では資料がもとの場所にそのまま留まっている。爆心点の遠方になるほど、方解石粒子がほぼ無傷。爆心点の真下の白い長方形の領域のうち、赤い長方形の小領域に区切って偏光顕微鏡で観察が行われ、波状消光を示す粒子の数が数えられた。(b)数値衝突計算で求められた白い長方形の領域の衝撃圧力の分布 (出所:プレスリリースPDF)

これらの結果から、現時点ではまだ調べられていないが、もし仮にリュウグウ試料中の方解石で波状消光が示された場合、地球に持ち帰られた試料の少なくとも一部はリュウグウ母天体の30kmより浅いところにあった可能性が高いといえると研究チームでは説明している。

  • 回収された試料の顕微鏡画像の拡大表示

    回収された試料の顕微鏡画像の拡大表示。(a)爆心点からの距離は5mm、経験した衝撃圧力は4万気圧。こちらの方解石粒子は、全体にまだら状に黒っぽく写っている。(b)距離は20mm、衝撃圧力は1万気圧。こちらの粒子は明暗のコントラストがはっきりしているほか、きれいな消光が観られなくなる状態になっており、これが波状消光とされる。結晶構造が衝撃によって歪んでしまうことが原因だという (出所:プレスリリースPDF)

なお、このような議論はリュウグウ試料だけでなく、NASAの小惑星探査機オシリス・レックスが2023年のサンプルリターンに向けて採取したベンヌ試料や、炭素質隕石の分析にも適用できるとする。

また研究チームの千葉工大の黒澤上席研究員をはじめとする複数の研究者は、リュウグウ試料の初期分析チームにも所属していることから、今回の実験で得られた知見について、リュウグウ試料の分析結果を解釈する際に提供する予定としている。