東京工業大学(東工大)は3月30日、原始的な太陽系の材料の一種である炭素質コンドライトのうちで最も知られた「マーチンソン隕石」から、個々の有機分子の画像を直接AFMで取得することに成功したと発表した。

同成果は、東工大 地球生命研究所(ELSI)のヘンダーソン・ジェームズ・クリーブ特任教授のほか、NASA、西サンティアゴ・デ・コンポステラ大学、仏ノルマンディー大学、仏エクス・マルセイユ大学、フランス大学研究所の研究者が参加する、スイスのIBM基礎研究所が率いる国際共同研究チームによるもの。詳細は、惑星科学とその関連分野全般を扱う学術誌「Meteoritics & Planetary Science」に掲載された。

隕石は、太陽系の最初期の状況を知ることができる重要なサンプルとされている。その成分によって複数の種類に分けられており、炭素を多く含むものは炭素質コンドライトと呼ばれる。炭素質コンドライトは、小惑星探査機「はやぶさ2」がサンプルリターンを成功させたリュウグウなどに代表される、C型小惑星を母天体とする隕石で、初期の地球に有機化合物をもたらしたと考えられている。さらに一部の科学者は、そうして供給された有機物が、地球上の生命の起源に不可欠であったと推測している。

このような背景のもとで研究チームは今回、1969年にオーストラリアのビクトリア州マーチンソン近郊で回収され、最もよく研究されている炭素質コンドライトであるマーチンソン隕石から、個々の有機分子を非接触型原子間力顕微鏡(AFM)を用いて撮像することを試みることにしたという。

今回の撮像では、探針の先端に一酸化炭素を結合させた非接触型AFMが用いられた。未処理のマーチンソン隕石では、AFMでも識別できないほど小さな分子しか含まれていないため、高解像度の像を得ることができなかった。しかし今回は有機溶媒を使用するなどして、粉砕および抽出ステップにおいて工夫が凝らした結果、サイズの大きな有機化合物が豊富な画分を分離することで、AFMでも分解できるサイズの分子の割合を増加させることに成功したという。

  • マーチソン隕石の未処理の試料の撮影像

    マーチソン隕石の未処理の試料の撮影像。(a)分子が吸着している表面の走査型トンネル顕微鏡による概要画像。(b~h)0.5nmのスケールバーで撮像された個々の分子。(d~h)左がAFMデータで、右はハイパスフィルタがかけられたAFMデータ (C)Meteorit. Planet. Sci. 2022 (出所:東工大ELSI Webサイト)

今回、直接可視化に成功した分子は、複雑な多環芳香族炭化水素と脂肪族鎖だったという。これまでの研究から、それらの分子はマーチンソン隕石に存在することが示唆されてはいたが、今回の研究によってその存在が直接確認されることとなった。

  • COを先端に結合させた探針を用いた非接触型AFMによるマーチソン隕石中の個々の分子の像

    COを先端に結合させた探針を用いた非接触型AFMによるマーチソン隕石中の個々の分子の像。(左)マーチソン隕石の未処理試料の個々の分子(プロピルナフタレン)。(右)マーチソン隕石から抽出された個々の分子(ピレン) (C)Meteorit. Planet. Sci. 2022 / IBM Research (出所:東工大ELSI Webサイト)

なお、今回の成果について研究チームでは、太陽系最古の有機化合物の構造を原子レベルの分解能で理解する新たな道が拓かれたとしている。