さらに、選択的に基板との間の層下面をパッシベーションできる今回の手法のメカニズムの解明に向け、ペロブスカイト薄膜の前駆体材料の溶液に対する分析が行われたところ、GlyHClを添加することでペロブスカイトのコロイド状ナノ粒子が形成されることが見出された。研究チームでは、ペロブスカイト層が塗布成膜される過程で、グリシンで表面を覆われたナノ粒子が鍵中間体として作用していることが考えられるとする。

  • スズ-鉛混合型ペロブスカイト太陽電池

    スズ-鉛混合型ペロブスカイト太陽電池。(a)デバイス構造の模式図と断面電子顕微鏡像、(b)太陽電池特性、J-V曲線(上下表面パッシベーションの効果)とIPCEスペクトル (出所:京大プレスリリースPDF)

これらの層上下面へのパッシベーションにより、太陽電池の特性も向上したことが確認されたとする。具体的には、従来法で作製された場合は19.6%に対し、上面をエチレンジアンモニウムでパッシベーションすることで21.7%に、さらに下面をグリシンでパッシベーションすることで、23.6%にまで光電変換効率が向上することが判明したとしているほか、開放電圧は最大で0.91Vにまで向上していることも確認。この値は、スズ-鉛混合型ペロブスカイト半導体が持つ1.25eVのバンドギャップに対して0.34Vほどのロスであり、ほぼ熱力学的な理論限界値を達成していることになるという。

  • 電荷の取り出し効率の向上のメカニズム

    電荷の取り出し効率の向上のメカニズム。上下表面パッシベーションによる双極子モーメントの制御 (出所:京大プレスリリースPDF)

また、層上下面へのパッシベーションにより開放電圧のロスの低減と、高い光電変換効率を得られるメカニズムとその効果についても解明され、その仕組みとして、エチレンジアンモニウムとグリシンで表面をパッシベーションすることで、表面にそれぞれ電子と正孔の取り出しに有利な正電荷と負電荷を持つ電気双極子を発現させることが可能となり、ペロブスカイト薄膜から各電荷がこれらの電気双極子に引き寄せられることで、電圧のロスなく各電荷を上下の電荷回収層へと効率的に取り出すことができるようになるとしている。

なお、研究チームによると、今回の研究成果は今後、京大発ベンチャー「エネコートテクノロジーズ」にも技術移転され、高性能のペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた開発研究が展開されていく予定としている。