兵庫県立大学、紀州技研工業(紀州技研)、科学技術振興機構の3者は11月13日、「炭素電極を備えたペロブスカイト太陽電池(炭素電極ペロブスカイト太陽電池)」の性能が光照射によって回復するメカニズムを提唱し、同太陽電池で屋外環境20年相当の寿命(耐久性)に改善できることを加速劣化試験(ダンプヒート試験および熱サイクル試験、共にIEC 61215:2021を準拠、規格に対して試験期間を3倍に延長)によって実証したと発表した。

同成果は、兵庫県立大 大学院工学研究科の伊藤省吾教授、同・辻流輝大学院生、紀州技研の小林英治研究員、スイス・SolaronixのDavid Martineau研究員、独・Fraunhofer ISEのAndreas Hinschシニア・リサーチ・フェローらの国際共同研究チームによるもの。詳細は、オープンアクセスジャーナルの「Cell Reports Physical Science」に掲載された。

次世代太陽電池として期待される有機系のペロブスカイト太陽電池。近年の技術開発で性能が向上してきており、実用的な変換効率を実現しつつある。しかし、寿命が短い(耐久性が低い)という課題があり、その解決が求められていた。

研究チームも今回、耐久性に優れたペロブスカイト太陽電池の開発を目標に設定し、炭素電極ペロブスカイト太陽電池の開発を目標とした研究を進めたという。

炭素電極ペロブスカイト太陽電池は、主に以下の3点のメリットがあるとされる。

  1. 真空プロセスを必要とせず、炭素電極は金属電極に比べて安価である(製造コスト削減)
  2. 完全塗布型工程で軽量基板の利用が容易であり、軽量性を確保しやすい
  3. 主要な材料である炭素電極(グラファイト)とヨウ素の生産量は、日本が世界シェア20~30%を占めており、高い競争力を持つことが期待される

国際競争力のある研究体制を構築するために、EIG CONCERT-Japanの枠組みで欧州機関(SolaronixやFraunhofer ISEなど)との共同研究プロジェクトが2019年4月にスタート。日本からは、炭素電極ペロブスカイト太陽電池で開発実績のあった兵庫県立大が研究リーダーとなり、インクジェットプリンター技術を有する紀州技研が参画。その紀州技研とSolaronixによって、炭素電極ペロブスカイト太陽電池の作製方法に関する検討が進められていた中、紀州技研によって、特定の条件下において同太陽電池に光を照射すると性能が回復する現象(光改善)が発見されたという。

そこで紀州技研は、兵庫県立大とFraunhofer ISEに分析で協力を仰ぎ、光改善のメカニズム解明に向けた研究がはじめられたという。

詳細な調査の結果、ペロブスカイト内のイオン移動が光改善に関与していると考察され、電気化学インピーダンス分光においてイオンが関連する低周波数領域のキャパシタンスが調査されたところ、キャパシタンスが光照射中に増大する様子を観測することに成功したとしているほか、光照射の開始に伴いイオン移動が活性化して電荷の蓄積が起こり、電子の導電性が向上したことが考えれるとしている。

  • 炭素電極ペロブスカイト太陽電池

    (A)炭素電極ペロブスカイト太陽電池の構造(左)。光照射により生じるイオン移動と電荷蓄積の概略(右)。(B)同太陽電池に疑似太陽光(100mW/cm2)を照射した際の発電出力特性の変化(光照射前の初期値を1として規格化)。(C)電気化学インピーダンス分光によりイオンが関連する低周波数領域のキャパシタンスについて、光照射中および光照射前後の変化。なお、数値は実験結果から抜粋されたもの (出所:JSTプレスリリースPDF)

実際に光照射による性能改善を有する太陽電池を、加速劣化試験にかけたところ、85℃/85%相対湿度環境下でのダンプヒート試験において、発電出力が初期値の90%(T90)に至るまでに要した時間は3260時間となり、これは屋外環境で20年の耐久性(寿命)に相当すると研究チームでは説明している。

  • 炭素電極ペロブスカイト太陽電池

    炭素電極ペロブスカイト太陽電池における耐候性加速試験の結果(電流-電圧特性を評価する前に10分間の光照射を実施)。(左)ペロブスカイト結晶の組成比が(5-AVA)0.05MA0.95PbI3およびCs0.1FA0.9PbI3である太陽電池における85℃/85%相対湿度環境下でのダンプヒート試験の結果。(右)ペロブスカイト結晶の組成比が(5-AVA)0.05MA0.95PbI3における-40℃~+85℃での熱サイクル試験の結果。各値は、初期値によって規格化されている (出所:JSTプレスリリースPDF)

なお、今回の研究における炭素電極ペロブスカイト太陽電池におけるシングルモジュールの変換効率は12%前後だが、多結晶シリコン太陽電池に匹敵する16%以上のモジュール変換効率を達成することができれば、本格的な実用化が視野に入ってくると研究チームでは説明しており、今後、高耐久性を維持しつつ、変換効率を向上させる技術の開発が待たれるとしている。