名古屋大学遺伝子実験施設、同大学大学院理化学研究科の研究グループは、植物が雨を感知して免疫を活性化する仕組みを新たに発見した。

植物は、雨を葉の表面に存在する毛状の細胞(トライコーム)によって感知すると、病原体の襲来を予見し、免疫系を活性化させるという。

研究の詳細はイギリス科学雑誌「Nature communications」のオンライン版で発表された。

植物はヒトなどの多細胞生物と同様に免疫機能を有しており、病原体を感知すると、免疫関連の遺伝子発現を介して感染を阻害する。

一方で、植物に感染する病原体の多くは雨によって媒介される。雨滴中には細菌、糸状菌やウイルスといった病原体が含まれており、それらが病害発生の直接因子になっていることは知られている。したがって、植物にとって雨は危険因子の側面をもつが、植物の雨に対する応答機構は未解明であった。

そこで同研究では、まずRNA-seq法※1を用いてモデル植物であるシロイヌナズナが、雨を受けた際どのような遺伝子発現するのか解析を行った。その結果、植物は雨に打たれると免疫関連遺伝子が発現することが明らかとなった。

これらの遺伝子群は、CAMTA転写因子※2によって制御され、CAMTAの変異体では免疫応答は生じないことが示された。CAMTAの機能は、Ca2+によって制御されることから、雨は植物細胞内のCa2+濃度を上昇させるのではないかと考えられ、Ca2+を蛍光として検出できるGCaMP3遺伝子を導入したシロイヌナズナを用いて解析を行った。

  • A:葉面上の毛状の細胞(トライコーム)は、力を感知すると、緑色で示すようにトライコーム周辺組織にカルシウムウェーブを誘導する。細胞内のカルシウムイオン(Ca<sup>2+</sup>)濃度をGFP蛍光として可視化できるGCaMP3を導入した組換え植物を使用した。トライコーム周辺組織にカルシウムイオンが流入しているのが見てとれる。B:雨によって免疫が活性化され、黒斑病菌による病斑の形成が抑制された

    A:葉面上の毛状の細胞(トライコーム)は、力を感知すると、緑色で示すようにトライコーム周辺組織にカルシウムウェーブを誘導する。細胞内のカルシウムイオン(Ca2+)濃度をGFP蛍光として可視化できるGCaMP3を導入した組換え植物を使用した。トライコーム周辺組織にカルシウムイオンが流入しているのが見てとれる。B:雨によって免疫が活性化され、黒斑病菌による病斑の形成が抑制された(出典:名古屋大学)

その結果、雨は葉の表面に存在する毛状の細胞(トライコーム)によって感知されると、トライコーム周辺組織にカルシウムウェーブ※3 を誘導し(上図A)、黒斑病菌などに対する免疫系を活性化させ、その感染を防除することが明らかとなった(上図B)。

今回の研究は、植物が雨を危険因子として認識していることを明らかにし、トライコームがその感知を担っていることを示した。これらの結果は、免疫系の成り立ちの理解に寄与するだけでなく、農作物の病害防除にも応用できるとした。

  • 植物葉面のトライコームは雨などの力を認識して免疫を活性化する

    植物葉面のトライコームは雨などの力を認識して免疫を活性化する(出典:名古屋大学)

文中注釈

※1:任意の細胞や組織における遺伝子の発現レベルを調査する技術
※2:細胞内のCa2+濃度の上昇によって制御される転写制御因子
※3:局所で生じたCa2+濃度上昇がウェーブ状に周囲に伝搬する現象