米バイデン政権が、台湾の大手ファウンドリUMCに対し、米国自動車産業の中心地であるミシガン州デトロイトに車載半導体を製造する300mmファブを誘致しようとしていると台湾の複数メディアが一斉に報じている。

この誘致が実現すれば、UMCにとって初の米国工場となる。投資額は1000億NTドル(約4200億円)以上で、初期の月産能力は1万5000〜2万枚ほどとみられている。米国政府・商務省は、UMCがデトロイトで米国自動車メーカー向けに車載半導体を生産するよう要請しているという。

UMCは、TSMC同様に、生産拠点の分散に向けて世界各地での工場設置を検討しているとした上で、米国進出という市場関係者の観測にはコメントしないとしている。現在、同社は台湾のほか、中国、シンガポールおよび日本(United Semiconductor Japan:USJC)に半導体ファブを稼働させている。USJCはもともと富士通の三重工場(その後、三重富士通セミコンダクター)が買収されたもので、90~40nmプロセスでのファウンドリサービスを行っている。

  • UMCの製造拠点

    UMCの製造拠点 (出所:UMC)

デトロイトには、米国の自動車大手3社、いわゆるビッグ3と呼ばれるゼネラル・モーターズ(GM)、フォード・モーター、ステランティス(元クライスラー。2021年1月にFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)とグループPSA(旧プジョー・シトロエン)が合併))の生産拠点があり、ガソリン車のほか、電気自動車(EV)の生産も拡大している。

バイデン政権は、米国自動車メーカー向け半導体不足の解消、国家安全保障の確保、さらにはハイテク分野での競争力強化のため、国内の半導体生産拡大に520億ドルの補助金を支給する「CHIPS法(Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors:半導体製造支援法)」の早期成立を目指しているが、いまだ上下両院での最終審議が終わっていない。しかし、米国では、補助金支給をあてにして、すでにTSMC(アリゾナ州)、Samsung Electronics(テキサス州)、Intel(アリゾナ州およびオハイオ州)が先端300mmファブの建設を進めている(あるいは土地整備などの準備をしている)ほか、Texas Instruments(TI)がアナログ半導体用300mmファブをテキサス州に建設中、GlobalFoundriesも10nm台のデジタル半導体用300mmファウンドリファブの増設(ニューヨーク州)を計画中であるが、バイデン政権がUMCに建設要請しているとされる20nm台が必要とされる現行の車載半導体生産とは競合しない。

UMCの車載半導体はAEC-Q100の信頼性検証を備えているほか、すべての製造プロセスでIATF16949自動車品質管理システム認証も取得しているという。同社は、自動車向け機能安全規格「ISO26262」の「ASIL-D Ready」の取得を2022年1月に公表しており、車載半導体に注力する姿勢を見せている。

米国商務省は、米国での半導体製造強化に向けた補助金支給を盛り込んだ法案の成立めどが立ちつつあるため、補助金支給をちらつかせながらこれまで以上に積極的に、海外の半導体デバイスメーカー、半導体製造装置メーカー、部品・材料メーカーの誘致を行い、自国内だけでサプライチェーンを完結しようとしている。そうした誘致対象の中には、日本の装置・材料メーカーも含まれており、今後、そうした動きが顕在化すると見られる。