産業技術総合研究所(産総研)と日本ゼオンは1月25日、高いエネルギー密度と大容量のリチウムイオン電池(LIB)の負極材料として期待されているリチウム金属電極の実用化に貢献する技術として、「スーパーグロース単層カーボンナノチューブ」(SGCNT)を用いて作製したシートにより、リチウム金属の充放電時に発生するデンドライト(樹枝状結晶)を抑制する手法を開発したと発表した。

同成果は、産総研 ナノチューブ実用化研究センター 周 英主任研究員、日本ゼオンの山岸智子研究員らの共同研究チームによるもの。

電気自動車(EV)の普及に向けた大きな課題の1つが、1回の充電時間の長さと、その航続距離の短さで、それを補うために大量のリチウムイオン電池を搭載する必要があり、それにより車体重量の増加と車両価格の高止まりを招いているとされる。

そのため、より高エネルギー密度な2次電池の開発が求められており、次世代電池の開発が進められている一方、リチウムイオン電池の性能向上に向けた研究開発も進められている。

そうした中で、次世代の負極材料として研究されているのが、リチウム金属で、グラファイトなどの既存の負極材料と比較して高いエネルギー密度を持つことが分かっているものの、充放電時にリチウムデンドライトが成長することで、負極と正極を分けているセパレータの損傷などにより電池の材料構造に変化が生じ、短時間で電池容量が減少してしまうという課題があり、実用化には至っていない。

一方のSGCNTは、産総研が2004年に、高純度、長尺、高比表面積かつ分散性に優れたものを開発し、2015年に日本ゼオンがその量産化に成功。その後、両者は共同でSGCNTの分散・成膜技術開発を進め、高比表面積、高空孔率、高炭素純度に加え、リチウム親和性の高い、量産可能なSGCNTシートを開発し、電池などへの応用に取り組んできた。

そこで研究チームは今回、リチウム金属電極の耐久性向上のため、高比表面積、高空孔率、高炭素純度に加え、リチウム親和性の高いSGCNTシートを、リチウム金属とセパレーターの間に挿入した電極構造を構築し、負極と正極に同じ材料・構造を使用したコイン型対称セルを用い、電解液中での充放電特性評価を実施し、一定の電流値で充電、放電を繰り返した際の、電位差(過電圧)の時間変化を計測し、電池の劣化状態が診断された。

  • リチウムイオン電池

    従来負極技術と今回開発された負極技術の違い (出所:産総研Webサイト)

その結果、同技術によるリチウム金属とSGCNTシートを組み合わせた電極を用いた場合、単位面積あたりの充放電電流が2mA/cm2、充放電容量が2mAh/cm2の条件で、連続200時間経過しても安定した過電圧を維持し、充放電を継続していることが確認された。一方、リチウム金属を単独で電極に用いた場合は、約55時間後に両電極間の過電圧が急激に上がり、短時間でリチウム金属の電極特性が劣化することも確認されたという。

  • リチウムイオン電池

    コイン型対称セルによる充放電加速劣化実験。(a) SGCNTとLiを使用した新規技術、(b)Liを単独で使用した従来負極技術 (出所:産総研Webサイト)

充放電前のSGCNTシートの走査型電子顕微鏡(SEM)画像には、空孔を有するSGCNTの構造が観察されたほか、充放電後には、SGCNTの表面に50nm程度のリチウム金属粒子が均一かつ密に形成されていることが確認されたことから、CNTがリチウム金属と親和性の高い表面を有していることが確認されたほか、充放電前後のリチウム金属のSEM画像では、充放電後にリチウム金属の表面が直径数μmの棒状の結晶粒子で覆われていることが観察され、リチウムデンドライトが成長していることが確認されたという。

  • リチウムイオン電池

    (a)充放電前後のSGCNTシート表面(セパレーター側)の走査電子顕微鏡写真。(b)充放電前後のLi電極表面の走査電子顕微鏡写真 (出所:産総研Webサイト)

研究チームによると、今回開発されたSGCNTシートは、高い比表面積と高い空孔率を活かした三次元的な構造を有しており、リチウムとの親和性も高いため、充放電の際にリチウム金属を均一に反応させることができ、リチウムデンドライトの結晶成長を抑制していると考えられるという。

さらに研究チームでは、充放電の電流密度が10mA/cm2と循環容量が10mAh/cm2で、SGCNTシートを使用したリチウム金属電極の特性も評価。その結果、充放電が1000時間経過しても、安定した過電圧を維持し良好な充放電特性を示しており、SGCNTのシートは高エネルギー密度・大容量の充放電でも十分なリチウムデンドライト抑制効果を発揮していることが示唆されたとしている。

  • リチウムイオン電池

    市販CNTを用いたCNTシートの充放電特性評価 (出所:産総研Webサイト)

  • リチウムイオン電池

    SGCNTシートの高速・大容量の充放電特性評価 (出所:産総研Webサイト)

なお研究チームでは今後、SGCNTシートによるリチウムデンドライト抑制効果のメカニズムの詳細な解明を進め、その性能を活かした高エネルギー密度、大容量かつ長寿命な蓄電池の開発および、SGCNTシートの実用化を目指すとしている。