東京工業大学(東工大)は1月7日、全固体電池の固体電解質と電極が形成する界面の抵抗(界面抵抗)が、大気中の水蒸気によって増加し電池性能を低下させること、ならびに増大した界面抵抗は、加熱処理を行うことによって10分の1以下に低減し、大気や水蒸気にまったく曝露せずに作製した電池と同等の抵抗に改善できることを実証したと発表した。

同成果は、東工大 物質理工学院 応用化学系の小林成大学院生、同・一杉太郎教授、東京大学のエルビス・F・アルグエレス特任研究員、同・渡邉聡教授、産業技術総合研究所の白澤徹郎 研究グループ付、山形大学の笠松秀輔助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、米化学学会が刊行する材料と界面プロセスを扱う学術誌「ACS Applied Materials & Interfaces」に掲載された。 電気自動車(EV)の普及により、リチウムイオン電池のさらなる安全性の向上と性能向上が求められており、エネルギー密度を向上させ、より短時間での急速充電でも発火の危険性のない安全性を確保できる次世代電池として、電解液の代わりに固体電解質を用いる全固体電池(全固体LIB)の実用化が期待されている。すでに国内でも、要求されるエネルギー密度を達成した全固体LIBのプロトタイプが発表されるなど、後はいかに量産するかという、開発も最終段階に入っている状況となっている。

固体電解質を用いることで発火の危険性がなくなることから、現在以上の短時間での急速充電を安全に行えるようになるものの、固体電解質を用いただけで充電時間が短縮されるわけではない。LIBは、電極と電解質の間(界面)をイオンが通過することで充電されるため、界面においてイオンの移動が速いこと(界面抵抗が小さいこと)が重要とされているが、電極材料には大気中の気体と反応して変質してしまうものが多く、電池を組み上げて動作させてみると界面抵抗が大きくなってしまうという課題があり、固体電解質や電極材料を開発するのと同時に、界面抵抗が増大するメカニズムを解明して抵抗を減少させる手法を見出すことが、全固体電池の実用化において重要とされている。

そうした中、今回の研究では、大気中のどの成分が電極の劣化を引き起こし、界面抵抗増大の要因となるのか、Li3PO4固体電解質とLiCoO2電極を用いた検討が行われた結果、酸素・窒素・水素に曝露させた場合、電池性能の低下は認められなかったが、大気および水蒸気に曝露させた場合、界面抵抗が曝露前の10倍以上に増大することが判明。特に、水蒸気に曝露させた場合は電極の劣化が激しく、電池性能の著しい低下が観測されたという。

また、低下した電池性能を改善する手法の検討・開発として、水蒸気によって劣化した電極で作製された電池を動作させる前に150℃で1時間の加熱処理を行うと、電池動作特性が向上することを発見したほか、界面抵抗の大きさを見積もったところ、加熱処理前の10分の1以下となる10.3Ωcm2が示されたとする。この値は、大気や水蒸気にまったく曝露せずに作製した清浄な界面の抵抗値(10.9Ωcm2)と同等だという。

ただし、電池に組み上げる前に加熱した場合では、電池性能は低いままであることも確認され、負極まで形成し、完全に電池となっている状態で加熱することが重要であることが示されたとする。

  • 全固体電池

    作製された全固体薄膜電池の動作特性。(a)電極表面を水蒸気に曝露した電池では、ほとんど電流が流れずに電池反応が起きない。(b)加熱処理を行った電池では、大きな電流ピークが観測されており、良好な電池反応が起きていることが確認された (出所:東工大Webサイト)

この加熱処理による電池特性向上のメカニズムの解明を進めたところ、電極表面を水蒸気に曝露すると、電極の結晶構造を乱さずに、電極内部にプロトンが侵入することが確認されたことから、このプロトンが界面Liイオン輸送を阻害することが、界面抵抗上昇の原因であると考えられ、電池を加熱処理することで、そのプロトンが固体電解質中に自発的に移動し、正常な界面に回復することが明らかとなったという。

  • 全固体電池

    界面におけるイオン移動の様子。下の画像は界面近傍の正極の様子のイメージ。(a)LiCoO2正極の表面に水(H2O)分子が吸着すると、プロトン(H+)が正極内部へ拡散する(劣化した状態)。(b)正極の上に固体電解質と負極を接合させた電池構造の状態で加熱処理を行うと、侵入したプロトンが固体電解質中へ脱離し、正常な界面に回復することが今回の研究で明らかにされた (出所:東工大Webサイト)

研究チームによると、今回の研究で示された界面抵抗起源の解明と制御は、全固体電池のより一層の高性能化へ向けた一歩であると考えられるとのことで、今後、さらなる電池特性の向上につながる界面設計指針の構築が期待できるとしている。