東京大学、CYBO、内閣府、日本医療研究開発機構の4者は12月9日、東京大学医学部附属病院(東大病院)に入院した110名の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者から採取した血液内の循環血小板凝集塊を解析したところ、全患者の約9割において、過剰な数の循環血小板凝集塊が存在することを発見したこと、ならびにこの循環血小板凝集塊の出現頻度と新型コロナ患者の重症度、死亡率、呼吸状態、血管内皮機能障害の程度に強い相関があることを発見したことを発表した。

同成果は、東大大学院 理学系研究科の合田圭介教授、東大大学院 医学系研究科の矢冨裕教授、米・バージニア大学Gustavo Rohde教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

新型コロナに関連した血栓症が、同感染症の重症度や死亡率の重要な要因の1つであることが報告されているほか、最近では感染後の後遺症に微小な血栓が関連するといったことも報告されるようになってきた。

こうした背景から、新型コロナの治療では、「ヘパリン」を用いた抗凝固療法が予後の改善につながるという報告もなされるようになっており、国内外の医療機関から、明確な血栓性合併症の症状がなくても、すべての新型コロナ入院患者に血栓予防(主にヘパリン治療)を行うことを推奨する臨床診療ガイドラインが発表されるといった動きも出てきた。しかし、新型コロナに関連した血栓症の発症プロセスはいまだによくわかっていなかったという。

そこで研究チームは今回、新型コロナにおける微小血栓の形成過程を理解することを目的に、東大病院に入院した110名の新型コロナ患者(軽症23名、中等症68名、重症19名/うち男性73名、女性37名/うち生存99名、死亡11名)から採取した血液中の血小板凝集塊について、詳細な調査を実施。その結果、健常者と比較して全新型コロナ患者の87.3%に、過剰な数の循環血小板凝集塊が存在していることが確認された。中には、血栓症のスクリーニング検査で広く用いられている「Dダイマー検査」の値が、東大病院の基準値である1μg/mL以下の患者も多数含まれていたという。

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    今回の研究の概念図。各患者からの血液サンプルを処理後にマイクロ流体チップ上で流し、高速流体イメージング技術で血液サンプルごとに2万5000枚の血小板および循環血小板凝集塊の画像を短時間に得ることで、循環血小板凝集塊の画像ビッグデータが取得され、統計解析が行われた (出所:東大Webサイト)

また、循環血小板凝集塊の出現頻度と新型コロナ患者の重症度および死亡率に強い相関があることも判明したほか、統計的有意性はあまり高くないものの、男性患者の方が女性患者よりも血小板凝集塊の出現頻度が高いことが示されたという。これは、男性患者の方が女性患者よりも集中治療室への入室や死亡の傾向が強いという以前からの報告と一致しているとする。

さらに、画像解析によって血小板凝集塊の構造が調べられたところ、循環血小板凝集塊中の白血球の存在が、新型コロナの重症度および死亡率と関連していることも判明。これは新型コロナにおける白血球機能の亢進、白血球の血栓症への関与に関する過去の報告とも一致しているとしている。

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    今回の研究で用いられた高速流体イメージング装置とデータ解析ソフトウェア。(A)東大病院検査部に設置された臨床実用機。(B)取得された血小板、循環血小板凝集塊の画像 (出所:東大Webサイト)

このほか、循環血小板凝集塊の出現頻度と臨床検査データの比較から、白血球数(WBC)、Dダイマー値、凝固第VIII因子活性値(FVIII)、von Willebrand因子活性値(VWF:RCo)、トロンボモジュリン値(TM)、呼吸状態の重症度(respiratory severity)が、循環血小板凝集塊の出現頻度と強い相関関係にあることが判明。これらの関連性は、新型コロナ患者の肺における重度の血管内皮障害と、肺胞毛細血管における広範な微小血栓に関する、これまでの報告と一致しているとするほか、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が、血管内皮の損傷に続いて血管の炎症を引き起こし、微小血栓を形成するとともに、血小板を直接的に活性化しうるという報告とも一致していることが考えられるとしている。

研究チームによると、新型コロナ患者の循環血小板凝集塊の出現頻度について、軽症患者群では、発症後9~12日目にピークを迎え、その後1週間かけて徐々に低下し、16日目には軽症患者全員が退院したことが確認されたとするほか、中等症患者群では、発症後13~16日目にピークを迎え、その後2週間かけて徐々に減少し、28日目には中等症患者全員が退院した。しかし、重症患者群では、発症後1週間でピークに達した後、3週間にわたってプラトー状態が示され、その後、死亡または慢性期病院への転院が確認されたという。

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    典型的な軽症患者、中等症患者、重症患者の血小板、循環血小板凝集塊のサイズ分布 (出所:東大Webサイト)

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    循環血小板凝集塊の統計解析(ns: p > 0.05; *: p ≦ 0.05; **: p ≦ 0.01; ***: p ≦ 0.001; ****: p ≦ 0.0001)。(A)循環血小板凝集塊の出現頻度と重症度の関係性。(B)循環血小板凝集塊の出現頻度と死亡率の関係性。(C)循環血小板凝集塊の出現頻度と性差の関係性。(D)白血球を含む循環血小板凝集塊の出現頻度と重症度の関係性 (出所:東大Webサイト)

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    循環血小板凝集塊の出現頻度と臨床検査および身体的所見との関係性(ns: p > 0.05; *: p ≦ 0.05; **: p ≦ 0.01; ***: p ≦ 0.001; ****: p ≦ 0.0001) (出所:東大Webサイト)

いずれの患者群も発症後3~4日は循環血小板凝集塊の出現頻度が中程度だが、次の3~4日でそれが異なり始め、患者群ごとに異なる予後パターンを経る一方で、退院のタイミングはすべての予後パターンで循環血小板凝集塊の出現頻度が低下するという点で一致していることが重要だとするほか、最初の2つの期間(発症1~9日目、発症10~18日目)の呼吸状態と循環血小板凝集塊の出現頻度との間に強い相関関係があることも確認され、循環血小板凝集塊が新型コロナ患者の呼吸状態を示すよい指標となることが示されたとする。

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    循環血小板凝集塊の出現頻度の時系列モニタリング。(A)循環血小板凝集塊の出現頻度の時系列変化。(B)循環血小板凝集塊の出現頻度と酸素投与レベルとの関係性 (出所:東大Webサイト)

なお、今回の研究で得られた知見は、死後の病理解剖でしか確認できなかった微小血栓形成についての潜在的なリスクを評価する上で、循環血小板凝集塊の出現頻度と分布を測定することが、新型コロナの診断および治療の有効なアプローチになりうることを示唆しているという。また、今回の研究結果から、血栓症と診断されなかった新型コロナ患者であっても、CTやMRIなどの医用画像診断装置では小さすぎて検出できなかった微小血栓を形成していた可能性もあるとのことで、今後、循環血小板凝集塊の出現頻度と微小血管血栓症との関連性を直接検証することに向けたさらなる研究が必要だとしている。また、東大とCYBOは、今回の研究成果の実用化などを目指しているとしている。