京都府立医科大学は11月29日、手指衛生に使用される消毒薬を手に塗布して乾燥した後も消毒効果が残存する(残留消毒効果がある)かどうかについて、正確に評価できるモデルを構築し、手指衛生に使用される消毒薬各種の残留消毒効果を評価したことを公表した。

同成果は、京都府立医科大学 大学院医学研究科 消化器内科学の廣瀬亮平 助教、同 伊藤義人 教授、京都府立医科大学 大学院医学研究科 法医学の池谷博 教授、京都府立医科大学 大学院医学研究科 感染病態学の中屋隆明 教授ら研究グループによるもの。詳細は米国科学雑誌「Environmental Science & Technology」に掲載された。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)やインフルエンザウイルスの感染拡大を防ぐための手法の1つとして、適切なタイミングでの手指衛生(手指消毒・手洗い)が重要であるとされているが、常に手指衛生を実施できるとは限らないため、別の視点からアプローチした新たな接触感染制御法の構築も求められている。

手指衛生に使用される消毒薬の一部は、皮膚塗布後にその消毒効果が皮膚表面上に残存すること(消毒残留効果)がこれまでの複数の研究から示唆されていたが、残留消毒効果を臨床研究(被験者の皮膚上)における解析で正確に評価することは難しく、よくわかっていなかったという。

そこで研究グループは今回、残留消毒効果の正確な評価のためのモデルを構築したほか、皮膚表面の病原体生存時間の変化を残留消毒効果の程度を表す指標とすることによって、皮膚に塗布した各種消毒薬のウイルスに対する残留消毒効果を正確かつ客観的な評価を行ったという。

具体的には、以前研究グループが開発した剖検体皮膚を用いた皮膚上の病原体安定性評価モデルをベースに改良を行い、皮膚に塗布された消毒薬の残留消毒効果評価モデルを構築。その構築したモデルに、各種消毒薬を塗布し、残存するウイルスの量(力価)を経時的に測定し、ウイルスの生存時間の算出を行ったという。

  • 新型コロナ

    各種消毒薬を塗布・乾燥した直後の皮膚表面上のウイルス生存時間の変化 (出所:京都府立医科大学プレスリリースPDF)

評価対象となった消毒薬は以下の8種類。

  • 70 w/w%エタノール
  • 70 w/w%イソプロパノール
  • 1.0もしくは0.2 w/v%グルコン酸クロルヘキシジン
  • 0.2もしくは0.05 w/v%塩化ベンザルコニウム
  • 10 w/v%ポピドンヨード
  • 70 w/w%エタノール
  • 0.2 w/v%塩化ベンザルコニウムの混合物(合剤)

このうち、10%ポピドンヨードは手指衛生には一般的に用いられず手術時の皮膚消毒などに使用されるものであるが、残留消毒効果が強いため比較対象として対象として入れたという。

また、評価対象ウイルスは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)、ヒトコロナウイルス(HCoV-OC43)、インフルエンザA型ウイルス(IAV)の3種で、研究グループによると、今回のモデルでの残留消毒効果の評価結果が実際の被験者皮膚上での評価(臨床研究)と一致することをHCoV-OC43を用いて確認したとしている。

その結果、70%エタノールならびに70%イソプロパノールを塗布した皮膚表面上でのSARS-CoV-2、HCoV-OC43、IAVの生存時間はコントロール条件(消毒薬を塗布していない条件)の生存時間と有意差はなく、70%エタノールならびに70%イソプロパノールには残留消毒効果がないことが確認されたとする一方、ポビドンヨード、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウムを塗布した皮膚表面上での3種のウイルスの生存時間は、コントロール条件の生存時間に比して有意に短くなり、これらの消毒薬には残留消毒効果があることが確認されたという。特に10%ポビドンヨード(ポジティブコントロール)と0.2%塩化ベンザルコニウムでは強い残留消毒効果が認められ、70%エタノールと0.2%塩化ベンザルコニウムの合剤を塗布した皮膚表面上に残存するHCoV-OC43の 量(力価)も70%エタノール単剤に比して有意に低くことも確認されたことから、0.2%塩化ベンザルコニウムの添加がHCoV-OC43の生存時間を短縮することが示されたとしている。

  • 新型コロナ

    各種消毒薬の残留消毒効果 (出所:京都府立医科大学プレスリリースPDF)

  • 新型コロナ

    各種消毒薬を塗布・乾燥した直後および4時間後の皮膚表面上における新型コロナウイルスの生存時間の変化 (出所:京都府立医科大学プレスリリースPDF)

研究グループでは、この結果について、残留消毒効果を持たない70%エタノールに残留消毒効果を有する塩化ベンザルコニウムを添加することで、添加された塩化ベンザルコニウムと同等の残留消毒効果が付加された消毒薬を作り出せることを示すものであるとしており、そうした消毒薬を手指衛生に使用することで、従来通りの適切な手指衛生に加えて、ウイルスの生存しにくい皮膚表面の創出を同時に達成することが期待できると説明している。

ただし、モデルでは4時間残留消毒効果が確認されたものの、被験者の手の皮膚上での評価では2時間ほどと低下しており、発汗やほかの物体との接触により消毒成分が流出・喪失したものと推察されるため、実使用においても同様の現象が起こりえるため、発汗量や物体との接触頻度次第で、手掌や指などの部位の消毒残留効果の持続性は研究で示されたデータよりも低くなる可能性があるともしている。