順天堂大学は12月9日、ファンケルとの共同研究講座「抗加齢皮膚医学研究講座」の研究により、防腐剤や大気汚染物質による刺激によって、神経が過敏な状態に変化する可能性を、ヒトiPS細胞由来の「感覚神経細胞」を用いて明らかにしたと発表した。

同成果は、順天堂大大学院 医学研究科 環境医学研究所 順天堂かゆみ研究センターの髙森建二特任教授、同・冨永光俊先任准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、生化学や細胞生物学などを扱う学術誌「International Journal of Molecular Sciences」に掲載された。

肌がピリピリ、チクチクした刺激やかゆみを感じやすい感覚異常の状態、いわゆる「敏感肌」を訴える人は、年々増加傾向にあるとされているが、そうした感覚異常の原因の1つとして、感覚神経線維の密度が増加することが予想されている。しかし、ヒトの感覚神経を身体から取り出して培養することは倫理面から困難であり、また、動物実験の削減も近年では求められており、新たな培養細胞レベルでの研究技術の核につが求められるようになっている。

そうした中、ファンケルでは、再生医療技術を利用して、皮膚内部の感覚神経線維を試験管内で再現したヒトiPS細胞由来の感覚神経細胞を開発。今回の共同研究講座では、そのヒトiPS細胞由来感覚神経細胞を用いて、身の回りで広く使われている防腐剤や人体への影響が懸念される大気汚染物質、また、それらの外部環境などによって体内で発生する活性酸素が、感覚神経線維に与える影響について調べることにしたという。

具体的には、一般的な化粧品の使用であっても皮膚中で代謝されきれずに残存すると予測される濃度の防腐剤を含む培地において、ヒトiPS細胞由来感覚神経細胞を培養。代表的な防腐剤として「メチルパラベン」と「フェノキシエタノール」を添加して実験したところ、感覚神経線維がそれぞれ1.8倍と2.1倍に増えることが判明した。

  • 防腐剤によるヒトiPS細胞由来感覚神経細胞への影響

    (左)メチルパラベンによる、神経線維の増加(培地にメチルパラベンを添加しないときの神経線維長を1としたときの相対値)。(右)フェノキシエタノールによる、神経線維の増加(培地にフェノキシエタノールを添加しないときの神経線維長を1としたときの相対値) (出所:順天堂大Webサイト)

研究チームによると、これら数値からは、防腐剤がただちに皮膚の感覚異常を起こすように感じられるが、それを示すものではないとする。ただし、皮膚バリア機能が低下した敏感肌やアトピー性皮膚炎のような皮膚状態においては別だともしているほか、防腐剤を含む化粧品の使用で感覚神経線維が健常な肌状態よりも増加することが示唆されたことは、感覚異常の発生リスクを高める可能性があるとしている。

また、大気汚染物質の代表物質で、皮膚内部に浸透して炎症や老化の原因にもなりうる「ベンゾピレン」についても、同様に皮膚内に到達する可能性のある濃度を用いて感覚神経線維への影響を検討したところ、感覚神経線維にビーズ状の変性が2.7倍の頻度で生じることが確認された。このビーズ状の変性について研究チームでは、情報伝達に関与する感覚神経線維がダメージを受け、痛みやかゆみなどの感覚異常に関連した変化が起きている可能性が示されているとしている。

  • 大気汚染物質によるヒトiPS細胞由来感覚神経細胞への影響

    (左)ベンゾピレンによる、神経線維の変性(培養液にベンゾピレンを添加しないときのビーズ状変性の頻度を1としたときの相対値)。(右)過酸化水素による、神経線維の変性(培養液に過酸化水素を添加しないときのビーズ状変性の頻度を1としたときの相対値) (出所:順天堂大Webサイト)

さらに、紫外線や大気汚染物質、防腐剤などへの暴露や、加齢、炎症、ストレスなどによって体内で発生する活性酸素についても、感覚神経線維への影響を検討したところ、ヒトiPS細胞由来感覚神経細胞を過酸化水素を含む培地で培養すると、感覚神経線維にビーズ状の変性が4.7倍の頻度で生じることが判明。この結果は、皮膚深部で活性酸素が増えている状態の肌では、感覚異常の発生リスクが高まる可能性があることを示しているという。

今回の成果について研究チームでは、皮膚における感覚異常の発生や悪化の原因解明につながることが期待されるものとしているほか、今回の成果を基盤としたヒトiPS細胞由来感覚神経を用いたアプローチから、皮膚バリア機能が低下した人でも安心して利用できる化粧品などを神経科学的に証明していくことにもつながることが期待されるとしている。また、このヒトiPS細胞技術を感覚異常の発生や増悪のメカニズム解明にも応用していくことで、アトピー性皮膚炎や敏感肌などにおける異常感覚の予防と改善に役立つ薬剤や化粧品などの開発に向けた研究も進めていくとしている。