順天堂大学は10月4日、スマートフォン(スマホ)用アプリケーション「アレルサーチ」によるクラウド型大規模臨床研究により花粉症のさまざまな症状と特徴を検証した結果、花粉症の多様な症状を10群に層別化する手法の開発に成功したと発表した。

同成果は、順天堂大大学院 医学研究科 眼科学の村上晶教授、同・猪俣武範准教授らの研究チームによるもの。詳細は、アレルギー免疫分野の医学雑誌「Allergy」にオンライン掲載された。

花粉症は、日本国内において約3000万人が罹患しているとされる免疫アレルギー疾患であり、現在も患者数の増加が続いている。花粉症はアレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、花粉皮膚炎などを起こし、症状は多臓器にわたる上に、発症年齢、経過、重症度、治療への効果、予後などは個々人によって異なることを特徴とする。

また、乳児期にアトピー性皮膚炎として発症し、小児期に食物アレルギー、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎などを次々と罹患する、いわゆるアレルギーマーチが起こり、小児期から成人期まで対応する診療科が変遷することも生じている。

一方で、花粉症を対象とした複数の診療科における横断的・縦断的な有機的診療連携はまだ達成されていないことから、多臓器にわたる多様な花粉症の症状に対し、最適化された花粉症診療が進まないことが課題とされている。

また、花粉症の原因は、花粉や大気汚染物質などの環境要因、食事・喫煙・運動などの生活習慣、家族歴・年齢などの疫学的要因などが複合的に関連しているため、花粉症の病態理解と診療の質の向上には、それぞれの日常生活圏における花粉症に関する包括的なデータを収集分析し、個々人にとって最適化された花粉症対策を行う必要があるとされている。

そこで研究チームは今回、花粉症の多様な症状の層別化を目的に、花粉症研究のためのiPhone用アプリ「アレルサーチ」で収集した大規模なクラウド型データの検証を実施。アレルサーチは、順天堂大眼科を中心に花粉症に関連する横断的な研究チームによって開発され、2018年2月にリリースされた花粉症研究のためのスマホアプリである(現在は、Android版もリリース済み)。

今回の研究では、「アレルサーチ」を2018年2月1日~2020年5月1日までの対象期間中にダウンロードし、同意を得た研究参加者1万1284名を対象に、花粉症の多様な症状として5項目の鼻症状スコアと4項目の非鼻症状スコアを用いて分類を実施。収集されたデータを解析した結果、1万1284名の参加者のうち、9041名(80.1%)に花粉症の既往が認められたという。

さらに、花粉症の多様な症状について、次元削減アルゴリズム「UMAP」を用いた検証を行うことで10群のクラスターに層別化することにも成功したほか、階層型クラスタリングを用いて層別化された各クラスターの鼻症状スコアならびに非鼻症状スコアの視覚化が行われた。

  • 花粉症

    今回の研究により、花粉症の多様な症状が10のクラスター(色別)に層別化された。たとえば、重症群のクラスター1と3は近傍に配置されていることが見て取れる (出所:順天堂大Webサイト)

  • 花粉症

    階層型クラスタリングを用いて、層別化された各クラスターの多様な花粉症症状が視覚化された。グラフの見方は、X軸は鼻症状スコアと非鼻症状スコアが、Y軸は層別化された各クラスターが表されている。鼻症状スコア、非鼻症状スコアは、まったくない、軽度(症状はあるが容易に我慢できる)、中等度(症状は気になるが、我慢できる)、重度(日常生活に支障が出て我慢できない)の0~3点で評価された (出所:順天堂大Webサイト)

こうした花粉症の多様な症状を層別化することで、各クラスターそれぞれに対する予防や治療戦略を組み立てることができるようになると研究チームでは説明するほか、身近なスマホアプリを用いることから、花粉症の早期の予防および効果的な治療につながることも期待できるとしている。

今後は、さらに研究を進展させ、花粉症の症状管理、重症化抑制や予防介入が可能なスマホアプリの開発を目指していくことで、さまざまな疾患や症状に対して、将来のスマホアプリを使った予測・予防・個別化医療や参加型医療を推し進める原動力となると考えているとしている。