Astroboticは、2021年5月5日、アメリカのペンシルベニア州ピッツバーグに「Moon Shot博物館」を建設するとプレスリリースで発表した。まず、Astroboticとはどのような宇宙ベンチャー企業なのか? 建設を発表したMoon Shot博物館とはどのような博物館になるのか? 今日はそんな話題について触れたいと思う。

月を目指す世界を代表する宇宙ベンチャーAstroboticとは?

Astroboticは、月などの惑星探査を計画する宇宙ベンチャー企業で月面着陸船(ランダー)やローバーを開発している。

CEOを務めるJohn Thornton氏はカーネギーメロン大学時代にNASAの月面探査ローバー「Scarab」などを手掛けた実績を有するすごい方だ。

Astroboticでは、現在までに2つの月面着陸船のラインナップがある。1つ目が、「Peregrine(ペレグリン)Lander」。大きさは、おおよそ幅2.5m、高さ1.9mで月の極付近や中緯度付近に着陸する場合に応じて2種類のコンフィギュレーションが準備されている。2種類とも質量は100kg。5個のメインエンジンと12個のACSエンジンで軌道・姿勢などを制御し、月面へ着陸することができる。そして、このPeregrine Landerは90kgのペイロードを月へと運ぶことができる。GaInP/GaAs/Geの3接合半導体と放射線に強い太陽電池とリチウムイオンバッテリーで、月面では192時間程度の稼働が可能だ。性能について詳しくは、Peregrine Payload User’s Guide(※遷移先はPDF)をご覧いただきたい。

ここで重要なことをお伝えしたい。月面探査を目指す日本の宇宙ベンチャー、Dymonが開発したローバーの「YAOKI」は、NASAの月輸送ミッション「CLPS」に日本から初めて参加し、Astroboticの月面着陸船Peregrine Landerで、2021年冬に民間として世界初となる月面探査を実施する予定となっている。

  •  PeregrineとDymonのYAOKI

    ともに月を目指すPeregrineとDymonのYAOKI (出典:Astrobotic)

Astroboticが持つもうひとつの月面着陸船が、「Griffin(グリフィン) Lander」。Griffin landerは、まだUser’s Guideが公表されていないため、詳細は不明だが、Peregrine Landerに比べて大型で、おおよそ幅4.5m、高さ2.0m。Peregrine Landerと搭載コンポーネントは大きく変わらない印象のようだ。 他にも、「CubeRover」、「Polaris」という月面ローバーの開発も実施している。CubeRover については、CubeRover User’s Guide(※遷移先はPDF)が公表されているので、詳細はそちらをご覧いただきたい。

月面着陸船の製造現場を見ることができるMoon Shot博物館とは?

2021年5月5日、Astroboticは、Moon Shot博物館を建設する計画を発表した。

アメリカでは、宇宙関連の博物館といえば、スミソニアン航空宇宙博物館などが有名だろう。ほかにもNASAの各拠点などでも体験することができる。 ちなみに、Moon Shot博物館は、ペンシルベニア州では、初となる宇宙博物館のようだ。

では、実際どのような博物館なのだろうか。

予定では、写真のようにガラス越しにクリーンルームと見学スペースが仕切られた空間を提供するイメージのようだ。クリーンルームでは、クリーン服を実際にきたAstroboticの作業員が実際に月面着陸船を開発、製造している様子を臨場感を持って見ることができる。見学スペースでは、タッチパネルや上部にあるパネルで、さまざまな情報を得ることができる。憶測になるが、もしかしたらVRなどを使った月面体験などもあったりするかもしれない。

  • Moon Shot博物館のイメージ

    Moon Shot博物館のイメージ(出典:Astrobotic)

ここで、ちょっと疑問に思った読者も多いだろう。博物館と製造現場が一緒になっているのは何故だろう? 実は、Astroboticの拠点とMoon Shot博物館の拠点は同じ住所ということのようだ。

Moon Shot博物館は、実際に多くのスポンサーやRichard King Mellon Foundation(リチャードキングメロン財団)などのサポートによって設立されるようで、非営利組織として運営されていくようだ。

AstroboticのCEOでもあり、Moon Shot博物館の取締役でもあるJohn Thornton氏は “Space is more than just rocket science. We want to provide the ‘spark’”と述べ、 この博物館を通じて、”スパーク“を提供したいと表現した。

また、ピッツバーグ市長のBill Peduto氏は次のように述べている。 “Looking in through that clean room window, they’ll be able to see something that will leave this planet, and they’ll be changed forever. It's about bringing the Moon to Pittsburgh.” ピッツバーグが月への発信拠点となるよう高い期待感が市長の言葉からも感じられる。

Moon Shot博物館は、2022年夏に開館の予定とされている。新型コロナウイルス感染症の拡大が収束し、海外渡航も解禁になったらぜひ脚を運んでみたらいかがだろうか。

正直なところ、人工衛星やロケットの実際のフライトモデル(もしくはエンジニアリングモデルなど)を見たことがある読者も多いのではないだろうか。そのため、人工衛星やロケットであれば、目で見ることで実際の大きさや迫力などを肌で感じているだろう。しかし、月面着陸船となると、見たことがある人はほとんどいないのではないだろうか。

もし、日本でもベンチャー企業がいつでもどこでもこのような開発、製造現場を見ることができる博物館のようなものを提供したら、次世代を担う人材は、もっともっと「spark(スパーク)」を感じてくれるのではないだろうか。