京都セミコンダクター(京セミ)は12月10日、デジタルトランスフォーメーション(DX)の一環として、進めている旧式の半導体製造装置のIoT化による「スマートFAB」の運用を12月4日より開始したことを明らかにした。

同社は創立40周年を迎えた光半導体専業メーカー。北海道の恵庭と上砂川に工場を有し、5G向け高速フォトダイオードやFA向け受光系センサなどを手掛けており、「通信系フォトダイオードに至っては、世界で中心となっているようなデータセンターメーカーや通信機器メーカーでも採用されている」と同社代表取締役社長 兼 CEOの高橋恒雄氏は自社の強みを説明する。

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    2020年4月1日付で京都セミコンダクターの代表取締役社長 兼 CEOに就任した高橋恒雄氏。これまでもフリースケールやルネサスなどでも要職を歴任されてきた

ただし、光半導体の製造は2インチ、大きくても4インチウェハで行われるため、必然的に製造装置は古いものが多くなる。例えばプラズマCVD装置は25年以上前のものがいまだに日々のプロセス処理用として活用されているほか、ワイヤボンダやLEDエージング装置などはデータを読み出すのにフロッピーディスク(FDD)を必要とするものもあるという。今回の取り組みは、こうした旧式製造設備を、Raspberry Piと各種センサを用いてIoT化し、それをシーメンスの産業用ゲートウェイ「MindConnect Nano」とオープンIoTオペレーティングシステム「MindSphere」につなげることで、スマート化しようというもの。MindSphereでセキュリティが担保されるため、クローズドの工場ネットワークである限りは、Raspberry Piであっても問題はないとの判断から、安価で入手のしやすいRaspberry Piを用いることが決まったという。

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  • スマートFABのデモが行われた恵庭事業所に設置されているCVD装置。装置側面にIoTセンサが設置されている (提供:京都セミコンダクター)

IoT化とMindSphereの組み合わせにより、製造現場のデジタルトランスフォーメーション(DX)が促進されることとなる。各種センサで得たデータを、MindSphereを介してビッグデータとして解析、遠隔地のPCからダッシュボードでそれらのデータをベースとした装置の監視を可能としたほか、将来的には統計的プロセス制御(SPC)を活用した品質の向上やAIによる故障予知、歩留まり向上なども期待され、これらの手法の活用によって致命的な装置の故障を避けることができるようになり、装置寿命をさらに5年以上伸ばすことができる見込みだという。これに伴って、設備投資費用は5年間で10億円ほど浮かす効果が期待されるとしており、その浮いたコストを使って、さらなる成長戦略に投資を行い、事業規模の拡大を目指すとしている。

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    スマートFABのダッシュボード。装置の状況が一目でわかるようになっている (提供:京都セミコンダクター)

高橋氏は、「今後もどんどんDXを進めて、クラウドを活用して、スマートFABの導入を進めることで、一段と先進的なものづくり会社になりたい」とし、デジタル化の手を緩めるつもりはないことを強調。すでに工場のスマート化のみならず、Office365を活用した社内の完全クラウドIT化や、クラウドERPの試験導入、購買システムの稼働など、バックオフィスのデジタル化も進めており、ポストコロナ時代における働き方を意識した改革を社全体で進めているという。

旧式設備のダウンタイムを70%削減へ

同社が旧式製造装置のIoT化として取得しているデータは、先述のCVDの場合、ガス流量、ガス圧力、真空度、高周波電源パワー、ガスボンベの残量などだという。こうしたデータはこれまで装置に備えられたアナログ計器を目視で確認し、紙ベースで手書きで行われたいたが、デジタル化されたことで、遠隔地から把握することが可能となったほか、設定されたしきい値を越えた場合、即座に担当者に連絡が飛ぶため、ダウンタイムの削減にもつながるという。また、予知保全と組み合わせることで、故障時のダウンタイムは従来3週間ほどかかっていたものを4日程度、つまり最大70%削減できると同社では見ており、今後、さまざまなデジタル技術をさらに活用していくことで、その実現を目指すとしている。

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  • 京セミスマートFABの概要 (提供:京都セミコンダクター)

ちなみにRaspberry Piを活用することで、スマートFABのシステム全体の投資金額は年間200万円程度に抑えられているとのことで、「京都セミコンダクターの従業員たちは技術力が高く、かつ柔軟性もあり、これをやると決めたら自立的に進めてくれるほど優秀。会社全体としてDXをやらないといけないという意識が醸成されている。それだけの人が集まってくれている」(同)と、それを実現したスタッフの技術レベルの高さを高橋氏は賞賛。その技術力を生かして、「今後1~2年かけて旧式設備のIoT化を進め、3年後にはAIを用いたIoT化も取り入れる計画。ロードマップとしては5年程度ですべてのIoT化を完了する計画」だと先を見据える。

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    京セミスマートFABの今後の計画 (提供:京都セミコンダクター)

なお同社は現在、恵庭事業所に10億円を投じて第2事業所となる光デバイス製造開発センターの建設を進めており、2021年1月から生産を開始する予定としており、生産能力が引き上げられる見通し。「生産規模が高まれば高まるほど、スマートFABが活躍する立て付けになっている」(同)とのことで、今後も徹底したクラウド化とIoT化の推進を続け、事業規模の拡大とともにESGならびにSDGsへの貢献を果たしていきたいとしている。

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    京都セミコンダクターのマスコット「京セミコンタくん」。恵庭事業所、上砂川事業所にときどきひょっこり顔を出してくれる可愛いキタキツネという設定。本当は京都の伏見稲荷大社のご近所さんらしいという設定もあるようだが、現在は、東京新宿の雷電稲荷神社で光チャージして、北海道の大自然ですくすくと育っているらしい