東京都市大学と東北大学は8月27日、海洋生物の化石データから地球上の生命が絶滅しなかった確率を推定する方法を提案し、地球上の生命の誕生から現在までの約40億年間に生命が絶滅せずに生き残れた確率は約15%であると推定したと発表した。

同成果は、東京都市大学理工学部自然科学科 准教授 兼 東北大学学際科学フロンティア研究所の津村耕司 客員准教授らの研究チームによるもの。詳細は、「Scientific Reports」に掲載された。

現在、4000を超える系外惑星が発見されており、中には地球に酷似した惑星も見つかってきている。そうした事実から、近年は地球外生命の発見が期待されているところだ。2020年代から2030年代にかけて、次世代の地上の大型望遠鏡が稼働し、宇宙望遠鏡が打ち上げられることから、発見は時間の問題とする科学者もいるほどだ。

もはや地球外生命は「いるのか? いないのか?」の時代から、「どこにいるのか?」という時代に移っているといわれる。系外惑星のうち、水が液体の状態で存在できるハビタブルゾーン内を公転する惑星に対しては、地球外生命の活動の証拠を求めて大気中にバイオマーカーを探す試みなど、さまざまな地球外生命の探索が活発に行われている。

しかし人類が知る生命は、現時点では我々人類を含めた地球上の生命のみであるため、どのような惑星を探せばいいのか(地球に似た環境の惑星だけでいいのかどうか)、生命を宿す天体が宇宙にどのぐらい存在するのかを推定するのは非常に困難だ。そこで津村准教授らは今回、唯一入手可能な地球上の生命の歴史を化石の情報から探すという古生物学的なアプローチを通じて、地球外生命探査に迫ることにしたのである。

画像1の3つのグラフは今回の研究で使用されたデータだ。上段左は化石データに基づく海洋生物属の数の時間変化が、上段右はそのデータから求められる各時代ごとの絶滅の規模が表されている。そして、下段のひとつは上段のふたつから作成した絶滅の規模のヒストグラム(度数分布)だ。このヒストグラムは、対数正規分布関数でよく近似するという。

地球では、これまでに6回の大量絶滅が起きているとされる(5回とする見解の方が一般的で、「ビッグファイブ」などと呼ばれているが、今回の研究では6解説が採用されている)。そのうちの最も新しいものは、約6500万年前の大型隕石の落下により恐竜などが絶滅したもので、これらの大絶滅は、自然現象による偶然の結果だ。ただし津村准教授らによれば、こうした偶然により発生する現象のヒストグラムは、対数正規分布関数でよく近似され、数学的な原理とよく一致する結果といえるとする。

つまりこの結果は、直近の過去5億4000万年の間に、地球上でどのような規模の絶滅がどのような確率で発生したのかを表している。この確率に従えば、5億4000万年の間に地球上の生物が生き残れた確率は約76%だという。逆をいうと、5億4000万年の間に全生命が完全に絶滅し、地球が死の星となっていたかもしれない確率も約24%あった、ということになるのである。

過去5億4000万年という期間に限定されているのは、現時点で人類が入手できる精度の良い化石データがその期間に限られており、それ以前のデータが十分ではないことが理由だ。地球で最初の生命が誕生したのは約40億年前と考えられているが、そのために35億年近い大きな隔たりがある。そこで津村准教授らは今回の研究において、直近の5億4000万年間の化石データの解析で得られた大絶滅の頻度分布が、最初の生命誕生から現在までの約40億年間で一定だったと仮定。その上で地球生命が誕生以降、絶滅しなかった確率を推定したところ、約15%という低い結果が導き出されたのである。

確率の推定の仕方について要約すると、今回のモデルでは単純化しており、300万年間に1回「絶滅くじ」を繰り返し引くことに例えられるという。絶滅くじを引いてたとえばその結果が0.05だった場合は、その時点で存在する生物属の5%が絶滅するという意味を持つ。そして、1を上回った場合は全生物の完全な絶滅を意味し、その確率は300万年間に0.15%という推定だ。

こうした絶滅くじ約40億年前の生命誕生から300万年ごとに1回、現在までに引き続けると1200回以上になり、そのすべてに勝ち続けられる(生き残れる)確率は約15%という結果となるのである。約15%という数字は高くないが、1200回以上のくじを引いて全部「当たり」ということを考えれば、かなり高い数字ともいえそうである。どちらにしろ、我々人類がこうして誕生し、なおかつ現在も生き延びることができているのは、かなりの幸運があったといえそうである。

また今回の成果は、太陽系外で生命を宿すような天体の数を推定するときなどにも応用できるという。たとえば、銀河系内に地球のような文明を持つ天体(知的生命体が生存する天体)を推定する式として有名な「ドレイクの方程式」に組み込むことが可能だ。ドレイクの方程式とは、「N=R×fp×ne×fl×fi×fc×L」で表される。各変数は以下の意味を持つ。

  • N:銀河系内で、文明を持つ生命が存在する星の数
  • R:一年間に銀河系で生まれる(生命の存在や進化に適する)恒星の数
  • fp:その恒星が惑星を持つ確率
  • ne:その恒星ひとつあたりが持つ、生命が生存するのに適した惑星の数
  • fl:その惑星で生命が存在する確率
  • fi:その生命が知的生命体に進化する確率
  • fc:その知的生命体が、文明を持つ程度まで進歩する確率
  • L:その文明の寿命

変数のうちR、fp、neは観測技術の進展により、精度の高い推測ができるようになってきた。しかし、それ以外の数値は高い精度で求めるのは、地球の生命や我々人類自身のことしかサンプルとして把握できていないために難しいのが現状だ。たとえば「誕生した生命が知的生命体にまで進化する確率」であるfiの場合、人類が知る唯一の知的生命は人類自身であり(地球上の生命で人類のみを知的生命体とした場合)、その誕生までに約40億年の時間がかかったと考えられている。そのわずか1例しかないわけで、比較対象がないことから、それが宇宙的に見て一般的なのか早いのか遅いのか、知的生命体に進化するまでの確率や速度がまったくわからないからだ。

そのため、これまでfiなどについては、勘や当てずっぽうで何の根拠もなく推定されてきた。しかし、今回の研究で導き出された約15%という値は、いくつもの仮定の上で導き出された数値ではあるものの、地球の生命の歴史という確かなデータに基づいたものであり、根拠のない勘や当てずっぽうに比べたら格段に信憑性の高い数値といえるだろう。津村教授らは、今回導き出された約15%という値を、fiに用いることを提案している。

  • 大量絶滅

    上段左のグラフは、化石データベースにおける海洋生物属の数の時間変化。黒のデータは知られている全データを示しており、青のデータは確度の低いデータを取り除いたもの。上段右のグラフは、上段左のデータから求まった各時代ごとの絶滅の規模(絶滅した生物属の割合)。データはRohde&Muller(2005)より。下段のグラフは、化石データから求まった絶滅の規模のヒストグラム(度数分布)。赤線はこのデータを近似する最適な対数正規分布関数とその不確かさの範囲 (出所:東京都市大学Webサイト)