フレキシブル・エレクトロニクスの公立研究機関である蘭Holst Centreは、大気圧空間分離原子層堆積(sALD)技術を使用して、有機EL(OLED)ディスプレイ用薄膜トランジスタ(TFT)バックプレーンに半導体層と誘電体層を共存させることに成功したと発表した。

安価で透明なプラスチック・フィルム上にTFTを製造できるため、ディスプレイやイメージセンサー向けのフレキシブル電子機器アプリケーションでのコスト削減が期待できるという。Holst Centreでは、この低温常圧大面積プロセスを活用し、PENフィルム上のトップゲート自己整合TFTのバックプレーンと、OLEDフロントプレーンと組み合わせたディスプレイの試作品(200ppi、QVGA)を、11月27日~29日に札幌で開催される国際ディスプレイワークショップ(IDW)で展示するとしている(図1~3参照)。

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    図1 sALDを用いて試作したフレキシブルOLEDディスプレイ (出所:Holst Centre)

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    図2 バックプレーンを作製した透明プラスティック基板 (出所:Holst Centre)

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    図3 OLEDフロントプレーンと組み合わせて完成したフレキシブルディスプレイ。周辺に形成されているのはプロセス評価用のテスト回路(TEG) (出所:Holst Centre)

sALDはHolst Centre発ベンチャーが開発

今回用いられたsALDプロセス装置は、2018年にHolst Centreから独立して設立されたスタートアップ企業の蘭SOLDtech(ソルテック)が開発したもの。SOLDtechは、2019年時点で実用可能な第1世代(35cm×25cm)基板サイズのFPD用sALD装置を提供できる唯一の企業であり、現在は携帯電た/タブレット、テレビなどに向けた次世代フレキシブル有機ELの生産設備の開発を進めているという。

sALDは、基板をさまざまなプリカーサガスにさらし、連続反応・堆積させるALD技術で、これまで時間を要していたチャンバ内パージが不要になるという利点がある(このため、堆積速度が1nm/秒と、従来プロセスよりも速く、既存のALDとは異なり、常圧プロセスのために高価な真空装置は必要ない)。

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    図4 今回の研究で用いたsALD装置(左)とプロセスを行う内部構造の模式図(右) (出所:Holst Centre)

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    図5 sALD装置の堆積プロセスユニットの模式図(図4のALDゾーンの拡大図)

sALDでIGZO層と誘電体層を連続形成

現在、多くの液晶ディスプレイのTFTバックプレーンとしてIGZOが用いられているが、通常、スパッタリングによって堆積された後、性能を確保するために高温アニールを施す必要があり、このため通常よりも高価な高融点の基板が必要となっていた。sALDは、高組成制御と優れた厚さ均一性を備えた原子層レベル厚の材料を大気圧で迅速に堆積できる技術であり、この手法はこれまで、固体電池やTFTバックプレーン用途に向けた高品質の個別材料層を生成するために使用されてきた。今回は、それをIGZO(半導体層)とアルミニウム誘電体酸化物(誘電体層)の双方を統合したTFTプロセスによって、低コストの透明プラスチック・フィルム上に堆積させることに成功したというものとなる。

ホルストセンターのシニアサイエンティスト・Ilias Katsouras氏は、「sALDは、実用可能なTFT性能を提供できるレベルに達しているが、プロセスと材料を最適化することにより、さらなる高性能化の余地がある。現在は、大量のフレキシブルTFTの製造コストをさらに低減するために、sALDをすべてのTFT層に適用することを検討している」と述べている。

なお、IDCでの講演タイトルは、「Low-Temperature IGZO Technology on Transparent Plastic Foil by Atmospheric Spatial Atomic Layer Deposition"(大気圧空間分離原子層堆積法を用いて透明プラスティック薄板上に形成した低温IGZO技術)」となっている。