日本原子力研究開発機構(JAEA)と量子科学技術研究開発機構(量研機構)は、特定のセラミックスが放射線に強い理由を探るために、高エネルギー重粒子線を照射したセラミックスに形成される数nmの大きさの超微細組織を観察する手法を開発した。また、同法を利用して組織を分析した結果、内部が損傷しているものと、再結晶化によって修復しているものがあることが判明した。

同成果は、JAEA 原子力基礎工学研究センターの石川法人 研究主幹らと、量研機構 高崎量子応用研究所の田口富嗣 上席研究員によるもの。詳細は、英国の学術誌「Nanotechnology」に掲載された。

従来法と新しい観察法との比較 (出所:日本原子力研究開発機構Webサイト)

材料は一般的に、放射線にさらされると劣化が進む。セラミックスも同様で、放射線環境では材料の内部や表面に損傷が生じて、本来もっている機能が劣化していく。特に、高エネルギー重粒子線に照射されると、顕著な照射損傷を生じる。近年、特定のセラミックスにおいて、予想より照射損傷が少ないことが分かってきたが、そのメカニズムは未だ分かっていなかった。

高エネルギー重粒子線を照射したセラミックスの表面には、数nmの大きさの両微細組織が発生する。従来の観察法では、超微細組織以外の組織も重なって見えてしまうため高倍率で見ても超微細組織の観察は行えなかったが、今回、研究グループは透過型電子顕微鏡を利用し、重粒子線を斜めから照射することで、同組織の観察に成功した。

これにより、さまざまなセラミックスにおいて、高エネルギー重粒子線の照射によって発生した超微細組織をクリアに観察することが可能となり、その結果、これまで不明だった超微細組織の内部の状態が詳細に分かるようになった。セラミックスの表面に発生した超微細組織を観察してみると、その内部の原子の配列は乱れており、配列の乱れが、まったく修復されずにそのまま残っている状態であることが分かったという。

一方、「放射線に強い」特定のセラミックス(例:フッ化バリウムなど)では、上記のセラミックスと異なり、超微細組織の内部の原子が整列していることが分かった。超微細組織の内部の原子の配列が一旦は乱れたにもかかわらず、すぐに再結晶化したことが示唆された。これにより、放射線に強いこれらのセラミックスは、高エネルギー重粒子線の照射によって原子の配列が乱れても、すぐに「自己修復」したと考えられると研究グループでは説明している。

照射した表面に発生した超微細組織の写真。セラミックス(Y3Fe5O12)は自己修復できない (出所:日本原子力研究開発機構Webサイト)

照射した表面に発生した超微細組織の写真。セラミックス(BaF2)は自己修復できる (出所:日本原子力研究開発機構Webサイト)

同成果に関して研究グループは、「今後、セラミックスがもつ自己修復能力の解明が進めば、宇宙や原子炉のような強い放射線環境でのセラミックスの利用の可能性が広がる」と説明しており、放射線に強い核燃料セラミックスが放射線環境で自己修復をしているか、表面状態の変化の追跡によって調査していくことなどを検討しているとのことだ。