理化学研究所(理研)は7月5日、単一分子の発光・吸収特性を分子スケールの空間分解能で計測することに成功したと発表した。

同成果は、理研Kim表面界面科学研究室 今田裕研究員、金有洙主任研究員らの研究グループによるもので、7月5日付けの米国科学誌「Physical Review Letters」オンライン版に掲載される。

有機分子を太陽電池や光触媒、発光ダイオードなどの光エネルギー変換デバイスに用いる場合、分子の光学的な特性を調べることが重要となる。これまで、発光・吸収特性計測には光学技術が用いられてきたが、空間分解能を数100nmよりもよくすることができず、数10nmより小さい微細構造や単一分子の光学特性を詳細に調べることは困難であった。

同研究グループはこれまでに、走査トンネル顕微鏡(STM)をベースとした発光分光法(STM発光分光法)を独自に開発し、さまざまな現象を単一分子レベルで観測してきた。今回は、STM発光分光法を用いて、高い空間分解能で単一分子の光学特性を測る新しい発光・吸収分光法の開発に取り組んだ。

STM探針と金属基板の間にトンネル電流が流れると、探針-基板の間に局在するプラズモンが励起され発光する。今回の研究では、この局在プラズモンをフタロシアニン(H2Pc)分子から数nmの距離に近づけて分子と相互作用させたところ、局在プラズモンのブロードな発光ピークの上にシャープなピークやディップが現れることを発見した。理論解析から、これらのシグナルは単一分子の発光・吸収に由来したものであることを解明し、新しいタイプの単一分子発光・吸収分光が可能であることを実証している。

単一分子の吸収特性計測はこれまで非常に困難とされており、同研究グループは今回の成果について、基礎科学的な観点から重要な成果であるとしている。

(a)実験の概念図。STM探針と銀基板の間に局在するプラズモンをトンネル電流で励起し、発光スペクトルの測定を行う。もし局在プラズモンと分子の間に相互作用があれば、発光スペクトルに変化が生じる
(b)試料のSTM像と、フタロシアニン(H2Pc)分子の分子模型。青い丸が窒素原子、黒い丸が炭素原子、白い丸が水素原子を示している (画像提供:理化学研究所)