九州大学は、同大学大学院歯学研究院口腔細胞工学分野の松田美穂講師と平田雅人主幹教授(現名誉教授・福岡歯科大学客員教授)の研究グループが、自らが発見した分子であるPRIP(Phospholipase C Related but Catalytically Inactive Protein)に関して、卵巣における卵胞成熟過程に作用することを明らかにしたと発表した。この研究成果は3月30日、米国の国際学術誌「The Journal of Biological Chemistry」オンライン速報版に掲載された。

PRIPがないと卵胞が成熟しにくく排卵数が少ない

「生殖」は生物が存続する上で最も重要な機構であり、複数の器官が連携して複雑で精緻なシステムを構築している。その中で卵巣は、性周期を司る重要な組織でホルモン分泌などを通して、周期的に卵子(卵胞)を受精可能な状態に成熟させ排卵しており、その働きが良好でないと卵子の未成熟や排卵障害、生理周期異常などを引き起こし、不妊に至るケースもあるという。

研究グループは、自らが発見した分子である PRIP(Phospholipase C Related but Catalytically Inactive Protein)が、卵巣における卵胞成熟過程に作用することを明らかにした。この分子を持たないマウスは、出産回数が少ないうえに一度の出産仔数も少なく、調べたところ性周期が乱れ排卵数が減少していたという。

また、このマウスの卵巣では、卵胞の成熟が進んでいないために成熟した卵子の数が少なく、排卵数が少なくなっていることが判明した。つまり、卵子の成熟には PRIP が必要であることが示されたことになる。また、このマウスは、人の不妊症の原因のひとつである多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)に似た特徴を示したということだ。

この報告は、不明点が多い生殖機構の基盤研究に進展をもたらすとともに、妊娠・出産を妨げる疾患の病因・病態の解明につながることが期待される。また、卵巣機能が良好であり続ければ老化を遅らせることにも寄与するため、アンチエイジングへの手がかりのひとつとなる可能性があると説明している。