国立環境研究所(国環研)などは5月8日、Oct3/4という遺伝子の働きを高めることでニワトリのiPS細胞を効率的に樹立できることを発見したと発表した。

国立環境研究所生物・生態系環境研究センター 片山雅史特別研究員、大沼学主任研究員、岩手大学連合農学研究科 福田智一教授らの研究グループによるもので、4月7日付の国際科学誌「Journal of Cellular Physiology」に掲載された。

鳥類のiPS細胞の樹立は困難であり、海外で数例の報告はあるものの、効率的なiPS細胞の樹立方法はこれまで確立されていなかった。そこで同研究グループでは今回、ニワトリをモデルとして鳥類の効率的なiPS細胞の樹立を試みた。

具体的には、ニワトリの孵化後1日のヒナ由来の体細胞へ初期化因子を導入。初期化誘導のための遺伝子として、Oct3/4(Pou5F1)、Sox2、Klf4、c-Myc、Lin28、Nanogを使用した。さらにOct3/4の転写活性を高めるためにMyoDという遺伝子の転写活性領域の一部をOct3/4に結合。これらの遺伝子をひとつのベクターに連結させて、PiggyBacトランスポゾンシステムを用いて体細胞へ導入した。この結果、ニワトリの体細胞は初期化されることが明らかになった。

このニワトリ由来の初期化細胞は長期間の継代が可能であり、同細胞の分化能力を確認したところ、三胚葉分化能力を有しており、iPS細胞であることがわかった。多能性は、FGF(Fibroblast growth factor)シグナルと、PouVおよびNanogの高発現により維持されており、哺乳類で報告されているFGF依存型のiPS/ES細胞と近い性質であるという。

同研究グループは、今回の成果をもとに、さまざまな野生鳥類のiPS細胞を樹立し、各細胞へ分化誘導することで、感染症や農薬の評価系を構築することができると説明している。

ニワトリ体細胞由来iPS細胞。左:ニワトリiPS細胞。矢印はiPS細胞のコロニー 中央:ニワトリiPS細胞拡大図(左図の点線部分) 右:アルカリフォスファターゼ活性 (出所:国環研Webサイト)