京都大学(京大)は、新しいゲノム編集技術「CRISPR/Cas(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat/CRISPR-associated)」を利用して、ラットの毛色に関わる遺伝子変異にさまざまなゲノム編集を行うことに成功したと発表した。

同成果は、同大 医学研究科附属動物実験施設の真下知士 特定准教授、同 吉見一人 特定研究員らによるもの。詳細は、6月26日付けの英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。

CRISPR/Casシステムは近年、さまざまな生物種の細胞や個体における新しい遺伝子改変ツールとして利用されており、今回の研究では実験用ラットに利用することで、ラット個体におけるさまざまなゲノム編集を行ったという。

具体的には、ラットチロシナーゼ(Tyr)遺伝子を標的とするガイドRNA(gRNA)、Cas9ヌクレアーゼ(Cas9)を作製し、ラット線維芽細胞株(Rat-1細胞)、あるいはウィスター系ラットの受精卵に導入することで、Tyr遺伝子のノックアウト、および1塩基多型(SNP)のノックインに成功したとする。

また、これまでの研究からTyr遺伝子の第2エクソンの一塩基置換変異によって生じることが判明しているラットアルビノ(ヒトでは先天性白皮症)の一塩基多型(SNP)に対して、2種類のgRNAを作製することで、CRISPR/CasシステムがこのSNPを特異的に認識することが可能であることも発見したほか、そのSNP認識特異性を利用することで、白色アルビノF344ラット(母親)と有色アグーチDAラット(父親)の間のF1ラット(子供)において、母親由来遺伝子だけを遺伝子改変(ノックアウト)、あるいは父親由来遺伝子アレルだけをノックアウトする「アレル特異的ゲノム編集」にも成功したという。

これらの結果を受けて研究グループは、従来以上に勘弁。迅速かつ自由に遺伝子改変ラットの作製が可能になったとするほか、ノックインラットも作製できるため、ヒト疾患で同定されたSNP変異をラットゲノムに正確に反映させた遺伝子改変ラットを作製することも可能となるとしている。また、ラットに限らず、ES細胞がなく遺伝子改変が困難であった中大動物にも応用できることから、今後さまざまなモデル生物で利用されることが考えられるとし、今後、有用な遺伝子改変モデルが世界中で開発され、リソース機関を通じて世界中の研究者へ提供されることで、より一層モデル生物の利用価値を高め、医学生物学研究の発展につながることが期待されるとしている。