協同乳業は4月2日、ビフィズス菌「LKM512」とアミノ酸「アルギニン」を組み合わせて摂取することで、マウスにおいて寿命が伸長するほか、 加齢時の学習・記憶力の成績が高くなることを発見したと発表した。

同成果は、同社 研究所技術開発グループの松本光晴 主任研究員、同 澤木笑美子氏、村松幸治氏、中村篤央氏、山下文乃氏、北田雄祐氏、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーの大賀拓史氏、京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科応用生物学専攻の栗原新氏、坂井友美氏、鈴木秀之氏、理化学研究所イノベーション推進センター辨野特別研究室の木邊量子氏、辨野義己氏、東京大学大学院医学系研究科疾患生命工学センター 健康環境医工学部門の掛山正心氏らによるもの。詳細はNature姉妹誌「Scientific Reports」に掲載された。

同社はこれまで、細胞の正常な活動のために必須の物質「ポリアミン」を増やすことが、老年病の主要因である慢性炎症の抑制につながり、健康寿命が得られるようになるという仮説を立て研究を行ってきており、これまでにプロバイオティクスビフィズス菌「LKM512」の投与により、腸内ポリアミン濃度の上昇に伴うマウスの大腸老化抑制と寿命伸長効果が得られることを報告していた。

また、ポリアミン産生能力が低い菌種構成である高齢者やアトピー患者にLKM512を投与することで腸内菌叢が変動し、腸内ポリアミン濃度が高まり、炎症抑制やアトピー症状軽減に有効であることも報告していたが、LKM512投与による大腸内ポリアミン濃度の上昇は個体差が大きく、安定したポリアミン産生は困難であったことから、今回、大腸内でポリアミン産生を高める物質の探索を行い、健康寿命伸長効果(寿命の伸長と共に高齢者のQOLを向上させるために必要な学習・記憶力の維持)を確認することを目的にした研究を行ったという。

具体的には、4日間の統一食事を摂取したヒト糞便をメタボロミクスにより網羅的に解析し、ポリアミンの1つである「プトレッシン」と相関性のある物質を探索。相関性のある物質の中から、腸内細菌の培養および糞便培養試験によりポリアミン増強物質を決定し、マウスおよびラットを用いた試験にてその効果の検証を行ったという。

メタボロミクスの解析では、221成分が検出され、ヒト糞便中のプトレッシン濃度と正の相関のある物質を探索し、安全で安価な候補物質を選定し、検証を行ったところ、ポリアミン増強物質としてアミノ酸の1種である「アルギニン(Arg)」が浮かび上がった。そこで、マウスおよびラットにArgを経口投与したところ、ほぼすべての個体において腸内ポリアミン濃度が上昇することが確認されたほか、抗生物質で腸内菌叢を破壊したマウスへの投与ではポリアミンが産生されないことも確認したとする。

また、12カ月齢の雌性マウスを3グループ(7匹)に分け、それぞれにポリアミン増強物質、すでに腸内ポリアミン濃度の上昇作用が確認されているビフィズス菌LKM512、およびポリアミン増強物質&LKM512混合物を週3回、6カ月間経口投与し、腸内環境、炎症、加齢指標タンパク質、脳に与える影響の調査を行ったところ、LKM512またはArg単独より、Arg&LKM512混合投与の方がポリアミン濃度は上昇し、抗炎症作用や加齢指標タンパク質減少抑制が強く効果的であることと、脳内代謝にも影響が出ることを確認したとする。

Arg、LKM512およびArg&LKM512混合物の経口投与がマウスの血清サイトカインに及ぼす影響(*p<0.05)。Arg&LKM512混合物を投与した際に、炎症を誘導する物質である炎症性サイトカインIL-1β 、MIP-2の濃度が最も低くなった

Arg、LKM512およびArg&LKM512混合物の経口投与がマウス肝臓組織の加齢指標タンパク質(SMP30)に及ぼす影響(*p<0.05)。加齢指標タンパク質は老化とともに減少するが、LKM512またはArg&LKM512混合物を6カ月間経口投与することで、対照群と比較して減少が抑制された

さらに、14カ月齢の雌性マウス(128匹、日本人平均寿命換算で50歳程度)と雄性マウス(20匹)とをポリアミン増強物質&LKM512混合物投与群と対照群の2グループに分け、週3回、1年間経口投与し続けたところ、雄性マウス、雌性マウス共に、Arg&LKM512混合投与群で寿命伸長効果が認められた。

Arg&LKM512混合物の経口投与がマウスの寿命に及ぼす影響

加えて、寿命と学習・記憶力に与える影響を評価として投与6カ月後にモリス水迷路試験を行ったところ、実験開始3日目にArg&LKM512混合投与群のゴールへの到達時間が有意に短くなり、ゴールの位置を早く学習したことが判明したほか、ゴール区域の遊泳時間は投与前は差がなかったものの、6カ月後はArg&LKM512混合投与群で、対照群と比較し有意に高くなっていることが確認されたという。

Arg&LKM512混合物の経口投与がモリス水迷路のトレーニング期間のゴール到達までの時間に及ぼす影響(**p<0.01)実験開始3日目で、Arg&LKM512混合物投与群のゴールへの到達時間が対照群に比べて有意に短くなった

なお、大腸カニューレ挿入ラットを用いた実験で大腸内での有効なArg量を調べた結果、4.4mg/kg・体重で、ヒト60kg換算で264mgとなり、大腸まで届くコーティング処理などでサプリメントとして摂取可能な量であることが判明したとするが、一般的に分子量の低いアルギニンは小腸でほとんどが生体内に吸収されてしまうため、研究グループでは現在、大腸まで確実にアルギニンを届けるための技術開発を進めており、2014年秋ごろをめどに商品化に結び付けたいとしている。