東北大学は3月7日、血管内皮細胞での炎症反応を抑制することにより、マウスの肥満に関する慢性炎症やインスリン抵抗性が抑制され、さらに老化を遅らせ健康的に寿命を延ばすことに成功したと発表した。成果は、東北大学大学院医学系研究科代謝疾患医学コアセンターの片桐秀樹教授、同糖尿病代謝科の長谷川豊助教らの研究グループによるもので、詳細な研究内容は米専門誌「Circulation」に現地時間3月6日号に掲載された。

肥満になると、程度は軽いものの慢性的な炎症が持続することが知られている。このことが、インスリンの効きを悪くし(インスリン抵抗性)、糖尿病やメタボリックシンドロームのさまざまな病態につながると考えられている。

2011年には、研究グループにより、血管部位での炎症が動脈硬化の発症機序として重要であることが解明された。そこで今回の研究では、血管の中でも、血液と接する一層を形成する「血管内皮細胞」に着目。この細胞層でのみ炎症反応を起こりにくくしたマウスを作製して行われた。

細胞が炎症反応を起こす時は、転写因子として働くタンパク質複合体「NFκB(エヌエフカッパービー:nuclear factor-kappa B)」が活性化され、炎症物質が産生される。NFκBはストレスやサイトカイン(免疫応答に関する細胞同士の情報伝達に関わるさまざまな生理活性を持つタンパク質の総称)、紫外線などの刺激により活性化され、炎症反応において中心的役割を果たすものの1つだ。

そこで、同グループでは、マウスの血管内皮細胞においてNFκBの活性化を起こしにくくするタンパクを発現させてみた。そしてこのマウスを肥満にしたところ、肥満に特徴的な慢性炎症が抑えられ、インスリン抵抗性も抑制されることが確認された。このことから、肥満の際の慢性炎症に、血管内皮細胞が重要な役割を果たしていることが明らかとなったのである。

血管内皮細胞における炎症抑制は、このような肥満の病態を改善しただけでなく、標準飼育(肥満させない)状況下においても大きな改善をもたらした。老化の進展が抑制され、活発に活動しつつ寿命が有意に長くなったのである。長寿に関係するとされてきた遺伝子「サーチュイン」の発現も増強していることが確認された。

今回の研究成果は、血管内皮細胞での炎症反応が、老化の進展や寿命の長さを規定していることを初めて証明したものであり、それを調節することにより、老化を防ぎ健康的に長寿となるアンチエイジング療法の開発につながることが期待されると、研究グループはコメントしている。