制約のパズルを解いて作るのがCM

――澤本さんは元々、電通入社前からCMプランナーになりたかったのですか?

澤本「ここまでの仕事とは思ってなかったですが、単純にCMが作りたかったんです。学生時代から映像が好きだったのですが、映画の場合2時間作らないといけません。短い時間の映像で、その効果で実際に商品が動くというCMの世界に興味がありました」

――現在、映画に興味はないのですか?

澤本「映画の脚本の依頼はよくきます。以前、1本映画の脚本を書いたのですが(2008年公開の映画『犬と私の10の約束』)、実は労力的にはCMを1本作るのと、余り変わらないんです。頭を使う内容は変わらないと感じました」

――澤本さんは、映画的というか、連続ドラマのようなシリーズ物のCMを多数手掛けていますね。

澤本「東京ガスのCMであるガス・パッ・チョ!に関しては年間シリーズとして提案しましたが、あくまでも、基本は1本ごとです。元々は単発のCMが多いのですが、『人気が出たから続けてくれ』というクライアントの声が多く、シリーズ物になるケースが多いのです。ソフトバンクの場合も、反響が大きくてシリーズになったというケースですね」

――シリーズ物のCM制作で強く意識する部分ってありますか?

澤本「前よりつまらなくしないという部分ですね。シリーズ物は、初見よりも視聴者の意識に入り易いという長所があるので、やり易い部分もあります」

――澤本さんのCM作品は、大きな反響を呼んだ物が多いのですが、そういった反響は、CM制作のモチベーションになったりするものなのですか?

澤本「正直、反響は後からついてくるものなので、最初からモチベーションに影響するというのはないですね」

ソフトバンクモバイルの「ホワイト家族 24 予想外な家族」シリーズのCM

――それでも、制作後の反響は気になると思うのですが。

澤本「それは、半々ですね。僕は自分で作ったCMに100パーセント満足した事は一度もないんです。それはなぜかというと、制作の過程で、何かしら誰かに遠慮しているからです。クライアントに対しても、視聴者に対しても。ですから、自分として、良いか悪いかというのが気になる部分です。その次が、世の中にどう認知されるかです。世の中の反響は勿論嬉しいのですが、やはり自分の満足が大切です。たとえば、ソフトバンクのCMに起用した犬のカイ君が世間で売れても、正直、僕が嬉しいという事はありません」

――クライアントや視聴者に対する遠慮というのは、言い換えれば制約があるという事だと思うのですが、制約の中での表現する仕事という部分に関して訊かせてください。

澤本「CMは全て基本的に制約のある映像表現です。予算、日数、タレント、言わなければならない言葉、15秒という時間、物凄い数の制約が自分の前に障害物としてあります。それをクリアするのがCMです。僕はその制約のパズルを解いて作っていくのがCMだと思っています。それをどう解くかが上手な人が、CM作りの上手い人だと思います。そこがこの職業の専門職っぽい部分ですかね。制約を持ったままでも、制約がないように見せるという部分が……」

――澤本さんのような、CMプランナーという仕事は、広告代理店という会社のシステムのなかで、育まれるものなのでしょうか?

澤本「そうですね。仮に学生時代、まったく映像に関わっていなくても出来る仕事だと思います。もちろん、元々ある映像や文学のセンスは関係あると思いますが、会社に入り2年も現場で働けば、資質でCMプランナーになれると思います」

――以前、女子中学生が実際にCMを作るという企画があり、澤本さんはそれを監修されていましたね。

澤本「あのケースでいうと、300人生徒がいると5人くらいはCMプランナー的なセンスのある生徒がいるということですね。それは、問題の解決の仕方が上手な生徒という意味です。大切なのは、商品のメリットを懸命に伝えるだけでなく、上手に言い換えるということ。それが資質だと思います。冗談抜きで、そういう中学生をうちの会社にいれて2年ぐらいたてば1人前のCMプランナーになりますよ」

――プロスポーツの世界では、若くても才能があれば成功できます。音楽は別だと思いますが、デザインやCM制作といったクリエイティブの世界でそれは有り得ませんよね。

澤本「そうですね。まず、制度としてうちの会社では中卒では働けないというのがあります。また、簡単に言うとCM制作は完全にビジネスの世界ですからね。僕らはアーティストではないので、社会性がないと成立しません。CMプランナーには様々な才能が必要ですが、対人折衝能力が凄く大切なんですよ。物凄い面白い案を考えられても、他人に無愛想では、CMは1本も作れません。今、活躍しているプランナーは皆、プランを通すのが上手なんです。僕らにとっては契約書が絵コンテという感じで、あとは普通のビジネスなんです。だから才能があっても、子供にはできないのだと思います」

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中央酪農会議の「牛乳に相談だ。」シリーズのCM