コスト競争力を背景に上場相次ぐ中国の半導体企業
コア技術の欠落という深刻な悩みを抱えながらも、一部の企業は上場による資金力の増強を目指した。ネット企業と同様に、IC企業にも一種の「上場ブーム」が訪れたのである。
半導体産業は景気サイクルの影響が非常に出やすい業界だが、今はちょうどその上昇期にあたっている。国内の半導体メーカーはここぞとばかりにチャンスをつかもうと、足並みをそろえて上場を実現しようとしている。
先陣を切ったのは中芯国際で、米国での上場を実現した。華虹NECも年内には海外に上場する予定だ。華潤上華は香港で、杭州士蘭微電子は上海と深センにある(人民元建ての国内投資家用の市場である)A株市場に上場。富士通(中国)と南通華達微電子の合弁会社である南通富士通微電子など各主要メーカーも年内の上場を目指している。
現在、半導体チップの製造コストはシンガポール、韓国などアジア地域が欧米と比べ20%低い。中国の場合はさらに欧米と比べ40%低いと言われる。これらのアジアや中国のチップファウンダリの台頭により、半導体チップの製造コストはさらに低下傾向にある。
こうしたなかで、多くの欧米企業がリストラや半導体部門の売却を強いられた。例えば、SiemensはInfineon Technologiesを分離・独立させた。また、米Kohlberg Kravis Roberts、米Silver Lake Partners、蘭AlpInvest Partners NVの投資ファンド3社は、欧州の大手電機メーカーPhilipsの半導体事業部門であったPhilips Semiconductorsの株式を80.1%買収した。Kohlberg Kravis RobertsとSilver Lake Partnersはさらに連携し、26億6,000万ドル(約3,032億4,000万円)で米Agilent Technologiesの半導体部門を買収し、これを独立系のAvag Technologies社とした。ネットワーク機器大手のNortel Networksも半導体デバイス部門を競売にかけている。
世界的な再編の流れがチャンスに
こうした世界的な半導体業界の再編成が、中国企業に「絶好のチャンス」をもたらす可能性もある。これまで見てきたとおり、中国の電子情報産業はチップ開発のコア技術に欠け、大多数が組立、下請け、OEM製造しかできず、産業の上流であるチップ開発にまでたどり着いていなかった。多くの企業が上流工程を目指したが、技術的ハードルが高いのと、必要な投資額も大きいこと、さらにはこうした工程のマネジメント経験が貧弱であったことなどから、自分の能力不足を慨嘆するほかなかった。
中国国内の電子企業が半導体分野に進出する一番手っ取り早い方法として、海外のIDM(Integrated Device Manufacturer、垂直統合型デバイスメーカー)や半導体事業部門の買収、または吸収合併をするという手があるかもしれない。こうしたケースの場合、買収側が被買収側の製品の大手ユーザーである可能性が高い。例えば携帯電話端末メーカーが携帯電話チップ工場を買収する、といった具合だ。
聯想(レノボ)によるIBMのPC部門の買収、また中国の大手家電メーカーであるTCL集団によるThomson Electronics のテレビ部門買収など、中国企業による海外企業の特定部門の買収が、過去数年目立つようになってきている。こうした例にならい、海外のチップメーカーを買収することが、中国の電子企業が半導体産業チェーンの上流に到達する近道になる可能性もある。
中国企業が最終的に目指すところは、業界横断的な提携で海外市場へ進出し、世界的な有名ブランドとなることにある。また、国内における業界縦断的な提携は、中国半導体企業の最大の弱点である「コア技術の空白」という状況を補い、長期にわたる課題である低利益率からの脱却を目指している。
こうした戦略が功を奏するか、今後の動向を注意深く見守りたい。