この企業動向ニュースのまとめ

・SBIホールディングスがメディア事業の戦略を語るイベントを開催
・メディア事業にはライブドアが参画、23社のパートナーシップで始動
・既存メディアの課題をAIブロックチェーンの活用で解消することを目指す

SBIホールディングスは5月19日、「SBIネオメディア・サミット 2026」と題し、SBIグループが今後展開を目指す“SBIネオメディア生態系”のビジョンを明らかにするイベントを開催した。報道関係者向けの第1部では、SBIホールディングス 代表取締役会長兼社長の北尾吉孝氏が登壇し、その戦略構想を語った。

  • 北尾吉孝氏

    SBIホールディングス 代表取締役会長兼社長の北尾吉孝氏。北尾氏はネオメディア戦略を担うSBIネオメディアホールディングスにおいても代表取締役会長を務める

たびたび語られてきたSBIのメディア事業が間もなく始動

北尾氏のプレゼンテーションは「ネオメディア生態系の戦略構想 ~SBIグループが目指す感情経済圏の構築~」という演題を掲げてスタートした。登壇した北尾氏はこの「感情経済圏」という言葉について、「自分たちが学生時代に学んだ経済学では、経済人は常に合理的な判断をするものだという前提があった。しかし実際の経済行動は、感情や直感のような心理学的な要素が反映される形で成り立っている」という行動経済学の考え方を紹介。北尾氏自身もこの考え方を事業に昇華させることを考えてきたとし、そのためには自ら生態系を作らなければならないという考えに至ったと語った。

北尾氏はこれまで、2023年に開催されたFinTechイベント「FIN/SUM 2023」での講演、著書「金融とメディア、ITが融合する日」などでメディア事業についてのビジョンを語り、2025年5月にはその構想を具体化する会社としてSBIネオメディアホールディングスを設立している。2026年3月には中間報告としてその構想の進捗状況を明らかにしたが、その時点ではまだ埋まっていなかったパーツがあったとのこと。その“ミッシングパーツ”が埋まり、同社のビジョンの全体像についても語れるようになったのがこの日の講演だ。

具体的なネオメディア生態系の戦略構想を語る前に、北尾氏は5月2日に開催されたボクシングの井上尚弥選手のタイトルマッチ「THE DAY」について語った。SBIがスポンサーとなったこともあってイベントを現場で経験したという北尾氏は、現場の熱狂をまのあたりにして、「これを取り入れなければ、我々の将来はない」と確信したという。

ライブドア参画で埋まった“ミッシングパーツ”

そんな熱狂を取り入れていくべくスタートするSBIグループのメディア事業だが、この日はその体制・参画企業についてもアップデートがあった。

SBIネオメディアホールディングスの役員体制については、新たに3氏の名前が挙がった。取締役として加わったのが、株式会社ツインエンジン代表取締役の山本幸治氏。そして株式会社グッドスマイルカンパニー代表取締役社長の岩佐厳太郎氏、音楽プロデューサー/作詞家の秋元康氏が社外取締役に就く。

  • 深澤裕氏

    この日はSBIネオメディアホールディングス代表取締役社長の深澤裕氏も同席

そしてネオメディア生態系を構成する企業についても、中間報告までに発表済みの19社に加え、Brave Group/モイ/ライブドア/ツインエンジンの4社との資本業務提携/提携を発表。この4社、とりわけライブドアが、中間報告の時点で残っていた“ミッシングパーツ”ということになる。

ライブドアについては、「いつか、ある人――みなさん頭に浮かぶかもしれませんけれど――と対談したときに、『(SBIグループが)ライブドアを買ったら、またあなたが経営したい?』と聞いたことがありました」「いま、その人にお願いするというわけではありませんけれど」と過去の因縁についても触れつつ、「月間12億PV/1億UU、SNSフォロワー2,600万人を超えるニュースブログ・SNSを展開する国内最大級のメディア集団」とし、「日常的に接触される価値を探した結果がこうなりました」と幅広い層と接点を持つことを最大の強みと評価した。

またアニメIP制作を行うツインエンジンについては、「いまはスタジオがなくて困っている時代ですから、スタジオを持っている意義は大きい」と、スタジオを多数抱えている点をその強みとしてアピールした。

ネオメディア生態系を構成する企業のうち、SBIホールディングスの持分法適用会社は14社。このうち10社が黒字決算となっており、売上の単純合計は3,000億円、取り込みベースの利益は約80億円にのぼるという。

ネオメディア生態系は、“金融生態系”“デジタルスペース生態系”というSBIグループの既存事業の価値向上にもつながるものになる。北尾氏は「もともと親和性が高いものがつながることで、グループ全体の顧客数が増大することは間違いないと思います」と語っており、ネオメディア生態系がSBIグループの顧客基盤拡大に資するものとなるとしている。ターゲットとしてはエンタメを起点としてZ世代への接点を強化し、将来の金融顧客として取り込むことを考えているようだ。

資金面では、メディア・ネオメディア生態系への貢献が期待される先端技術に投資するSBIネオコンテンツファンドが1,000億円規模でのスタートを予定しており、6月末のファーストクローズの時点において約700億円のメドがたっているという。

既存生態系とネオメディア生態系の間に生まれるシナジー

ネオメディア生態系とSBIグループの既存事業とのシナジーについては、いくつかの具体例が示された。

グループで活用するビジネス映像メディアの構想では、「未来への挑戦」「未来は、いつもSBIから」というグランドコンセプト、マイナビ/TWIN PLANET/SBI LuaaZをはじめとする各社からのコンテンツ提供といった方向性を発表。

また、これまでさまざまなスポンサーシップの取り組みを行ってきたものの、それをブランディング施策としてとらえてこなかったと振り返る。8月に開催する「SBI証券 presents TGC MATSUYAMA 2026 by TOKYO GIRLS COLLECTION」は、あらためて若年層へのブランディング強化の一環として活用する方針だ。

そしてSBI MUSIC CIRCUSが企画する花火大会/音楽フェス/アイドルフェスなどの大規模イベントは、多様化する地域活性化手段のひとつとして位置づけなおす。中でも5月30日に開催を予定している「SBI夢花火 in 千葉・幕張海浜公園」については、「花火と音楽を0.03秒で完全にシンクロさせ、ドローンショーも融合させる、単なる花火大会ではない、総合エンターテインメント」と紹介し、「これはNEXYZ.の近藤さん(SBIネオメディアホールディングスの代表取締役副会長でもある、NEXYZ. Group代表取締役社長兼グループ代表の近藤太香巳氏)のアイデアなんですが、僕からは出てこないですね」と語った。

さらにSBI証券の口座開設のプロモーションも、地域を限定して実験的に行ってみるという。このプロモーションにおいては、ブランジスタのタレントサブスクリプションサービスを利用するなど、コスト削減やアイデア提供においてネオメディア生態系を活用しており、これまでのようなイメージ重視のプロモーションに加えて実利をアピールするプロモーションにも取り組む考えだ。

シナジーはネオメディア生態系の内部でも

既存生態系とネオメディア生態系内のシナジーだけでなく、ネオメディア生態系内の企業間のシナジーについてもいくつかのイメージが語られた。

そのひとつがIPのトークン化。この領域で大きな役割を果たすのがStartale Groupで、SBIグループは同社とレイヤー1ブロックチェーン「Strium」を共同開発しており、2023年12月に開業した流通市場「ODX」(大阪デジタルエクスチェンジ)をステーブルコインを取引できるトークンの二次流通市場とすることを目指すという。

また、コンテンツ作成においては、AIシステム「Terminal」により、暗号資産に関する情報を収集・選別・要約してオリジナルコンテンツの自動生成を行っているCoinPostを紹介。この機能をカスタマイズして、暗号資産以外の領域で情報コンテンツのAI自動生成が可能になると考えているようだ。

ネオメディア生態系各社の保有する制作能力や所属タレント・SNSマーケティング能力を活用して、IP保有者や事業会社のプロモーションを支援する取り組みも進めていく。この取り組みの対象となるのはネオメディア生態系内のIP・事業会社に限らず、生態系外のIPや事業のプロモーション支援も考えているとのことだった。

マーケティング機能の集約、スーパーアプリ開発などの取り組みも

すでに進められている取り組みもある。まず、グループ内ではSBIネオメディアホールディングスに広告・マーケティング機能を集約し、グループのブランド/スケールメリットを活かす体制の構築を進めている。これにより、同社はグループにおけるインハウスエージェンシーとしての役割を持つことになる。

前述のとおりSBIネオコンテンツファンドの組成も進んでいる。さらに金融データと生活者データをAIによって統合し、顧客理解を深化させる基盤の構築も図っている。また、SBIグループの金融商品・サービスを一元化したスーパーアプリ「SBI金融エージェント」(仮)も2027年春の提供開始を目指して開発が行われており、このアプリにはメディア機能も統合される予定だ。

既存のメディアの課題をAI・ブロックチェーンで解消することを目指す

ここで話は、北尾氏の考えるメディアの在り方に移る。

北尾氏は、現在の報道について、「情報が届くのに時間がかかりすぎている」「偏向報道などの判断ミスも多い」と課題を挙げた。また、過去にフェイクニュースが株価や金融に大きな影響を与えた事例を紹介し、「メディアは信用プラットフォームとしての価値を持たなければならない」「旧来メディアは情報を十分に検証することなく一方的に伝えていたんじゃないか」と分析する。

そのうえで、ネオメディアがそういった課題を解消し、「AIがあらゆる情報を常に収集分析して、人はAIの分析結果を見るだけでいい」「世界で発生した事象をAIが事前に分析して、朝起きたころには世界中の情報が入っている」という、メディアを通じたさまざまな情報がリアルタイムに評価され、具体的かつ迅速に顧客行動を促すという世界を目指したいと語った。

さらにもうひとつの課題として、「今はコンテンツを作る人ではなくプラットフォームが儲かる仕組み」と指摘。この課題に対しては、コンテンツをトークン化してユーザーがコンテンツに直接投資できるようにすることで、クリエイターが直接還元を受けられるようになり、公平な配分につながるという解決策を提示した。

さらにコンテンツ・情報を配信する仕組みについても、「偏向報道・フェイク」「一方向性」「海外情報の遅れ」といった既存メディアの問題点、「声の大きい論調に引っ張られる」「エコーチェンバー化」「フェイクニュース・炎上」といったSNSの問題点、その双方をAIとブロックチェーンの活用により極力解消した配信基盤を構築していくという。

「都市のメディア化」とは何か

そして最後に語られたのが、「都市のメディア化を通じた地域活性化」というビジョンだ。北尾氏は40数年ぶりにドバイを訪れた際、かつてとの違いに驚かされたという。そして、石油をほとんど産出しないドバイがなぜいまの地位を確立したかを考えたとき、その要因は都市のメディア化にあったというのが北尾氏の考えだ。

北尾氏は、コンテンツ・IPをもち、十分な金融インフラ・交通インフラを持つ東京はメディア化に最適な都市だという。その東京をコンテンツ化することで、国際的集客力を向上させ、広告・放映・スポンサーシップ・データ活用といったグローバルな収益構造を実現できるとしている。

その具体的な取り組みとして、SBIネオコンテンツファンドに約50億円の出資をする東急不動産ホールディングスが推進する広域渋谷圏のエンタテインメントシティ化プロジェクトにSBIグループとして参画する。このプロジェクトでSBIグループは、広域渋谷圏におけるコンテンツ創造とその世界への発信、コンテンツ関連企業の同地への誘致・集約による共創の促進、SBIグループ・東急不動産ホールディングスの持つアセットによる新たな体験価値の提供などを行う予定だ。

このほか、島根県内における町おこし、静岡市清水港エリアにおける町づくりを、資本業務提携先である島根銀行や清水銀行と連携して全面支援するなど、地域の活性化にも多面的な施策を展開していく方針。ここにおいても、従来の地域金融機関・地域企業・地域住民に加え、地域メディアを巻き込んだ形で進めるなど、ネオメディア事業の活用を図っていくという。

この日の北尾氏のプレゼンテーションから伝わるのは、たんに既存のメディアと同じようなものをもうひとつ作るというわけでなく、そこにAIやブロックチェーンなどの技術を活用して新しい時代のメディアを作るというビジョン。それがSBIグループの“ネオメディア生態系”の目指すところといえる。この日に明らかとなった体制・方向性のもと、具体的な形が明らかになるのも間もなくだろう。