「誰もが参加しやすい社会」をつくりたい。こんな壮大な想いに対して、ヤマハだからこそ音楽を通じてできることがある。「おとまち@福井」と「She's Got the Groove」そんな二つのプロジェクトに共通する「Key」をどうぞ。
音楽には、人と人とをつなぐ力がある。音楽が持つこのシンプルで大きな力は、人間を元気にするだけでなく、街やコミュニティーをも丸ごと元気づけることができるに違いない──。
そんな考えから、ヤマハは2009年、音楽によるまちづくり事業(以下、おとまち)を開始した。全国の自治体や企業と協働し、それぞれの地域の特性に合った「音楽によるコミュニティーづくり」を提案し始めたのだ。これまでにビッグバンドや音楽サークルの立ち上げ・運営、イベントの開催支援などを通して、多くの人々に音楽を身近に感じてもらい、地域活性化の機運が生まれる手伝いを続けてきた。
15年間にわたって続けてきたおとまち。今回は、そんなおとまちの最近の事例の中から「おとまち@福井」プロジェクト(以下、おとまち@福井)の活動を紹介する。2021年から始まったこの取り組みを通じて、音楽の力は福井の人々を、街を、どのように変えていったのだろう?
「おとまち@福井」が始まるきっかけは、福井県が抱えていたある課題にあった。同県は、一般財団法人日本総合研究所が発表する「全47都道府県幸福度ランキング」で5年連続1位を獲得している“日本一幸せな県”である。しかし、ランキングの指標となる健康、文化、仕事、生活、教育の5カテゴリーの中で、文化だけが41位と低迷していた。
「そこが福井県の課題でもあり、逆に、伸び代でもあると感じていました」。こう振り返るのは、「おとまち@福井」プロジェクトチームのひとり、福井県 交流文化部の角谷大輔さんだ。「県庁の仕事はいろいろな領域を経験できる点がおもしろい」と語る角谷さんは、その言葉通り、現在の仕事に就くまでに防災や国民体育大会(国民スポーツ大会に改称)、国際経済業務まで、さまざまな仕事に携わってきた。そんな角谷さんが福井の文化を盛り上げるために新たに担当することになったのが「音楽」だったのである。
福井県が文化振興のために「音楽」を選んだ理由のひとつに、県内の中学・高校吹奏楽部の活動が盛んという特徴があった。大学生や社会人になると楽器から離れてしまう人が多いが、中学・高校で楽器演奏に取り組んだ経験者が多いということは、県民が音楽に親しむ土壌はすでにあるということだ。もうひとつ、「ハーモニーホールふくい」をはじめ優れたコンサートホールがあることも福井の大きな強みだった。しかし、以前はこうしたポテンシャルを十分に生かすことができず、たとえ一線で活躍するアーティストを呼んでも、もともと音楽好きな市民の外側に音楽を広げていくことはできなかった。
角谷さん自身、以前はそれほど音楽好きでもなかったという。楽器経験もなければ、音楽鑑賞を趣味にしていたわけでもない。それでも福井県には音楽文化が根づくポテンシャルがあると知り、「音楽で、福井の文化度を引き上げたい」と強く思った。かつては音楽に夢中だったという人に、再び楽器を手に取ってもらうにはどうすればよいだろう?音楽をホール以外のくらしの中まで広げていくには、どんな工夫が必要だろう? 検討の末、角谷さんらプロジェクトチームがたどり着いたのが、ヤマハの「おとまち」だった。
2021年、福井県庁のチームがヤマハに連絡をとってから、すぐに「おとまち@福井」が始まったわけではない。市民が参加できる活動にしていくためには、県内各市町や地元の人々の共感を得る必要がある。しかし当時はコロナ禍ということもあり、「なぜ福井でおとまちをやる必要があるのか」をうまく伝えられずに、苦労したという。
それでも最終的におとまちの活動が県内各地に広がっていったのは、おとまちの15年にわたる積み重ねによって他地域での事例・成果を豊富に提示できたから。そしてなにより、福井の人々が持つ「団結力」を味方につけることができたからである。
「福井というのは女性パワーがすごい県なんですよ」と言うのは、ヤマハミュージックジャパンで「おとまち@福井」を推進するサービス事業戦略部の増井純子だ。福井では行政や企業に女性リーダーが多く、県内に女性たちの強いネットワークが存在していた。さらに人付き合いが密な県民性も相まって、おとまちの話題は人から人へ、口コミで広まっていった。
子どもの頃にピアノとバレエを習い、大学では舞踊を専攻した増井は、学生時代にフラメンコにのめり込んだ。ヤマハに入社してからはコンサート企画とホールの活用拡大策に尽力した。それがのちに音楽によるまちづくり事業へとつながっていく。長年、音楽の力を生かす仕事に携わってきた増井は、おとまちで「参加する音楽」を経験してもらいたいと語る。
「音楽は、『演奏するか聴くか』のどちらかしかないと思われがちだけど、見たり、触れたり、歌ったり、その中間があるんです。そうしたいろいろな選択肢を提示したいと思いました」(増井)
実際、2021年に始まった「おとまち@福井」では、7市町で誰もが参加できる音楽サークルが生まれた。さらに、県内各地域で各種楽器を体験できる場を提供したり、「まちなかステージ」と呼ばれるイベントでは県内の音楽サークルなどに演奏発表の機会を提供したりしている。「初心者も経験者も、久しぶりに音楽をやってみたいという人も気軽に参加できるサークルは、『ハードルが低くて入りやすい』と聞いています」と角谷さんも多様な選択肢を歓迎している。
「おとまち@福井」の活動は4年目を迎え、いま、福井にはさまざまなポジティブな変化が生まれ始めている。
ひとつは、人の変化。「発表会までに演奏できるようになるのか」と不安そうにサークルに入ってきた楽器初心者が、みるみる上達して自信をつけて、無事にコンサートデビューを果たす。県外から引っ越してきた人が、サークルを通して友だちを見つけ、地元になじんでいく。「そうやって人が変わっていく姿を、おとまちを通して何度も見てきました。私にとっては、そういう“人の変化”が最大の喜びですね」と増井は言う。
変化といえば、これまで音楽に触れてこなかった角谷さん自身も、おとまちに携わる中で音楽に興味を持ち、いまではライブやコンサートに足を運ぶようになったそうだ。
もうひとつの変化は、街の変化。角谷さんは、おとまちを通じて福井の街が確かに活性化してきたと実感している。例えば、あわら市ではいま、芦原温泉駅に直結する文化施設「アフレア」で定期的にまちなかステージが開催されている。人通りの多くない地域だったが、イベントをきっかけに多くの人が行き交うようになった。小浜市ではフルートサークルが活動しているが、これは地元高校生の声から生まれたものだ。このように、ボトムアップで市民らが自分たちの音楽活動の輪を広げ始めたのだ。
「おとまち@福井」の次の目標は、より多くの人が音楽に触れられる機会をつくること。北陸新幹線の延伸開業で、福井の交流人口はさらに増える。「県外や海外から訪れる観光客に“音楽が聴こえる街”を楽しんでもらいたい」と角谷さんは笑顔を見せた。
「イベント会場では、小さいお子さんからご年配まで、幅広い年代の方が楽器を体験しています。多くの人が楽しむ様子を現場で見ると、自分が取り組んできたことの成果を肌で感じられ、それが大きなやりがいになっています」(角谷さん)
音楽の力で、人と人とをつなぐ「おとまち」。ヤマハは海の向こうでも、音楽で人々のクリエイティビティを後押ししている。次回は中南米の女性をサポートするプロジェクト「She's Got the Groove」を紹介します
(取材日:2023年10月)
角谷大輔|DAISUKE KADOYA
福井県 交流文化部 文化・スポーツ局 文化課 文化振興グループ。福井県入庁後、防災や国民体育大会(国民スポーツ大会に改称)、国際経済に携わり文化課へ異動。「おとまち@福井」プロジェクトチームの一員。
増井純子|JUNKO MASUI
株式会社ヤマハミュージックジャパン サービス事業戦略部 音楽振興サービス課。幼少期にピアノとバレエを習い、大学では舞踊を専攻。ヤマハ入社後、全国の各自治体のホールでのコンサート企画やプロデュースに携わり、「おとまち」の立ち上げにも参加、現在に至る。
※所属は公開当時のもの
参考:
ヤマハ 音楽の街づくり事業 おとまちはこちらをご覧ください
「おとまち@福井」プロジェクトはこちらをご覧ください
ともにつくる、誰もが参加しやすい社会
#2 中南米の女性たちに自信を与える音楽
ともにつくる、誰もが参加しやすい社会
#3 福井県が挑む、音楽によるまちづくり
共奏しあえる世界へ
人の想いが誰かに伝わり
誰かからまた誰かへとひろがっていく。
人と人、人と社会、そして技術と感性が
まるで音や音楽のように
共に奏でられる世界に向かって。
一人ひとりの大切なキーに、いま、
耳をすませてみませんか。
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