『空間に新たな彩りを』
駅にピアノを置くことで、人々が行き交うだけの空間に彩りをもたらし、過ごしやすい場所に変える「ステーションピアノ」。空間を自在にあやつり、クリエイター・観客の双方に音楽の新しい楽しみ方を提供する「Active Field Control(AFC)」。どちらも空間を通して音楽を身近な存在に変え、「人と音楽」「人と人」の関係を深める力がある――これら二つの取り組みに共通する「Key」をご覧ください。
フランス各地の駅を音楽で満たし、過ごしやすい場所に変える「ステーションピアノ」。音空間を自在に操り、新たな音楽表現を可能にする「Active Field Control(AFC)」。アプローチは違えど、どちらも「人と音楽」「人と人」の関係を深める力を持っている。空間を通して音楽を身近な存在に変え、人と人とのコミュニケーションを豊かにする――これこそが二つの取り組みに共通する「Key」である。
「音楽とは人生のスパイスのようなもの」。ヤマハ・ミュージック・ヨーロッパ フランス支店のエリック・バレンションはこう語る。「生活必需品ではないけれど、暮らしをより豊かに、より色鮮やかにしてくれる、なくてはならないものなのです」。
とは言っても、ステーションピアノがドラマチックな出来事や、感動的なストーリーを引き起こすわけではない。でも、“普段なら気にも留めないような、ちょっとした気づき”や“ちょっとした出会い”なら毎日のように生まれている。「むしろ、小さな喜びの積み重ねの方がよいのだと思います。毎日リマインダーのように音楽に触れることができるからこそ、駅という身近な場所にピアノを置く意味があるのです」(バレンション)。暮らしの中に当たり前のように音楽がある。実は、それはとてもぜいたくなことだ。自分の日常にピアノの音が溶け込み、気づかぬうちにこころ豊かな瞬間を味わっているのである。
一方、AFCはより多くのコンテンツや音楽に触れる機会を提供してくれる。空間音響グループの大木大夢によると、AFCの魅力は「ひとつの場所にいながら多様な音空間を体感できることだ」という。例えば、響きの少ない演劇用の劇場は音楽鑑賞には向かないというのが定説だったが、AFC Enhanceを導入して音楽をクリアに聴かせ、AFC Imageで立体的かつ臨場感あふれる演出を施せば、かつてない音体験を提供することが可能になる。訪れるたびに違う表情を見せる劇場。ここでなら、観客はそれまで関心のなかったコンテンツにも目を向けるようになるかもしれない。
また、AFCは建築的な制約だけでなく、人数の制限を取り払うこともできる。「クラシック音楽は生音なので、通常ならホールの収容人数は2,000人程度。でも、AFCがあれば、大型スピーカーを使って屋外でもコンサートホールと同じ音空間をつくることができる。より多くの人がオーケストラの演奏に聴き入り、唯一無二の体験を共有できるのです」(大木)。時間や場所に縛られず、あらゆる空間をあらゆる目的に使用できるようにするAFC。それまで限られた人しか楽しめなかったコンテンツを、より多くの人に届けることができるのだ。
「人と空間」「人と音楽」の関係に新しい風を吹かせるバレンションと大木だが、二人を突き動かすのは、実は、「人と人の関係をよりよくしたい」という強い想いである。「音楽の本質はコミュニケーション」と考える大木は、「音が流れているだけでは意味がない。聴く人がいて初めて価値が生まれる」と言葉を継いだ。
ヤマハの音響事業の根底には、「アーティストの想いや表現を余すところなく伝える」というTRUE SOUNDの精神が根付いている。AFCも例外ではない。音空間を自在に操るツールを手にすれば、クリエーターは自身が思い描く音のイメージをより正確に表現できるようになる。「AFCは言葉や理性だけでは伝えられない、より感覚的なコミュニケーションを後押しできる技術だと思います」(大木)。
観客側もまた、AFCによってこれまで以上に作品に没入することができる。AFCを導入した会場で、大木はこんな光景に出会った。「開始直前まで落ち着きのなかった隣の席の人が、演奏が始まった途端、われを忘れたように聴き入っていました。周りを見回してみると、会場にいる観客全員が音楽に没入していました」。観客を魅了したのはアーティストの演奏そのものだが、クリエーターの世界へと彼らを引き込むことにAFCが貢献したことも確かだろう。実際、AFCを使用した公演では「作曲家の想いが伝わってきた」という感想をもらうことが多い。音空間を操作する常識外れな技術によって音楽を通したコミュニケーションは進化する、と大木は信じている。
ステーションピアノも日々、新たなコミュニケーションを生み出している。ピアニスト同士が連弾することもあれば、他の楽器やダンス、歌などでピアノの演奏に加わる人もいる。初めて出会った人同士が、音楽を通してこころを通じ合わせることができるのだ。
演奏を聴く人たちの間に一体感が生まれることも少なくない。誰かが懐かしい曲を弾くと、たちまち人だかりができて、一緒に盛り上がる。社会全体に暗いムードが漂っていた時には、ステーションピアノが人々の連帯を紡ぎ出した。
パリでテロ事件が起きた2015年のことだ。街中で警備が強化され、フランス中が悲しみと緊張感に包まれた。バレンションにとっては思い出すのもつらい時期だが、ある日、小さな変化が起きた。「駅の警備を担当していたひとりの軍人が休憩中にピアノを弾き始めました。その動画がSNSを通じて拡散されて、疲れ切っていた人々のこころを癒やしたのです」(バレンション)。
音楽がある時間は平和だ。この時、バレンションをはじめ、多くのフランス人がそう確信した。こんなふうに、楽しい時も悲しい時も、ステーションピアノは人々のこころをひとつにする。
ステーションピアノとAFCには言葉を超えて、同じ空間、同じ時間を共有する人々のこころをつなげる力が息づいている。その効果をあらゆる分野に応用するため、バレンションと大木は活動の幅をさらに広げようと模索し始めた。
「駅以外の場所にも、自由に弾けるピアノを置きたい」とバレンションは言う。すでにショッピングセンターやオフィスビル、空港などから依頼を受け、ヤマハのピアノはさまざまな場所に常設されるようになった。
中でも、パリ=シャルル・ド・ゴール空港を運営する Groupe ADP(ADPグループ)はピアノの効果を高く評価し、設置箇所や台数を増やしていく計画だ。「駅と同様、待ち時間のある空港も人々がストレスを感じやすい場所です。だからこそ音楽の力が生きる。他にも、病院やガソリンスタンドなどにピアノを置けば、患者や医療従事者、長旅で疲れたドライバーのこころを癒やせるのではないでしょうか」(バレンション)。
一方の大木は、音楽以外の分野でAFC活用の道を探っている。「会議室や住宅、レストランでも、AFCを生かせる場面は多くあると思います」。音は想像以上に空間の印象を左右する。居酒屋ではガヤガヤしている方が楽しめるが、高級レストランは響きが少ない方が落ち着ける。「シチュエーションに合わせて音の響きを変えれば、一緒にいる人たちの会話が弾み、より親密になれると考えています」(大木)。
人は常にオープンマインドではいられない。時に、愛する人にさえこころを閉ざしてしまうことがある。そんな時、音楽が硬くなったこころを癒やし、もう一度、外に向かう勇気をくれる。こうした音楽の力を知っているからこそ、バレンションと大木は日常を音楽で満たすことに夢中になるのだ。音楽をもっと身近な存在にするステーションピアノと、クリエーターと観客のコミュニケーションを深化させるAFC。駅や音楽会場を飛び越え、二つの取り組みが暮らしのあちこちに広がっていった先には、どんな未来が見えるだろうか。大木とバレンションの想いはひとつ。「空間×音・音楽」のかけ算で、この世界が人々のポジティブな感情で満たされますように。
(取材日:2023年12月)
空間に新たな彩りを
#1 駅を「過ごしやすい場所」に変える一台のピアノ
共奏しあえる世界へ
人の想いが誰かに伝わり
誰かからまた誰かへとひろがっていく。
人と人、人と社会、そして技術と感性が
まるで音や音楽のように
共に奏でられる世界に向かって。
一人ひとりの大切なキーに、いま、
耳をすませてみませんか。
[PR]提供:ヤマハ株式会社