キャッシュレス決済が浸透していく中で、2月2日に第31回産業構造審議会割賦販売小委員会に報告された「クレジットカード決済システムのセキュリティ対策強化検討会」の報告書において、クレジットカード決済システムのセキュリティ対策の更なる強化が業界に求められております。

今回は、日本クレジット協会の副会長でもあるイオンフィナンシャルサービス株式会社の藤田社長に業界の現状や課題と同社の今後の展望についてお話を伺いました。

藤田 健二(ふじた・けんじ) 太田 晶子(おおた・あきこ)
1969年(昭和44年) 生
1992年4月 ジャスコ(株) 入社
2012年6月 AEON CREDIT HOLDINGS(HONG KONG) CO., LTD. 取締役
2013年6月 AEON CREDIT SERVICE(M) BERHAD 取締役
2014年6月 AEON CREDIT SERVICE(M) BERHAD 代表取締役社長
2019年4月 ACS Servicing(Thailand) Co.,Ltd. 代表取締役会長
2019年6月 AEON THANA SINSAP(THAILAND) PCL. 代表取締役社長
2019年12月 AEON SPECIALIZED BANK(CAMBODIA) PLC. 代表取締役会長
2020年5月 イオンクレジットサービス(株) 取締役
イオンフィナンシャルサービス(株) 代表取締役社長(現任)
2020年6月 AEON THANA SINSAP(THAILAND) PCL. 取締役
2022年5月 イオンクレジットサービス(株) 代表取締役社長
2022年6月 株式会社イオン銀行 取締役(現任)
一般社団法人日本クレジット協会 副会長(現任)
神奈川県出身。
昭和女子大学グローバルビジネス学部ビジネスデザイン学科卒業。
2018年4月~2021年3月までNHK徳島放送局契約アナウンサーとして、『とく6徳島 今コレ食べドキ』や『おはよう四国 しこくプラス』、『おはよう四国 西日本の旅』など多くの番組のリポーターを担当。
2021年4月~2023年3月までNHK水戸放送局契約アナウンサーとして、『いば6』キャスター、『おはよう日本 中継』リポーターを担当。
リポーター、ラジオパーソナリティ、イベントMCと幅広く活躍中。

クレジット業界を取り巻く環境について

安全、安心、便利にキャッシュレス決済が利用できる環境整備に向けて

太田:政府は、2018年4月に策定した「キャッシュレス・ビジョン」に基づき、キッシュレス決済比率を2025年までに4割程度にするという目標を掲げてキャッシュレス決済の推進を行っており、キャッシュレス決済が幅広い世代に浸透してきております。このような状況を踏まえ、業界の現状と今後についてお考えをお聞かせください。

藤田:ここ数年でキャッシュレス決済は重要な社会インフラとなりました。キャッシュレス消費者還元事業やマイナポイント事業といった政府によるキャッシュレス推進施策に加え、コロナ禍での非接触決済、オンライン決済のニーズが高まったことで、キャッシュレス決済の普及が進みました。

一方で、社会インフラであるということは、如何なるときも安全且つ安定的にサービスを提供しなければならないということです。システム障害等で決済サービスをご利用いただけずにご迷惑をおかけする状況はあってはならず、自社のみならず業界全体の信用にも影響を及ぼす可能性があることを肝に銘じております。

足元では本年5月より新型コロナウイルスが感染法上の5類に移行されたこともあり、経済活動が本格的に再開しています。国内の旅行需要の高まりに加え、各地で外国人旅行者を見かけることも多くなってきました。2025年の大阪・関西万博では完全キャッシュレスの取り組みが計画されており、今後多くの外国人旅行者が来日されて海外で発行されたクレジットカードやコード決済をご利用されることとなります。

我々は社会インフラとして国内外の消費者の方が「安全・安心」そして「便利」に、クレジットカードをはじめとしたキャッシュレス決済が利用できる環境を整備していくことが求められています。

太田:昨年度、経済産業省の「クレジットカード決済システムのセキュリティ対策強化検討会」での議論がとりまとめられ、2月2日に第31回産業構造審議会割賦販売小委員会に報告されました。クレジット業界に対して、クレジットカード決済システムのセキュリティ対策の更なる強化が求められておりますが、このような状況を踏まえ、業界の現状と今後についてお聞かせください。

藤田:経済産業省の「クレジットカード決済システムのセキュリティ対策強化検討会」で「漏えい防止」「不正利用防止」「犯罪抑止・広報周知」の3つの観点から報告書がまとめられており、これらはいずれも業界の果たすべき責務だと思います。2022年の業界全体での不正利用被害額は過去最悪の436億円になりました。こうした被害は消費者の方の負担とさせないために各社で対応し、コストとして処理されています。これは見方を変えると犯罪集団にとって大変大きな収益源になっているということであり、看過できない状況です。

太田:不正利用被害額を減らすために、どのような対策が行われているのか、お聞かせください。

藤田:当社においては、24時間体制での不正利用のモニタリングをはじめ、DMARCの導入、3Dセキュアの登録推進、店頭やウェブサイトでの啓発活動を行って対策に取り組んでいますが、やはり個社単位の取り組みでは限界があると感じています。

今後業界が成長を続けていくために不正利用対策は避けて通れない課題であり、業界全体で対策に取り組む必要があると思います。

太田:昨今の決済ビジネスにおいて、業界を取り巻く環境が著しく変化してきており、業界全体として対応が求められておりますが、このような状況において、クレジット市場の動向・課題をお聞かせください。

藤田:決済ビジネスは、一昔前までは、当社を含め多くの会社がクレジットカード会社として限定した範囲でのビジネス展開となっていました。それがスマートフォンやオンラインの普及、ポイントサービスの拡充等により、キャッシュレス決済を起点とした複合的なビジネスへと変革しており、業界における成長機会とビジネスモデルの転換期を迎えています。

これまで、キャッシュレス決済は、クレジットカードを中心に拡大してきました。その大きな流れは今後も変わらないと思います。ただこれまでのクレジットカードによる決済、融資に留まらず、多様なサービスや本人認証機能との連携等、キャッシュレス決済のフィールドはより広がっていくことが予想されます。

変化の激しい時代ですので、お客さま目線に立ち、わかりやすく、そして使いやすいものとなっているかということを常に探求し続ける姿勢が重要であると思っています。闇雲にデジタル化すればよいというものではなく、お客さま一人ひとりのニーズに沿った対応が必要です。今後は、リアルとネットの垣根がなくなり、シームレスな顧客体験が求められていくでしょう。

市場の拡大が見込める一方で、課題はセキュリティ対策だと思います。個人情報保護に対する国民の意識が高まっている中で、業界としても保有する個人情報を保護するため、様々な対策を講じる必要があります。さらに、前述のとおり、不正利用被害についてもしっかりと対策を講じる必要があります。

また、経済産業省が2019年8月に策定した「マネー・ロンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」では、事業者は自らのリスクを特定・評価し、当該リスクに見合った対策を講ずること(リスクベース・アプローチ)が求められております。この他、経済安全保障法制では、特定社会基盤事業者は基幹インフラの安全性・信頼性の確保も求められており、業界全体で新しい課題にも情勢に応じた迅速な対応が不可欠となっております。

イオンフィナンシャルサービスの取組

経営統合によるシナジー効果で、「金融をもっと近くに。」

太田:イオンフィナンシャルサービスのこれまでの歩みを教えてください。

藤田:イオングループの総合金融事業は1981年に「日本クレジットサービス」を設立し、イオンカードの前身であるジャスコカードの営業を開始いたしました。1987年に香港で海外事業を開始して以来、アジアでの事業拡大を重点戦略と位置づけ、香港、タイ、マレーシアでは現地証券取引所に上場を果たし、中国、インドネシア、フィリピン、ベトナム、インド、カンボジア、ミャンマー、ラオスとアジア10カ国で海外事業を展開しております。

国内では2007年にイオン銀行を設立し、銀行業を開始しました。2013年には銀行持株会社に移行し、商号を「イオンフィナンシャルサービス」に変更しました。そして、2023年6月に決済・プロッセッシング事業を担っていたイオンクレジットサービスと経営統合しました。イオンのお客さまを中心に営業活動を行い、2023年2月末時点の連結有効会員数は4,824万人(うち海外会員1,742万人)、銀行口座は828万口座に成長しております。

太田:イオンクレジットサービスとの経営統合で期待される効果や今後の貴社の展望についてお聞かせください。

藤田:イオンクレジットサービスと経営統合した目的は大きく2つあり、「更なるグループシナジーの追求」と「ガバナンスの高度化」を図るためです。当社はイオングループの総合金融事業としてクレジットカード事業、電子マネー事業をはじめ、銀行事業、保険代理店事業・少額短期保険事業、個品割賦事業、リース事業、サービサー事業等を国内11社で展開しています。

一方で各事業におけるお客さまとのタッチポイントが分散しているという課題がありました。今後は決済を中心に、サービスをシームレスに提供していくことで、当社の使命である「金融をもっと近くに。」を実現していきたいと考えております。

また、ガバナンスの高度化では、不正利用の増加、消費者保護といった社会環境の変化に対応していくために、グループ全体を一元管理・監督できる体制として、まいにちのくらしで安心できるサービスを提供していきます。

太田:社会貢献事業への取組みについてお聞かせください。

藤田:当社では、2021年11月に当社グループが影響を及ぼす社会課題を明確化し、取り組むべき重点課題を特定しました。また、特定した重点課題を中長期的に解決するための行動ガイドラインとして、「AFSサステナビリティ基本方針」を制定しました。当社グループは、社会の持続的発展があってこそ事業を展開できるということを自覚し、環境保全活動や社会貢献活動に取り組んでいます。また、当社グループの事業が国内外を問わず社会に必要不可欠なインフラの一つとして位置づけられるものとなるように、事業活動を通じて創出する経済価値と地域社会が享受する社会価値の双方が両立するサステナビリティ経営を推進しています。

お客さまに金融をご理解いただき、身近になっていただくために、金融教育の推進をしています。全国の中等・高等学校でのキャッシュレスセミナーの開催に加え、本年3月には人材教育・育成機関として「AFSアカデミー」を開設し、大学生向けの寄付講座を実施しています。

また、環境保全活動としては、ご利用明細のWebサービス基本化や全国の事業所での清掃活動、千葉県君津市並びに宮城県亘理町にあるイオンの森での植樹・育樹活動等、多くの活動を行っています。当社は、お客さまや従業員の生活並びに健康、さらには地域経済や社会の発展のために、脱炭素社会の構築に向け、事業活動を通じた温室効果ガスの削減に取り組んでいきます。

協会が果たす役割

不正利用被害の撲滅と消費者への啓蒙活動の強化

太田:クレジット業界が果たすべき役割、また協会が果たす役割について協会副会長のお立場からお考えをお聞かせください。

藤田:やはり不正利用被害の撲滅が喫緊の課題だと思います。キャッシュレス決済は「危ない、心配だ」となってしまっては元も子もありません。「安全・安心」にご利用いただける環境を整備するために、官民一体となった対応が必要です。

個社単位で不正利用対策を行うことはもちろんですが、不正アクセスやフィッシングメールは国内のみならず、海外が拠点となっているケースも多く、個社単位では対策しきれない場合もあります。3Dセキュアの導入促進や、PINバイパス廃止に伴う利用者及び加盟店に対する周知・啓発等、引き続き会員企業と連携しながら業界全体で対応していくことが必要不可欠です。

また、成年年齢引下げによる若年者への対応に加え、超高齢化社会を迎える中での高齢者に対する周知啓発も益々重要となることが想定されます。消費者の方が犯罪に巻き込まれないよう、協会が中心となって犯罪手口の情報発信や啓蒙活動を強化していくことが重要だと思います。

これからもキャッシュレス決済を通じて国民の日常、豊かな消費生活、文化的な生活を支え、業界の健全な発展に貢献していきたいと思います。

[PR]提供:日本クレジット協会