遺産の中に借金などの負債が含まれている場合、「相続放棄」によってリスクを避けることができます。しかし、相続放棄することで、負債とは別の問題が発生する可能性もあり、相続放棄は安易にするべきものではありません。
このページでは、相続放棄のメリット・デメリット、相続放棄をすべきか、しない方がよいかの判断基準について解説していきます。 相続放棄による兄弟や子供への影響、手続方法から費用など、より詳しくは下記のページもご参照ください。
相続放棄とは?
人が亡くなって相続が開始されると、法定相続人が法定相続分に従って遺産を相続することになるのが基本です。
遺産という言葉を聞くと、現金や預貯金、不動産などのプラスの資産を思い浮かべるかもしれませんが、被相続人(亡くなった人)が借金を残して死亡するケースもあります。
相続放棄とは、これら借金を含む一切の遺産相続をせずにすべてを放棄してしまうことを意味します。
相続放棄のメリット
相続放棄によるメリットは大きく以下の2点と言えます。
- 借金等の返済義務まで相続しなくて済むこと
- 遺産分割協議に関与しなくても良くなること
それぞれ以下で詳しく説明します。
被相続人の借金・負債を相続しないで済む
相続放棄の一番のメリットは、負債を相続せずに済むことにあります。
たとえば、相続放棄をしない場合、被相続人がサラ金やクレジットカードで借金をしていたり、被相続人が事業者で銀行などから借入をしていたりすると、相続人がその返済義務を負うことになります。被相続人が誰かの連帯保証人になっていた場合にもそのリスクを負うことになります。
他にも色んなケースが考えられます。被相続人による未払家賃の返済、被相続人が起こした交通事故による被害者への損害賠償債務なども承継されます。
交通事故で被害者が死亡している場合には、数千万~1億円以上の損害賠償債務が発生していることも珍しくありません。相続財産の中からすべての弁済ができるのであれば問題ありませんが、弁済ができない場合には相続人が自らの財産から弁済をしなければなりません。
このような状況において役立つのが相続放棄です。相続放棄をすれば、その人は初めから相続人ではなかったことになりますので、借金も相続せず、その支払をしなくても良くなります。
相続放棄しないで借金を放置すると、最悪は差し押さえに
なお、これは相続する意思を伝えなければ良いというものではありません。借金があるのに相続放棄をせず放置していると、相続人自身の財産が差し押さえられてしまうおそれもあります。
自分では相続したつもりがなくても、相続債権者からすると義務の承継者です。借金の支払督促が電話や郵便などでやってくるでしょう。まるで自分が借金苦であるかのような扱いを受けます。それでも支払いをせずに放っておくと、裁判を起こされてしまいます。
そして裁判所が判決を出すと、相続債権者は強制執行(=差押)をしてきます。差押えの対象になるのは、被相続人の遺産だけではありません。もともと相続人自身の資産であったものも含まれます。
このように、相続放棄をせずに相続することを「単純承認」と言いますが、単純承認は相続における基本形であるため、相続人がその意思を明示しなければ自動的に単純承認したことになってしまいます。借金のリスクが大きいのなら、放置せず、早期に相続放棄すべきでしょう。
遺産分割協議に関わらなくてよい
相続放棄のメリット2つ目は、遺産分割手続きに関わらずに済むということです。自分が法定相続人になっている場合、いろいろな遺産分割手続きを進めていく必要があります。
まずは法定相続人が集まって遺産分割協議をしなければなりませんが、お互いに意見が合わずにトラブルになることも多いです。トラブルが長引いてしまうと家庭裁判所で調停や審判が必要になり、解決までに3年以上かかることも珍しくありません。
さらに、被相続人が事業を営んでいたのなら準確定申告が必要ですし、相続税が発生するのであれば相続税の申告と納税も必要です。不動産の相続があるなら登記もしないといけません。
こういったことは非常に面倒ですが、相続放棄をすると、これら一切の遺産相続に関する手続きに関わらなくて良くなります。
相続放棄のデメリット
相続放棄のデメリットとしては
- プラスの財産ももらえないこと
- 放棄の取消しができないこと
が挙げられます。
プラスの財産も一切相続できなくなる
相続放棄をすると、プラスの財産が一切相続できなくなることには注意が必要です。
遺産の中に不動産がある場合や高額な預貯金がある場合でも、相続放棄をすると承継できなくなります。負債を超える資産があるにも関わらず、それに気づかず相続放棄をしてしまうと損をしてしまいます。
相続放棄することで損してしまうケースも
父親が亡くなり、サラ金で50万円借金があるとわかったため息子たちが急いで相続放棄をした例を考えてみましょう。このとき、実は100万円のタンス預金があったとすれば、50万円の支払いをしても残りの50万円は手元に残ることになります。
しかし相続放棄をしたのであれば、もはや息子たちは預金をもらうことはできません。きちんと財産調査をしていなかったがために損をしてしまうのです。
思い出の家や土地、モノも放棄することに
また、特別な思い入れある財産も取得できなくなります。
遺産の中には、先祖代々伝わる不動産もありますし、父母が生前大切にしていた宝石類や骨董品、自分が育った思い出の生家などもあります。こうした思い入れのある資産であっても相続放棄をすると一切受け取れなくなります。
他の相続人が相続してくれたら資産としては守ることができますが、自分しか相続人がいない場合や、相続人が全員相続放棄してしまった場合、相続財産管理人が精算をして売り払い、最終的には国のものになってしまいます。
後から取り消しできない
相続放棄には3ヶ月の猶予期間が設けられますが、一度手続きをしてしまうと、たとえその3ヶ月の期限内であっても取り消しはできません。後で気が変わったからといってやり直すことはできないため注意しましょう。
ただ、民法第919条第2項には、相続放棄取り消しの余地があることも示されています。
たとえば
- 詐欺や強迫行為によって無理に相続放棄させられた場合(民法96条)
- 未成年者が単独で(法定代理人の同意なしに)相続放棄した場合(民法5条)
- 成年被後見人が自分一人で相続放棄をした場合(民法9)
には取り消しが認められます。
相続放棄した方がいいケース
以上の内容を踏まえ、どのようなケースで相続放棄をすべきか、解説していきます。
マイナス財産が多い
明らかに債務超過になっているケースでは相続放棄すべきです。この場合、相続放棄をしても損になることはありませんし、放っておくと相続人が自分の資産から借金を支払わないといけなくなります。
ただ、債務超過かどうかがわからないこともあるでしょう。被相続人が何社のサラ金からどれだけの借入をしているのか、調査しなければ判断ができません。
また、被相続人が起こした交通事故による損害賠償債務の金額は、事故後相当な期間が経過してからでないと明らかにならないため相続放棄の期間内には明らかにならないこともあります。
プラスの資産額がどれくらいかわからないケースも
さらに加えると、被相続人のプラスの資産額がわからないというケースもあります。特に、被相続人が長らく1人暮らしをしていた場合などには、どこの銀行を利用していたかがわからないことも多いです。ネット銀行やネット証券を利用していた場合、より財産の調査が困難になります。
親族との遺産相続トラブルに関わりたくない
遺産の相続をめぐって親族間でトラブルが発生することもあります。このトラブルに関わりたくないのであれば、相続放棄すべきです。
複数の相続人がいて遺産分割協議をしないといけない場合、トラブルになる例が非常に多いですし、もともと仲の良い親族間でも激しく争い、関係が悪化することも珍しくありません。
自身や親族の経済状況、これまでの人間関係なども鑑みて判断すると良いでしょう。
相続で遺産を分散させたくない
相続放棄をすると、自分の相続分が他の相続人に配分されます。これにより他の相続人の遺産取得分は増えます。そして、単に財産上の利益が大きくなるだけでなく、特定の相続人に遺産を集中させられることにもなります。
たとえば、兄弟3人が遺産相続をするとき、家を継ぐ長男に遺産を相続させたい場合などがありますが、相続を希望しない相続人が全員相続放棄をするだけで、長男にまるまる遺産を集中させることができます。
ただ、複数の相続人がいる場合において自分だけが相続放棄をしても、必ずしも狙い通りの者に特定財産を集中させられるわけではありません。自分が放棄した分は他の相続人に按分されるからです。そのため、相続放棄によって1人の相続人に遺産を集中させたいのであれば、他の相続人とも協力して放棄をする必要があります。
特定の相続人に集中させるなら、相続分の「譲渡」も有効
なお、特定の相続人に相続分を集中させたい場合には、相続分の「譲渡」が役に立つことも多いことは知っておきましょう。相続放棄だけが取り得る手段ではありません。
相続分の譲渡とは、自分の法定相続分を、自分以外の人に譲渡することを言います。共同相続人に譲渡することもできますし、相続人以外の第三者に譲渡することもできます。
長男に相続分を集中させたいのなら、自分の相続分を長男に全部譲渡すれば良いのです。相続放棄よりも直接的に目的を達成しやすいです。
相続放棄すべきでないケース
相続放棄をすべきではないケースについても解説しておきます。
限定承認できそうなケース
ここでポイントになるのは「限定承認」ができるかどうかです。
限定承認を簡単に説明すると、プラスの財産とマイナスの財産を処理し、残ったプラス分だけを承継できるという制度です。
財産状況が複雑ですぐに相続放棄の判断ができない場合でも、限定承認をしておけば自らの財産にまで及ぶ多大なリスクを背負わなくて済みます。
借金があることもわかっているが、プラスの財産が見つかる余地がある、もしくは相続財産の中にどうしてもどうしても取得したい財産があるときなどには限定承認を選択し、安易に相続放棄すべきではありません。
限定承認は相続人全員での申立が必要
「プラス分だけを受け取れる」と聞くと、常に限定承認をしておけば良いようにも思えます。しかし、限定承認をするには手続上の負担がかかりますし、相続人全員で協力する必要もあります。そのため簡単に取り得る手段ではないのです。
相続人は被相続人の債権者を把握し、財産調査をし、遺産から借金を弁済していかなくてはなりません。煩雑な手続きを進め、場合によっては数ヶ月以上かかるこの問題に取り組む必要があります。
相続放棄を弁護士に相談すべき理由
相続放棄をする場合、弁護士へ相談しておくことが推奨されます。迅速かつ正確な手続が期待できますし、費用を心配している方向けに法テラスのサポートも用意されています。
スムーズで確実な手続きが期待できる
相続放棄に関する手続をすべて自分でやろうとすると、かなりの時間と労力を要します。慣れない作業を多くこなさなければならず、裁判所に提出したり、役所へ出向いたり、ミスがあれば再度やり直したりなど、非常に大変です。
時間がかかり過ぎると熟慮期間を経過してしまい相続放棄ができなくなってしまいますし、財産が散逸してしまうおそれもあります。しかも財産を管理しようと思ったつもりが処分行為にあたってしまい単純承認とみなされる可能性もあります。
こうした問題を避けるためにも、できるだけ早期に弁護士に相談・依頼しておくことがおすすめされます。スピーディに、正確に手続を進めてくれ、放棄をしようとする方の負担は軽減されます。
余計な心配をする必要がなく、弁護士と最低限のコミュニケーションを取っていれば相続放棄の手続を完了することができます。
法テラスを使えば費用を抑えて依頼することも
弁護士に相続放棄の手続を頼んだほうが効果的・効率的ですが、費用は必要です。この点ネックになっている方もいるのではないでしょうか。
ただ、法テラスでは「民事法律扶助制度」というものが設けられており、経済的に余裕のない方であれば無料での相談、費用の減額、分割での支払いなどに対応してもらえる可能性があります。費用が心配という方は一度法テラスに問い合わせてみると良いでしょう。
まとめ
相続放棄にはメリットもありますが、注意しなければならないポイントもたくさんあります。間違った判断や対処をすると相続放棄ができなくなって、大きな借金を相続するおそれもあります。
相続放棄に関して迷ったときには、相続問題に強い弁護士に相談することをおすすめします。
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