少しずつ暖かくなり、いよいよ春本番となってきました。進学、就職、転職、引っ越しなど、生活に新しい変化がある人もきっと多いのではないでしょうか。そんな季節に実は増えがちなのが、スマホやゲームなどの課金トラブルです。ただ一口に課金トラブルと言っても、実際にどんなトラブルが起こり、どのような問い合わせが増えているのか気になるところ。春からスムーズな新生活を迎えるためにどうすれば良いのか、課金トラブルに詳しい専門家の方々にお話をうかがってきました。

  • 左から、玉木祐介さん、西雅彦さん

[今回お話をうかがった方たち]
玉木祐介さん
独立行政法人国民生活センター相談情報部 相談第2課。主に全国の消費生活センターから寄せられる通信販売・電子商取引に関する相談を担当。相談処理サポートや消費者への注意喚起だけでなく、消費者庁など関係省庁とも連携し法改正の面からも働きかけを行う

西雅彦さん
株式会社ディー・エヌ・エー システム本部 品質統括部 カスタマーサービス部 CSセンター長。また、一般社団法人コンピューターエンターテインメント協会 CS品質向上委員会 副委員長も務める。自社サービスへのユーザーからの問い合わせ対応、サイトパトロールなどに加え、未成年による高額課金などの問題解決および業界全体の品質向上に取り組む
春は課金トラブルにご注意!

---色々と生活に変化があった2020年ですが、まずはお2人の立場からこの1年を振り返っていただけますか。

西さん:私どもの場合ですが、やはり新型コロナウィルスの影響で問い合わせは増えました。われわれ大人はもちろん、お子さんたちも地域によっては休校などで登校できなかった時期がありましたので、利用者の上昇は顕著だったと言えます。先日(※)、1都3県で緊急事態宣言が解除されましたが、依然として利用者数は高止まりの状況です。
※2021年3月23日時点

玉木さん:西さんのおっしゃる通り、おうち時間の増加に伴い、オンラインゲームの課金などを含めたインターネット通販のトラブルは、増加傾向にあります。なかでもコロナ禍の影響で、マスクや消毒剤などの詐欺的な通信販売、頼んだモノが届かないニセモノの通信販売に関する問い合わせも増えました。

---時期的にはやはり春先に課金に関するトラブルが多いのでしょうか。

西さん:例年だと、春休みや夏休みといったお子さんの長期休みのタイミングで、トラブルの件数が多くなる傾向にあります。しかし去年の場合、休校の学校が多かった4~6月は前年と比べて件数が増えました。今年も、例年通り春休みは要注意ですが、今後も緊急事態宣言のように外出自粛が要されるような事態が発生した場合は、十分気をつける必要があると思います。

---特に問い合わせが多い年齢層は?

玉木さん:国民生活センターに寄せられたオンラインゲームに関する相談は、2019年度だと年間約5,300件、2020年度が2月末時点で5,600件ということで、すでにコロナ禍以前の状況を越えております。そのなかでも未成年者、つまり20歳未満の契約当事者の数が、2019年度は約2,800件、今年度が同じく2月末で約3,400件とこちらも増えているのです。

また、小中高および男女別で見ると、小学生・中学生の男児に関する相談が増加傾向にありますね。これは、親が自分のスマホを子どもに渡してゲームをさせる際、簡単に課金することが出来る設定かどうかをあまり把握していないため、親の目の届かないところで課金してしまっているのではないかということも考えられます。

実際に起こった課金トラブルの事例

---では、実際に発生した課金トラブルを具体的に挙げてもらえますか。

玉木さん:これは相談者が母親でしたが、昨年の休校時に小学生のお子さんを祖父母のもとに預けたところ、祖父に借りたスマホで30万円ほど課金してしまった事例がありました。この場合に問題となるのが、未成年者である孫の行為を祖父自身が把握することはなかなか難しいということと、実際に課金分を支払わないといけないのは祖父であるというところです。

---どうして祖父だと問題なのでしょう。

玉木さん:こういったトラブルが起きた場合、「未成年者契約の取消し」の対象になる場合もあるのですが、これは未成年者本人か保護者しか出来ない決まりになっているのです。

---なるほど。それは注意が必要ですね。

玉木さん:ほかにも中学生男子のケースですが、休校をきっかけにスマホでオンラインゲームをするようになり、普段は2,000円程度の利用料金だったのが、約10万円の決済をしていたことに、クレジットカードの利用明細を見た父親が気づいたそうです。また、機種変する前に使っていた古いスマホを子どもに使わせていたところ、決済情報が残っていたため課金されてしまった、という事例もあります。

「未成年者契約の取消し」とは

---では改めて先ほど出てきた「未成年者契約の取消し」について詳しくご説明いただけますか。

玉木さん:これは民法で定められており、本人または保護者から申請することが可能です。「契約時の年齢が20歳未満であること」「契約当事者が婚姻の経験がないこと(※結婚していると「みなし成人」として扱われる)」「法定代理人(※主に親)が同意していないこと」、この3つを満たしていれば、未成年者による契約は取り消すことが出来ます。

ただし、例外がいくつかありまして、親から渡されたお金を使ってコンビニで買い物をしたなど、いわゆる「おこづかい」の範囲内だと適用されません。また、未成年者が詐術(※)を用いていた場合も取り消しは不可です。ですから、オンラインゲームなどで自らを成年と偽って契約している場合には返金されないこともあります。国民生活センターではこういった課金トラブルの相談を随時受けつけていますよ。
※人をだます手段。民法上、制限行為能力者が取引の相手方に対し、自己が能力者であることを信じさせるためにする欺罔(きもう)行為。

西さん:ゲーム業界全体でも、任意ではありますが、ゲーム内で年齢に関する情報を入力することで課金額の制限を行なっております。

備えるべき心構えや具体的な対策は?

---これらの課金トラブルについて、事前の対策はどうすれば良いですか。

西さん:私も未成年の娘がおりますが、災害時や緊急時のためにスマホを持たせているというご家庭も多いでしょう。その上で、やはりどのような使い方をするのかというルール作りを今1度、ご家族で話し合うことが大切ではないでしょうか。1日の利用時間を決めたり、長時間の使用を避けたり、それに加えてお金の使い方についてもキチンと話す機会を設けることも重要です。私どもも親御さんにヒアリングしてみると「ゲームをやっているとは思わなかった」「何に使っているかわからなかった」という声を聞いたりしますので、そういった親子のコミュニケーションを、普段から意識する必要は多いにあると思います。

玉木さん:確かに、インターネット利用にあたってのルール作りは非常に重要です。ただ、それでも未成年者となるとなかなか行動が読めないところもありますので、ペアレンタルコントロールやフィルタリングなどといった安全設定をしっかり行うこと。その上で、保護者のみなさんはご自身の決済方法を今一度確認し、当たり前のことですが、お金やクレジットカードを子どもの目の届かないところに置くことを徹底していただきたいと思います。

国民生活センターからお子さんへのアドバイスとしては、(1)インターネットは家族で決めたルールを守って使いましょう (2)クレジットカードを使うことはお金を使うことと一緒です。勝手に使ってはいけません (3)トラブルに遭った時は1人で悩まず、家族に相談しましょうという3点を掲げております。

---それでも課金トラブルを避けるための具体的な方策としては、ほかにどういったものがあるでしょう。

西さん:お子さんがスマホでゲームをしている場合は、アカウントの登録年齢を確認することはひとつの手段だと思います。また、基本的にクレジットカードの登録を未成年者はしていないと思いますので、親御さん自身がクレジットカードのパスワードをしっかり管理するとともに、決済状況を普段から把握しておく必要があるかと。

もしトラブルが発生してしまったら?

---もし実際にトラブルが起きてしまった場合はどうすればよいですか?

玉木さん:消費生活に関する相談は「消費者ホットライン」として、188(局番なし)にお電話いただくと、お近くの市区町村や都道府県の消費生活センター等の消費生活相談窓口をご案内いたします。また繰り返しになりますが、国民生活センターでも直接受けつけておりますよ。ただ、相談していただくことも大事ですが、トラブルが発生した場合、まずは当事者同士で話し合うことも必要かと思います。スマホの場合ですとプラットホーム(AppleやGoogle)やゲーム会社の窓口に連絡していただき、事情を説明することをオススメします。

西さん:あくまでも状況に応じてですので、必ず返金されることは約束出来ません。ですが、弊社では身に覚えのない利用が分かった場合、電話でもメールでも相談窓口がございますので、いつでもご相談下さい。

玉木さん:クレジットカードの請求書やキャリア決済の履歴などを見て、高額課金が発覚することがあるので、請求を把握する意味でもカード会社やキャリアの相談窓口に連絡してみることもひとつの方法です。場合によっては「ゲーム会社と話し合うので支払いをいったん保留していただけないか」という相談も出来ると思います。

西さん:私どもゲームなどサービスの運営会社としましても安心・安全にご利用いただくために、成人か未成年の確認や年齢による課金額の制限などの取り組みをおこなっています。しかしながら、お子さんが高額課金当事者だった場合、最初から正直に話してくれるとも限りませんので、お子さんによる課金なのか第三者による不正利用なのか、そこを確認していただくことも重要になってきますね。

2022年4月の成年年齢引き下げの影響は?

---来年の話になりますが、2022年4月から成年年齢を20歳から18歳に引き下げる法律が施行されます。これについてお2人はどう捉えていますか?

西さん:18歳で成人となりますと、当然、これまで私どもが成人として対応してきた年齢とは異なりますので、お子さんも親御さんも法改正によって生じるリスクをしっかり把握していただく必要はあると思います。根本には道徳的な問題がありますが、リアルでもネットの世界でも、やってはいけないことはやらない、ということを徹底してください。

玉木さん:今の18歳、19歳が「未成年者契約の取消し」で保護されている状況ですが、成人になってから契約すると取消しは出来なくなってしまいます。ゲーム課金だけでなく、商法商材、マルチ商法、定期購入トラブルなど、現在、20代前半で発生しているトラブルがこの年齢にも起こりうるだろうと予想しています。みなさんには自分自身を守るという意味でも法律的知識に関心を持っていただくと同時に、私どもも引き続き注意喚起をしていきたいと思います。

まとめ

ウィズコロナ時代とともに、今後ますます増えていくと予想される課金トラブル。さらに、2022年4月には成年年齢が引き下げられることで、当人はもちろん、保護者にもより一層の注意が求められることは間違いありません。親子の間で普段からのコミュニケーションを心がけるとともに、インターネットの正しい知識およびトラブルが起きた際の適切な対処方法をしっかり学んでおくことが必要ではないでしょうか。

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[PR]提供:消費者庁・一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会