――アニメ化するにあたり、挿絵なども含めた原作のイメージをどのあたりまで踏襲する感じですか?

「今回の映画では、作品をいわゆるイメージで見せるというよりは、キャラクターに歩み寄ったストーリーということにしているんですよ。なので、絵面に関しても、原作のイラストをそのまま再現するというよりは、息遣いや空気感といったもの大事にした作画になっています。そういう意味では、原作の挿絵がそのまま映像に変換されたものを想像していると、ちょっとちがった表現になっていると思います」

――アニメ化することで、新たな一面が見えるといった感じですか?

「この作品の場合、私自身も含めて、スタッフや友人、知人にリサーチしたところ、挿絵を見て想像しているものが人によってまったく違っていたりするんですよ。なので、誰もが自分の主観で想像できる程度のあやふやなイメージを提示するという手法もあったのですが、そうすると、わざわざキャラクターにフォーカスするというコンセプトをとったのに、今度は逆にキャラクターにフォーカスできなくなってしまう。つまり、あやふやな、みんなが想像するようなキレイさや物悲しさ、そういったもので絵をとらえてしまうと、こちらが明確に見せたい結論が伝わりづらくなってしまうんですよ。そういった意味でも、今回ははっきりとした映像で作っていくという方向性で、現在作業を進めています」

――劇場版のアニメは、先日発売されたDVD付特装版に収録されているOVAと同じようなイメージだと考えてもよいのでしょうか?

「ほぼ近い感じにはなっているのですが、プロジェクトとして、劇場版とOVAではアプローチがまったくちがっているんですよ。OVAは、誰かの物語やテーマ性を押し出したものではなくて、主人公たちの文芸部における日常、学校生活の一場面を切り取ったという感じになっています」

――作品の象徴的な部分を映像にしたという感じですね

「そうですね。その一方で、劇場版はテーマ的なところに踏み込んでいくので、手法としては同じなんですけど、見え方はずいぶん違うものになると思います」

――これまでに監督は数々のアニメ作品を手掛けていらっしゃいますが、TVシリーズと映画では、どのようなちがいがあるのでしょうか?

「これはもうはっきりしているのですが、映画は情報の羅列では成立しないんですよ。TVシリーズの場合、総合的に見れば最終的に何らかのテーマが語られているとしても、いわゆる話数によっては直結しないお話があったり、後から組み立て直すとはまる、みたいなカタチにもできたりするんですけど、映画の場合は、その一本しかないわけですから、後からもへったくれもないわけですよ(笑)。そうなると、スタート段階からゴールをきちんと設定した作り方というのは、TVシリーズ以上に明確にしておかないといけないのですが、それを原作どおりにできないというのが、今回の最大の悩みどころですね(笑)」

――そのあたりの調整にはかなり時間がかかりましたか?

「先ほども言いましたとおり、エピソードや絵だけを見ていると、各自が持つ作品感に意外と差があったんですよ。それを、みんなが納得できる共通の結末、共有できるストーリーラインといったものの最大公約数的なものを探って、再構築していくというところに時間がかかりましたね」

――今回のアニメーション制作はプロダクションI.Gが担当していますが、プロダクションI.Gならではの強みやポイントはどのあたりにありますか?

「あいまいさを残した表現ではなく、明確に情報を作り出すという点で、I.Gのもともと持っている手法がとても役に立つんですよ。作品を受け取る側が自由に料理してくださいといったものではなく、生活観や時代感といったものを明確に伝えるという意味では、I.Gのスタッフが持っているポテンシャル、そして技術が直接的に活かせるのではないかと思います」

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芥川一詩
cv. 小野大輔

姫倉麻貴
cv. 伊藤静

櫻井流人
cv. 宮野真守

森ちゃん
cv. 下田麻美