テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。

今回は、コンサルティング会社と会計事務所の代表を務め、スタートアップを中心に会計面・資金調達面からサポートを行っている岡野貴幸氏が、「キャッシュフロー計算書」の分析方法について解説します。

  • キャッシュフロー計算書から企業を分析しよう


前回はキャッシュフロー計算書の基本の考え方について説明をしました。今回はキャッシュフロー計算書の分析についてお話したいと思います。

キャッシュフロー計算書で企業の状態を見分けられる

キャッシュフロー計算書は3つの区分から構成されていますが、それぞれがプラスかマイナスかで企業の状況がある程度見えてきます。いくつかの場面で考えてみましょう。

<企業の創業期、投資を行っている状態>
営業活動によるキャッシュフロー:マイナス
投資活動によるキャッシュフロー:マイナス
財務活動によるキャッシュフロー:プラス

起業から間もない時期、もしくはサービスを開始して間もない時期は、営業活動によるキャッシュフローはマイナスとなります。まだ本業で稼ぐことが出来ない時期です。また、投資期間となりますから、投資活動によるキャッシュフローもマイナスとなります。これらキャッシュフローのマイナスを補うために金融機関からの借入、株主からの資金調達を行いますので財務活動によるキャッシュフローはプラスとなります。

<企業の成長期、本業がうまくいっている状態>
営業活動によるキャッシュフロー:プラス
投資活動によるキャッシュフロー:マイナス
財務活動によるキャッシュフロー:プラスもしくはマイナス

本業がうまく行き出し、営業活動によるキャッシュフローがプラスの状態となります。一方で新しいサービス等に投資も継続している状態となり、投資活動によるキャッシュフローはマイナスです。

投資を行っているので、引き続き借入等を行っている場合は財務活動によるキャッシュフローはプラス、借入の返済を行っている場合は財務活動によるキャッシュフローはマイナスになります。

財務活動によるキャッシュフローがマイナスという状態は、投資活動を行ってもなお、返済を行うことが出来る状態なので、とても本業がうまくいっていることがわかります。

<企業の安定期、成熟期>
営業活動によるキャッシュフロー:プラス
投資活動によるキャッシュフロー:プラス
財務活動によるキャッシュフロー:マイナス

本業はうまくいっていますが、新たな投資は行わず、むしろ過去の投資した資金を回収している状態となります。営業活動によるキャッシュフロー、投資活動によるキャッシュフローで得たプラスの資金を過去の借入の返済に回している状態です。今の状況はいい状態となりますが、投資活動を行っていないので、将来への成長はあまり期待出来ません。

上記に説明した場面は、企業がうまくいっている状態を前提としたものです。営業活動によるキャッシュフローがプラスとなっていれば、倒産する確率は低いと言えます。一方、下記は企業がうまくいっていない状態となります。

<本業がうまくいっていない状態>
営業活動によるキャッシュフロー:マイナス
投資活動によるキャッシュフロー:プラス
財務活動によるキャッシュフロー:プラス

本業がうまくいっておらず、投資の売却や新規の借入で営業活動によるキャッシュフローのマイナスを補っている状態です。補っている状態が一時的であれば問題ないですが、この状態が継続すると危険な状態となります。借入で補うのも限界があるためです。

<倒産の危機にある状態>
営業活動によるキャッシュフロー:マイナス
投資活動によるキャッシュフロー:プラスもしくはゼロ
財務活動によるキャッシュフロー:マイナス

本業がうまくいかない状態が継続し、借入も新規で行うことが難しく銀行からの借入の返済にも追われている状況が想定できます。投資活動によるキャッシュフローがプラスというのは、足りない資金を投資の売却で補っている状態です。これもなくなると投資活動によるキャッシュフローはゼロとなり、資金が枯渇して倒産が現実的となってきます。

以上のように、それぞれ3つの指標がプラスかマイナスかだけを見れば、企業のある程度の状況は見えてくるため、キャッシュフロー計算書を見ることは非常に有効です。これは、損益計算書だけでは見えてこないものになります。自社のキャッシュフロー計算書もどうなっているか確認してみてはいかがでしょうか。

執筆者プロフィール : 岡野貴幸

ゴージュ株式会社 代表取締役、ゴージュ会計事務所 代表公認会計士
立教大学経済学部卒業。大学在学時に公認会計士試験に合格。大学卒業後、あずさ監査法人国際部に入社。上場企業の法定監査、国際会計基準導入支援業務を経験。実家は埼玉県で3代続く税理士事務所を経営しているが、ゼロから立ち上げ新しい会計事務所の形を作りたいと一念発起し、2014年に独立。岡野公認会計士事務所(現、ゴージュ会計事務所)を設立。同時にコンサルティング会社であるゴージュ株式会社を設立。成長する企業を会計面・資金調達面からサポートしたい想いから、スタートアップを中心にサービスを行っている。クラウドを駆使し徹底した経理の効率化、事業計画の作成、資金調達を得意とする。