テクノロジーが進化し、AIの導入などが現実のものとなった今、「働き方」が様変わりしてきています。終身雇用も崩れ始め、ライフプランに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

本連載では、法務・税務・起業コンサルタントのプロをはじめとする面々が、副業・複業、転職、起業、海外進出などをテーマに、「新時代の働き方」に関する情報をリレー形式で発信していきます。

今回は、中小ベンチャー企業などへの経営コンサルティングのかたわら、デジタルハリウッド大学院客員教授、グロービス・マネジメント・スクール講師、パートナーCFO養成塾頭等も務める高森厚太郎氏が、「CFO」に求められる役割や具体的な業務について語ります。

  • 中小ベンチャー「CFO」の業務の全体像【前編】


数字とロジックで経営と現場をExit(IPO、M&A、優良中堅)へナビゲートする。ベンチャーパートナーCFO、高森厚太郎です。

前回の記事の続き、本連載のテーマ「中小ベンチャーの成長マネジメント」の中心プレイヤーとなる「中小ベンチャーCFO(社内、社外を問わず)業務の全体像(前編)」について考えてみたいと思います。

CFOの役割とは

これまでの連載で触れてきた通り、「CFO」はCEOやCOOのように事業を推進していく立場ではなく、管理サイドに身を置いて、事業を客観的に俯瞰する立場です。「経営管理担当の参謀」として、主として「カネ」に関する部分、PLCFマネジメントやファイナンスの役割を負うことになります。

加えて、中小・ベンチャー企業であれば、「ヒト」に関する部分、HRMや採用、組織設計など組織管理全体も見る役割を担うことが多いでしょう。その意味で、経営管理担当の参謀のみならず、管理部長的役割も負う、つまり経営者の仕事のうち「(3)リソースの調達と配分」(※本連載、第32回の図表)の全社的戦略を整えていく立場となります。

CFOの8つの業務、(1)~(4)

ここであらためて中小ベンチャーのCFOの具体的業務を、必須業務からここまでできれば真に重宝されるレベルの業務まで、順に紹介していきます。

  • CFOの8つの業務

(1)全体管理
企業の全体を経営管理する業務。すなわち、企業のミッションやビジョンを確立し(理念策定)、それに則って戦略を策定し、組織を整えます。また、戦略を数値に落として事業計画を立て、会議体を設計するなどしながら、計画を推進し、PDCAを回しながら成長を果たしていくというものです。

なかでも重要なのが成長戦略。企業は必ず成長を志向します。経営者(CEO)はいったん事業が回り出せばより多くの利益を上げたいと考えるでしょうし、その事業が世のため人のためになると信じられればより拡大させる使命があると考えるでしょう。

このように、成長は企業経営の始まりであり、根幹です。その成長戦略をCEOと一緒に立てていく、あるいはCEOが立案するのをサポートするのがCFOの役割となります。CFO特有の中立的な立ち位置を活かして合理的に戦略を立てること、数字に強いという特性を活かして戦略を適切に数値化・可視化することなどが期待されます。

(2)PL/CF改善
PL/CFの改善は、(4)資金調達と並び、CFOの主要業務となります。事業の取引を集計して整えて、P/L(損益計算書)やB/S(貸借対照表)を作って利益を算出したり、会社のおカネの出入り、CF(キャッシュフロー、資金繰り)を見て、事業を回していくのに必要な資金を算出したりします。

これらの実務は経理や財務の実務担当者の仕事ですが、その数字を見て、今後の会社の成長のためにどのようなP/L、CFを作っていくべきか、経営の視点からP/L、CFを整えていくのは、経営メンバーのひとりであるCFOの仕事です。

このPL/CF改善は、CEOからの相談で改善策を講じる場合もあれば、CFOが自ら気づいて進める場合も、外部の(たとえば銀行や投資家からの)指摘で進める場合もあります。いずれにせよCFOがリードしてCEOや外部関係者の数値的要望を確認しながら改善策を講じ、従業員を巻き込んで現実化していく役割が期待されます。

(3)組織マネジメント
組織マネジメントの中心は本業、すなわち商品やサービスを作ったり売ったりする業務をどう動かすかになるので、基本的にはCOOがメインの担当になります。

しかしCOOが組織マネジメントなど特に体系的に学んだことがなかったりすると、特定のスタッフや特定の部署に個別対応しがちで、結果、部分最適になったりと不公平感を生むことがあります。あるいは、COOが目の前の実務に追われて、全体のフレーム作りなどにはとても手が回らない状態だったりすることもよく生じます。

このような場合は、CFOがそうしたヒト管理の業務、特に全体のフレーム作りなどを積極的にサポートしていくとよいでしょう。CFOは立場も中立的ですし、組織の潤滑油的に動けるという長所も発揮できます。

(4)資金調達
資金調達は、(2)PLCF改善と並び、CFOの主要業務です。社内CFOであろうと社外CFOであろうと、Chief Financial Officerを名乗る限り、CFOはFinancial部門のメイン担当者です。上場企業であれば資本市場に直接相対する立場ですし、ベンチャーでは資金調達のキーパーソンになります。

資金調達の2大戦略であるDebt(銀行などの金融機関からの融資)とEquity(投資家からの投資)のうち、Debt調達であれば会社がどうなのかが主に見られるので、CFOが金融機関との交渉の前面に立つことが多いでしょう。

一方、Equity(投資家からの出資)は、経営者がどうなのかが多分に見られるので、CEOが顔として前面に立ちます。とはいえ、数字面を管轄するのはCFOであり、CFO実務面をトータルでフォローすることが期待されます。CFOはDebtとEquity、それぞれの特徴と両者の違いを理解し、実際に調達にこぎつけるノウハウを身につけておかなければなりません。


次回は、「中小ベンチャーCFO」業務の全体像(後編)」にて、残りの(5)採用、(6)新規事業、(7)Exit、(8)事業承継・再生について触れていきます。

執筆者プロフィール : 高森厚太郎

プレセアコンサルティング株式会社 代表取締役パートナーCFO。
東京大学法学部卒業。筑波大学大学院、デジタルハリウッド大学院修了。日本長期信用銀行(法人融資)、グロービス(eラーニング)、GAGA/USEN(邦画製作、動画配信、音楽出版)、Ed-Techベンチャー取締役(コンテンツ、管理)を歴任。現在は数字とロジックで経営と現場をナビゲートするベンチャーパートナーCFOとしてベンチャー企業などへの経営コンサルティングのかたわら、デジタルハリウッド大学院客員教授、グロービス・マネジメント・スクール講師、パートナーCFO養成塾頭等も務める。