「きちんと丁寧に教えているのに、後輩であるAさんが、なかなか仕事を覚えてくれないんです」

メーカーの人事部で労務を担当するBさんは、そう嘆きます。このような「仕事を教える」ことに関する悩みを持つ方は多いのではないでしょうか?

  • 仕事をうまく教えるコツを知っていますか?

仕事を教える際のゴール

Bさんの悩みを解消するため、もう少し深堀りしてみましょう。

「きちんと丁寧、というのは詳しく言うとどういう教え方ですか?」

「労務の仕事は手順が決まっているものが多いのです。ですから『この書類の目的は〇〇です。手順は、この欄にここの数字を入れて……』と目的を説明し、順をおって必要な情報を伝え、合わせてメモを取る指示も出しています」

私は更に質問を重ね、「ところで、Aさんにそのタスクを教えることの、Bさんにとっての『ゴール』は何ですか?」と聞いたところ、「その業務をAさんがこなせること」という回答でした。

仕事を教える際の「ゴールベース」という概念

ここで考えてみましょう。仕事を教える際の「プロセス」はBさんが言う通り、とても丁寧で素晴らしいですね。にもかかわらず、Aさん理解が進まないのはなぜでしょう?

先に結論からお伝えします。何かを教える際は、必要な情報を伝え終わった最後に「学んだ内容を、相手に話してもらう・やってもらう」と、非常に効果的です。

「ゴールベース」という、人に何かを教える際は「相手のアウトプットが望ましい方向に変化したか否かという点」に焦点を当てましょう、という考え方があります。この概念に沿って今回のケースを考えると、できなかった業務が「できるようになる」という変化が起きて、はじめて教えた、という完了形になりますね。

ポイントは、「教える側がきちんと教えたと自負できるだけの指導をしたか否か」ではなく、「できるようになるという変化が起きたか否か」ということ。この変化の有無は、情報を伝えた後に「相手にやらせる(もしくは、答えさせる)」ことをしないと判断がつきません。

仕事を教える際のコツ

そこで、私は、「アウト・イン・アウトの法則」という指導法を推奨しています。

まずはアウトです。これは相手に質問して、知っている情報のレベルを引き出し(アウトプット)て確認すること。例えば、「この業務のやり方を教えますが、現段階でどれくらい知っていますか」と質問します。まったく知らない場合は、ゼロから教えればよいのですが、本人が「ある程度知っている」とか「よく知っている」と答えた場合は注意が必要です。

その場合、「具体的に説明してみて」「試しにやってみて」といった問いかけをすることをお勧めします。「名前を聞いたことがある程度のレベルで、実は全然知らない」「細かいところは不明瞭だけれど、大枠は理解している」といった実際のレベルを把握できるからです。

次のインでは、相手に合わせた情報を伝え(インプット)ます。最初にアウトされた情報を踏まえ、相手のレベルに合わせた情報を教えるのです。最後のアウトで、相手の理解度や手順を身に付けられたか否かを確認するために、答えさせる・やらせてみる(アウトプット)のです。

仕事の理解度を判断するポイント

最後に理解度を確認しますが、「分かった?」「分かりました」というやりとりでは、本当に理解できたか否かの判断はできません。教えた内容は理解できたか否か、不明点があるか否かをまずは確認した上で、「それでは今教えたことをやってみて(もしくは説明してみて)」といったように、本人にアウトプットしてもらいます。

そのアウトプットを判断し、理解が足りないようなら、そこから更に指導していくのです。いかがでしょう?あなたは、最後にアウトプットをしてもらっていますか?仕事をうまく覚えてくれない、という悩みがある場合は、ぜひ試してみてください。