テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第158回は、1月30日に放送された日本テレビ系バラエティ番組『1億3000万人のSHOWチャンネル』(毎週土曜21:00~)をピックアップする。

『嵐にしやがれ』の後継として1月16日のスタートから今回が3回目の放送。MCの櫻井翔と主なスタッフは続投した一方、「さまざまな人々の『やってみたい』『見てみたい』をひたすら実行していく」という番組内容はまったくの別物であり、まだまだつかみ切れないところがある。

ここまでの2回の視聴率(ビデオリサーチ調べ・関東地区)は、個人8.1%→6.8&、世帯13.0%→10.6%と、数字的にはまずまずのスタートを切ったが、現状の魅力と課題、今後の期待と不安を挙げていきたい。

  • (左から)羽鳥慎一、今田耕司、稲田直樹

■序盤から自虐系の笑いを連発

オープニングのナレーションは、「YouTubeにInstagram、TikTok、今や誰もが企画を考える時代。そんな今だからこそ、みんなが考えた、やってみたい企画にチャレンジする放送局、開局」。「みんなが考えた」「やってみたい」というフレーズから、「あえてハードルを下げてゆるく楽しんでもらいたい」というスタンスが見える。

スタジオが映し出されると、背景は近未来の放送局をイメージさせるCGで、出演者たちは画面下部に合成で並べられていた。こんな演出からも、ゆるいムードを徹底していることがわかるだろう。

オープニングトークの口火を切ったのは、ゲストの今田耕司。「見ましたよ、1回目(の放送。櫻井の)あのバック転、ひどいすね」とイジられた櫻井翔は「僕自身ビックリしたのは、1か月間練習した中でワースト3人に入るくらいの出来の悪さでした」と返して笑わせた。

最初の企画は、その今田の「めちゃくちゃいい電動自転車を買ったらどれだけ急な坂道を上れるのか?」。まず本人にインタビューして企画意図を語ってもらうというオーソドックスなスタートだった。

ちなみにそのインタビューには、スタッフの「確認なんですけど、『今田さんが(自腹で電動自転車)買う』ってことでいいんですよね? 番組はビタ一文出さない」という振りに今田が「『嵐にしやがれ』のあとで櫻井くん1人なんで4人分(予算が)余ってる」と切り返して笑いを誘うシーンも。こういう細かいネタで笑いどころを詰め込むところは、いかにも日テレのバラエティらしい。

ここでいったんスタジオに戻ると、バイきんぐ・小峠英二が「ゴールデンで、今田さんで、自転車で坂道上る企画、地味過ぎないですか? 俺あんまりワクワクしてないですよ」とツッコミを入れた。つまり、番組を自虐して笑いを誘う形であり、ここまでオープニングから終始このスタンスが続いている。

スタッフが企画スケールの小ささを自覚しているからなのか。これがYouTube的で時流に合う笑いとみなしているからなのか。まだわからないが、自虐系の笑いを仕掛けつつ、自ら笑い声を差し込む演出はマッチポンプのようで笑いづらかった。

■「ゆるい」企画でも笑いの密度は濃い

今田は自転車店でさまざまな電動自転車を物色し、最高値の66万円を見つけるが、これは山登り用で希望に合わず。けっきょく22万9,301円の電動自転車を買い、実際にお金を払うシーンも映された。

すぐに映像は坂道を上るロケに切り替わり、今田は15度、20度、25度の勾配を上ることに成功。ちなみに25度は、櫻井のなで肩とほぼ同じ角度らしい。その後、今田が26度の勾配に失敗したあと、「9時台の地上波の手応えは正直感じてない……」とボヤくと、制作サイドは「われわれもそう思うので」というナレーションを入れつつ、66万円の山登り用電動自転車が再登場。今田が26段もの階段を一気に上る様子を披露し、「ようやく地上波の画ヅラ」というナレーションでオチをつけた。

「今田耕司、ひさしぶりの若手仕事」などとさんざんイジったあげく、最後は「今田さん、体を張った企画ありがとうございました」というナレーションとテロップを表示してVTRは終了。スタジオに戻ると、今田のボツ企画「1人キャンプで自分を試したい」と「先週、平野くんでやりました」というボツ理由を紹介して笑いを付け足した。「このような数十秒レベルの小ネタでも、できるだけ入れて笑いの密度を濃くしよう」という意識は、日テレが他局を大きく上回っている点だろう。

2つ目の企画は、羽鳥慎一の「魚を華麗にさばいて娘にカッコいいと言われたい」。しかし、VTRがスタートする前、櫻井が静止画に合わせて「魚さばきを猛特訓し、披露したけど…娘が1枚上手だった」と結論をチラ見せした。この演出はテレビ的なあおりというより、YouTube的なサムネイルに極めて近い。若年層向けの演出だが、「娘が1枚上手」までバラしてしまうと、笑いの絶対値は下がってしまうはずだ。印象や体感より、視聴継続(視聴率獲得)を優先させる演出は、本当に視聴者や番組のためになるのだろうか。

VTRは今田のときと同様に企画意図のインタビューから始まったが、魚の専門家から特訓を受けるシーンは、「尺の都合上、猛特訓はダイジェスト」にされ、すぐに本番へ。羽鳥父娘は強風で漁に出られなかったが、海水がある釣り堀で釣りを始めた。

娘は「寒い」を連発したほか、「(頭を切り落としたのを見て)やっぱおさしみやめとく」とブランコに乗りはじめ、1人で魚をさばく羽鳥に「パパおそい」とボヤき、けっきょく食べずにロケは終了。困惑顔の羽鳥から「お父さんがカッコよくなるためには何やったらいい?」と尋ねられた娘は「スケート。4回連続で回転(ジャンプ)する」と即答し、制作サイドは「次は4回転ジャンプお願いします」のナレーションとテロップでオチをつけた。

スタジオに戻ると小峠が「ただ中年が魚をさばくだけの映像が延々と流れるっていう……」とボヤきをかぶせて終了。こちらもやはり自虐系の企画だった。

■コロナの女王・岡田晴恵登場の手探り感

3つ目は、白鴎大学・岡田晴恵教授へのオファー企画。コロナ解説で「昨年の番組出演は350本以上。上半期のテレビ出演数は女性部門1位」の岡田教授による「たぶん今、日本で一番受けたい授業 世界の偉人と感染症」が始まった。VTRは講演会の形式で、ほぼ笑いどころなし。「番組の幅がある」と言えばそうだが、これを見たいのは裏番組の『サタデーステーション』(テレビ朝日系)の視聴者だけではないか。唐突感がハンパなく、まだ番組が手探りである様子が生々しく伝わってきた。

最後の企画は、アインシュタイン・稲田直樹の「猫舌を克服して小籠包を頬張りたい」。「日本人の2人に1人が猫舌と言われ、悩んでいる人も多い」「稲田は食レポのとき熱々のまま食べられないため、おいしそうに見えない」という企画意図を説明。さらに櫻井が「猫舌を克服して小籠包を頬張りたい……その夢はわずか10分で実現した」と再びネタバレさせ、サムネイルが映し出された。

VTRに入ると、ミュージカル『キャッツ』風メイクの稲田、おかずクラブ・オカリナ、椿鬼奴の3人が登場。まずは熱々の湯豆腐を食べて悶絶する3人の顔で笑わせたあと、「猫舌アドバイザー」として口腔外科の医師が現れ、「本来、猫のように舌で迎えに行く食べ方のことを猫舌と言う」「舌の真ん中で食べればいい」というメソッドを紹介した。その甲斐(かい)あって稲田は3分、オカリナも5分で見事に克服。小籠包にも挑んでリアクション顔で笑わせつつ、「化け猫」のナレーションを入れて笑いを誘った。

最後に、次週放送予定の中条あやみ企画「字が上手くなりたい」、櫻井翔企画「自力で作ったケーキで誕生日を祝いたい」、ミルクボーイ企画「牛乳をろ過すれば透明になるのか」を紹介。やはり、当面はゆるい企画で押していくようだが、「何でもアリ」の路線でいくなら、それだけでなく「すごい」や「感動」をはさんで幅を感じさせなくていいのか、不安は残る。

その「何でもアリ」はYouTube的な路線だが、YouTuberたちの多くは「もっと気になること」や「もっとバカバカしいこと」を追求し、だからこそ視聴回数を稼げている。笑いの密度は「さすが日テレのバラエティ」と制作力の高さを感じさせたが、「ゆるさ」の解釈を間違えると中途半端な番組に終わってしまいかねない。

ただそれでも日テレは、当初の路線に縛られすぎることなく、エキセントリックに早期打ち切りもせず、視聴者ニーズを踏まえた軌道修正が巧(うま)いだけに、思わぬ長寿番組になる可能性もあるだろう。

■次の“贔屓”は…コロナ禍でも開催! 今や貴重な視聴者参加特番『全日本仮装大賞』

萩本欽一(左)と香取慎吾 (C)NTV

今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、6日に放送される日本テレビ系バラエティ特番『欽ちゃん&香取慎吾の第98回全日本仮装大賞』(19:00~20:54)。

今回で98回を数える放送回数が強烈だが、欽ちゃん&香取慎吾のコンビになってから20年目に突入という歴史もすごい。正直なところ年3回放送されていた80~90年代ほどの勢いはないが、貴重な視聴者参加特番で続けているのは確かだ。

今回はコロナ禍に伴い、VTRでの審査を勝ち抜いた25組が参戦し、賞金100万円を目指すという。『鬼滅の刃』やNiziUなどの時代を採り入れた仮装も予告されているが、どんな影響や変化が見られるのか。近づいてきた100回放送に向けてのポジティブな動きに期待したい。